
記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回はトラック輸送の実態共有、取引・労働環境改善へ議論(9月18日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)
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ロジスティクス2025年に成立・改正した「トラック適正化2法」や「中小受託取引適正化法」(取適法、改正旧下請法)は、物流業界に根深く残る課題にメスを入れるものとして期待が集まる。9月18日に開催された「第18回トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」では、これらの実効性をどう確保するかが最大の焦点となった。
今後の焦点は、変動コストを反映する「適正原価」の設計、発荷主や附帯業務に対する改正取適法の厳格な運用、そして法規制が及びにくい「中小・地方荷主」への周知徹底、直接取引関係のない「着荷主」の行為を独禁法でどう律していくかなど、相次ぐ法改正の「実効性」だ。
協議会では、時間外労働の年960時間規制の順守状況について、明るい兆しと根深い課題が同時に示された。全日本トラック協会が発表した「第2回2024年問題対応状況調査」では、960時間規制を「全ドライバーが遵守できる見通し」(63.4%)と「大多数が遵守できる見通し」(29.6%)を合わせ、93%が順守可能との見通しを示した。

▲時間外労働の上限規制は順守できる見通し(出所:全日本トラック協会)
しかし、改正改善基準告示を「守れていない基準」のトップは「1日の拘束時間」(54.1%)。その最大の原因として「荷待ち時間が長い、発生することが多い」が47.0%で最多となり、前回調査から順位を上げた。この実態は行政のデータでも裏付けられ、厚生労働省の報告では、2024年度の監督指導でトラック事業者の58.2%に改善基準告示違反が認められ、特に「最大拘束時間」(43.2%)の違反率が高かった。
もう一つの深刻な課題が「価格転嫁」だ。中小企業庁の調査では、コスト全般の転嫁率で「トラック運送」は36.1%と最下位(30位)に沈んだ。日本商工会議所の宮澤伸委員による調査報告でも「課題として大きいのは、物流コストの価格転嫁といった声が5割ほどある」との実態が示された。この低水準な価格転嫁が、ドライバーの賃金に直結する。
日本経済団体連合会(経団連)の鈴木重也委員は「運輸・通信業の賃金引上げ率は3%台ということで、他の産業に比べまして低い結果」と指摘 。全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)の坂井俊文中央副執行委員長(成田幸隆委員代理)も、春闘で1994年以降最高の妥結額ながら「産業間格差は縮まるどころか、さらに拡大をしている状況」と報告した。
全ト協の平島竜二委員は「優越的地位の濫用だと荷主に訴えたところで、仕事を切られるということにもなりかねない」と、交渉現場の力関係という根本的な問題を指摘した。

▲労務費の価格転嫁の状況(出所:経済産業省中小企業庁)
こうした状況の打開策として、協議会の議論は一連の法改正の実効性へと集約された。6月11日に公布されたトラック適正化2法について、全ト協の水野功委員は、坂本克己前会長の言葉を引き「仏作って魂入れずでは困る」と強調。「(燃料費や労務費など)変動する要素の大きいものを、どのように適正原価に反映していくか、というのは大きな議論のあるところ」 と述べ、業界の期待を背負い、適正原価の制度設計に「魂」を入れる作業が正念場であるとした。
また、平島委員は「3次請け、4次請けという声も裏では聞こえる」として委託次数制限の徹底を求め 、日本物流団体連合会(日物連)の河田守弘委員は「物流子会社の取り扱いについて、しっかりと関係を進めていく」と述べ、規制の影響が荷主やその物流子会社にも及ぶとの認識を示した。
26年1月1日に施行される取適法も焦点だ。公正取引委員会は、改正法で「発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引」が新たに対象になると説明。さらに、意見公募中の運用基準案では、トラック運送で問題となる無償の附帯業務を「不当な経済上の利益の提供要請」、振込手数料の受注側負担を「減額」 に該当するとして運用を厳格化する方針を明らかにした。

▲下請法の主な改正事項(出所:公正取引委員会)
法整備が進む一方で、現場からは規制が届きにくい領域への懸念が相次いだ。全ト協の馬渡雅敏委員は「(長距離輸送で)高速道路を使うのであれば、そのお金は自分で払ってくださいという案件が多く、なかなか荷主の理解を得られない」と窮状を訴え、さらに「依然として荷待ち時間が変わってない。門から敷地内に入ってこないでくださいと言われる荷主がまだいる」と実態を報告。「中小や地方の荷主は、(改正物流法を)全くご存知ないという声もある」と、法の認知度格差が実効性を阻害していると警鐘を鳴らした。
日本労働組合総連合会(連合)の漆原肇労働法制局長(冨高裕子委員代理)は「直接的な取引関係のない『着荷主と実運送事業者間で生じる課題』についても、法の趣旨を踏まえた対応が不可欠」と強調。これに対し公正取引委員会は、7月から再開した「企業取引研究会」で、独占禁止法の優越的地位の濫用規制の在り方を検討する方針だ。
学識経験者の齊藤実委員は、改正物効法の努力義務について「直接的な大きな効果をもたらすのは容易ではない」と分析し 、中小零細事業者への「バース予約システムの導入支援」や「パレット導入による物流標準化、デジタル化の推進を行う支援」など、規制と一体となったインセンティブの重要性を説いた。
全国交通運輸労働組合総連合(交運労連)の織田正弘委員は「月初、大型連休の前後、年末、年度末に多くの法令違反が発生しやすい環境になっている」と物量波動の問題を指摘。さらに「(求職者は)年間休日120日以上というところで就職先を検索するので、そもそも120日以下の会社の名前がピックアップされない」と述べ、全産業並みの労働条件、特に休日確保が人材確保の大前提だとした。
今回の協議会は、2024年問題が「未来の危機」から「現在の課題」へと移行した実態を明確に示した。全ト協の「93%が遵守見通し」というデータと、厚労省の「58%が違反」という現実のギャップは、まさに「荷待ち」と「価格転嫁」という構造問題が解決されない限り、法令順守が極めて困難であることの証左だ。
政府はトラック適正化2法や取適法という強力な処方箋を提示した。水野委員の言う「魂入れ」は、まさにこれからである。適正原価の具体的な設計、発荷主のみならず「着荷主」への実効性ある規制、そして馬渡委員が懸念した「中小・地方荷主」への周知徹底という「法の穴」をいかに埋めていくか。法は整備された。次はこの法をいかに執行し、業界の隅々にまで浸透させるかという、実効性のフェーズに移行する。(菊地靖)
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