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物流は国境を越えて──現地で見た変革の萌芽<中国上海視察レポート>

日中物流対話が映した、自動化の先の課題と共創

2025年11月4日 (火)

国際本誌主催・日本エストコンサルティング(東京都文京区)との共同企画によって実施した、中国国内物流の実態とグローバルサプライチェーンの最前線を知る、特別視察企画の体験記事第2弾を送る。

第1弾、アジア最大の物流展「CeMAT ASIA 2025」視察記事「自動化とスマート化が疾走する中国の最新ロジ事情」に続き、今回は同日の夜に上海市内で開かれた日中物流対話交流パーティーの模様を伝える。視察参加者と中国現地企業の物流関係者が率直に意見を交わし、国を越えた課題共有と文化交流が行われた。

効率と品質の狭間で見えた共通課題

交流パーティーの冒頭では、日中物流対話ミニフォーラムとして「日中物流の現場が直面する課題と共創の方向性」をテーマに、両国の物流分野を担う実務・経営層が率直に意見を交わした。中国側はPhoebus IoT Technology(フィーバス・アイオーティー・テクノロジー)総経理・朱力氏、日本通運のグループ会社であるNX上海eテクノロジー総経理・洪瑛氏、EC(電子商取引)とリアル店舗を融合したアリババグループが展開する生鮮スーパーマーケットの盒馬(フーマー)インテリジェントデジタル責任者・任瑞氏。日本側は長達也氏、野村不動産都市開発第二事業本部物流事業部副部長・宮地伸史郎氏、モデレーターはLOGISTICS TODAY赤澤裕介社長兼編集長が務めた。視察団参加者は、両国が共有し始めた課題と未来像に耳を傾けた。

冒頭、赤澤編集長は日本の物流課題の背景にある人口減少を指摘し、「中国も同じ段階に入りつつある」と述べた。短期的な対応ではなく、中長期の視野での連携こそが次の時代の物流を形づくるとの考えを示し、本対話をその第一歩と位置付けた。

「スピードとスケール」か、「品質と精度」か

朱氏は、中国市場の特徴を「スピードとスケール」と表現した。「日本が50-80年かけて築いた品質を、中国は20-30年で追いつこうとしている。完璧を求めるより、まず80点で走りながら改善する発想だ」と語る。任氏は、30分配送を実現する盒馬のモデルを紹介し、「店舗と後方倉庫を一体で運用し、見えない部分ではITが全体を制御している」と強調した。洪氏は、日本通運グループとして長年にわたり中国で基幹システム開発を担ってきた立場から、両国の構造的変化を指摘した。「日本の人件費高騰を背景にオフショア開発が進んだが、今や中国も人件費が上昇している。今後はAI(人工知能)や自動化で補う時代になる」。現場の人力依存を脱し、設計段階から自動化を前提にする動きは、日中双方の共通課題として浮かび上がった。

▲(左から)NX上海eテクノロジー・洪瑛氏、Phoebus IoT Technology・朱力氏、盒馬・任瑞氏

現場が機械に合わせる設計思想

宮地氏は、視察先で見た自動化現場の印象を「人が機械に自然に合わせにいく文化」と表現する。「高速で流れる商品の一部が落ちても、後段で拾い上げて補完する。機械の速度を軸に人が配置され、全体のリズムができている」と語った。一方で日本では、パレットやデータ規格の不統一が足かせとなり、熟練作業との比較論から議論が止まりがちだという。赤澤編集長は、「中国の標準パレットは12型」という誤解を例に挙げ、CeMAT展示会で実際に感じたこととして「実際は11型も広く使われている。思い込みを一つずつ剥がす作業が必要だ」と指摘した。日中の違いを単なる優劣ではなく、設計思想と意思決定のスタイルの違いとして捉える視点が共有された。議論は次第に、共通化とデジタル連携の実務的な課題へと移っていった。

▲(左から)LOGISTICS TODAY赤澤裕介編集長、長達也氏、野村不動産・宮地伸史郎氏

共通化と実装力の融合へ

長氏は、日本に足りないものとして「チャレンジ精神」と「デジタルネイティブ性」を挙げ、PDCAとOODAの併用を提案した。「現実を観察し、素早く試行して修正するOODA型の思考と、緻密なPDCAの両輪が必要だ」。また小売主導の「デマンドチェーン」構築が、サプライチェーンの高度化を進める鍵になるとも語った。宮地氏は、来春のCLO(物流統括管理者)制度化を踏まえ、「サイロ化した情報を横串で共有し、物理とデジタルの両面で共通化を進める時期にある」と強調。赤澤編集長も「速度を上げるデジタルと、精度を保つフィジカルの共通化こそが次の連携モデル」と締めくくった。

まだまだ議論が続きそうな熱気に包まれたが、初回となる今回は短時間のミニフォーラムとして幕を閉じた。一方で、本誌とCeMAT事務局との間では、来年以降、同展の枠組みのなかで日中物流対話を継続的に実施していく方向性を確認したことが紹介され、次回はより深い議論を行う方針が共有された。

「100点を求めず、共に成長する関係を」

日中物流対話ミニフォーラムの後は、参加者同士による懇親会が開かれた。業界や国境を越えた情報交換や名刺交換が活発に行われ、次回の訪問を約束する姿も見られた。一日の視察を振り返りながら、互いの課題や現場の工夫を語り合う声が途切れることなく続き、日中の物流を結ぶネットワークの芽が確かに育ち始めていることを感じさせた。

会の締めくくりに登壇したタクテック(東京都文京区)の山崎整社長は、朱氏が語った“70-80点で走りながら改善する中国スピード”に触れ、「完璧を求めすぎる日本に対し、まず世に出して磨き上げる文化は学ぶべき姿勢だ」と語った。自身が2000年代に中国で物流システム開発に携わった経験を踏まえ、「品質を高める努力を怠らず、スピードと改善を両立する企業とこそ協働したい」と強調。さらに「日中は距離も近い。上海出張を福岡出張のように感じられるほど、往来が自然になる日を願う」と述べた。最後は「100点を求めず共に成長する関係を築こう」と呼びかけ、力強い三本締めで会は結ばれた。

▲タクテック山崎整社長

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LOGISTICS TODAY編集部
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