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YEデジタル「倉庫起点のSCM革新」に論客集う

2025年12月1日 (月)

▲YEデジタル 玉井裕治社長

ロジスティクスYE DIGITALは11月28日、「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)・SCM(サプライチェーンマネジメント)改革」をテーマとした大型セミナー「物流革新サミット2025」を開催した。特にサプライチェーン(SC)のつなぎ目である「倉庫」改革を中心に、経済産業省、センコーグループホールディングス(GHD)、花王、ロジザード、ハコベル(東京都中央区)など、サプライチェーンの中核企業・行政・ソリューションベンダーが一堂に会して、多角的な議論を繰り広げた。YEデジタルの玉井裕治社長はこのセミナーを「新たなる連携のきっかけとなり、物流業界の発展に寄与する場となる」とあいさつした。

前半のセミナーには、経済産業省商務・サービスグループ物流企画室流通専門官の新井和樹氏、センコーGHD専務執行役員ビジネスサポート事業本部長の藤田浩二氏、花王のSCM部門ロジスティクスセンター物流DXグループマネージャーの田坂晃一氏が登壇。

新井氏は経産省の物流政策について解説。来年4月に迫った特定荷主事業者のCLO(物流統括管理者)選任に向けては、発荷主としてだけではなく、調達における着荷主としての立場でのCLOの役割も問われると訴えるとともに、多様な役割りを担うCLOが機能するには、サポートチーム体制などで実効性のあるものとすることも検証してもらいたいと呼びかけた。さらに、その先に目指すフィジカルインターネット(PI)実現へのロードマップも共有、それによってもたらされる経済効果は、2040年には11.9から17.8兆円との試算を示して、さらなる取り組みの推進を呼びかけた。

センコーGHDの藤田氏は、これまで10年間で大きく変容を遂げた具体例を引き合いに、10年後の物流の当たり前を疑うことから、10年後に向けた物流戦略を構築すべきという。自動化や働き方の変化が加速する物流の地殻変動に備え、SC全体を見据えた計画系の重要性についても強調。物流センターについては計画段階からロボットや装置の導入を視野に入れた設計を行い、荷姿や特性の近い製品をカテゴライズしたセンター構想が必要になるのではと提起。それには物流事業者自身もただ荷主に追従することなく独自の価格戦略を支えるマーケティング能力を高めていくことも重要と指摘した。

花王の田坂氏からは、デジタルデータを活用したSC自動化・最適化取り組みが語られた。メーカー物流だけではなく卸物流、小売物流までを統括する同社では、需要予測の精度向上を重視。SCMにおける需要予測技術開発の必要性を説く。同社ではAI学習モデルによって予測の難しい化粧品の需要予測では廃棄量削減などの具体的成果を示した事例も示された。

生産と物流機能を一体化した豊橋工場では完全自動化に取り組み、先進的ハードや制御ソフト運用による効率化を検証。卸物流の効率化には計画立案から改善活動までのPDCAサイクルを高速で回すことが必要と解説する。同社が目指すロジスティクスの姿として「サステナブルなコネクティッドロジスティクス」を目指し、競合他社や異業種との連携を通じて、物流ネットワーク全体の最適化を進めていることも紹介された。

前半の最終プログラムは、新井氏、藤田氏、田坂氏の3人に、フィジカルインターネットセンター事務局長の奥住智洋氏(JPIC)、日本3PL協会専務理事の加藤進一郎氏、モデレーターとしてLOGISTICS TODAYの赤澤裕介社長兼編集長が加わったパネルディスカッションが行われた。

テーマは、CLOの専任義務化とSC変革における荷主企業の行動変化について。CLOのカウンターパートとなるLPD(ロジスティクス・プロデューサー)の必要性(奥住氏)、米国と比較して、日本では企業の役員スキルマトリックスにCLOが含まれていないことが物流の地位の低さを示しているとの指摘(加藤氏)や、行政でも横連携でSC可視化に取り組んでいること(新井氏)などの変化も示された。物流コストの最適化には上位機能からの見直しが必要であり、CLOには大きな権限が必要であること(藤田氏)、CLOにこだわりすぎず、組織設計こそ重要と指摘する意見もあった。

フィジカルインターネットの実現に向けて、デジタル技術の活用や共創の重要性、データ活用によるコミュニケーションの重要性と、経営指標の改善につながる物流の役割についても共有された。日本の優れた物流サービスには対価が必要という認識を高めることも重要との提言や、経営者が現場に足を運ぶことの重要性、生成AIの進歩のインパクトについても言及された。新井氏は、荷主事業者の物流への関心が進んでいる一方でまだ課題もあり、経産省として運送業界の意見にも耳を傾けて政策立案していくことが必要と語った。

▲前半のパネルディスカッションの様子

セミナー後半にはシステムベンダーの観点から登壇各社の取り組みを紹介。YE DIGITAL物流DXシステム本部副本部長の浅成直也氏、ロジザード執行役員企画営業部長柿野充洋氏、ハコベル物流DXシステム事業部マーケティング室室長の渡辺健太氏から、それぞれの展開するソリューションがサプライチェーン改革にどう貢献するかを解説。10年後に向けてシステムベンダーの果たすべき役割像や、法改正など変化する物流のなかでのDX(デジタルトランスフォーメーション)、データ運用の必要性が語られた。

浅成氏、柿野氏、渡辺氏が参加したパネルディスカッション「倉庫DXを起点とした物流/SCM革新」では、WES(倉庫運用システム)、WMS(倉庫管理システム)、TMS(輸配送管理システム)を展開するそれぞれのソリューションベンダーの立場からSCM改革が提起された。

倉庫領域内ではシステム同士の連携などもの検証が進む一方、バース領域の効率化や輸送領域との連携が不足している状況などを議論。輸配送領域だけでも運送会社が持つ車両の動態情報と荷主が持つ貨物情報が分断されているのが現状であり、これらを連携することで新たな効率化の切り口が生まれるのではとの模索がようやく始まった状況という。

WES、WMS、TMSそれぞれで蓄積したデータは今後、自動運転トラックなどの先進技術にも貢献し得るはずだが、一方でユーザーがデータを広く使いたいという意欲に欠ける、必要に駆られていないことなども倉庫起点で輸配送をつなぐ連携が進まない一因と指摘された。また、技術的には可能な効率化連携でも、商習慣などがボトルネックになっている事例も共有された。フィジカルインターネットの世界ではこれまでの当たり前が見直され、連携しやすさや標準化しやすさを基盤にした運用や、商品カテゴリーごとの物流センター運営なども想定されるとの意見が交わされた。

倉庫内の機能を突き詰めることと外部との連携を同時並行で進めることの重要性(柿野氏)、先進的な事例から学び、それをほかの企業に提案し、新たなニーズを拾い上げるサイクルの重要性(渡辺氏)、人と人のつながりを基盤としたシステム連携の重要性(浅也氏)に加えて、モデレーターの赤澤編集長からはITベンダーが連携への強い意志を示し、ユーザーにフィードバックしてSC改革の機運を醸成していくことが重要と締め括った。

4時間半に及ぶ議論を終えてYE DIGITAL常務執行役員IoT事業統括兼物流DXシステム本部長の竹原正治氏は、多様な領域の人々が集まる場だからこそ得られる新たな気づきと交流が、サプライチェーン最適化の糸口となることに期待を寄せた。(大津鉄也)

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