国際ドナルド・トランプ米大統領は14日、ホルムズ海峡の通航確保に向けて日本、中国、フランス、韓国、英国の5か国に軍艦の派遣を求めた。19日にワシントンで開かれる日米首脳会談でも海上自衛隊の派遣が議題になる見通しだ。だが15日時点で、米軍による商船護衛の実績はゼロ。軍艦が来ても商船が通れるかは別の問題で、再開までには保険、機雷、護衛の3つの壁がある。そこにUAE・フジャイラへの攻撃という新たな制約が加わった。(編集長・赤澤裕介)
米軍は14日、イランの原油輸出拠点カーグ島に対し大規模な精密攻撃を実施した。米中央軍(CENTCOM)は公式声明で「90か所以上の軍事目標を攻撃し、機雷貯蔵施設とミサイル貯蔵バンカーを破壊した。石油インフラは温存した」と発表した。
トランプ大統領は「礼節上の理由から石油インフラは壊さなかった」とした上で、「イランがホルムズ海峡の自由通航を妨害するなら、即座にこの決定を見直す」と警告した。石油インフラを「人質」に取り、海峡の開放を迫っている。
一方でトランプ大統領は同日、護衛の枠組みについて方針を転換した。「米国は沿岸部への爆撃とイラン艦艇の撃沈を続ける。海峡の安全確保は各国がやるべきだ」と投稿し、日本を含む5か国を名指しで挙げた。攻撃は米国、護衛は各国という役割分担を鮮明にしている。
ホルムズ海峡の商業通航が再開するには、少なくとも3つの条件がそろう必要がある。15日時点で、いずれも満たされていない。
1つ目は保険だ。国際P&Iクラブ12社は5日付で戦争危険の補償を一斉に取り消した。事前承認と料率合意がなければカバーされない個別引受制に移行しており、買い戻し料率は危機前の最大5倍に跳ね上がっている。海峡を物理的に閉じなくても、保険を止めれば商船は止まる。米国が6日に発表した200億ドル規模の再保険プログラム(米国際開発金融公社=DFC)も、制度はできたが実際にこの保険で通航した商船はほぼ確認されていない。適格条件の詳細もDFCは公表していない。護衛が始まっても、保険市場が動かなければ船社は船を出さない。
2つ目は機雷だ。CENTCOMは10日にイランの機雷敷設艦16隻を排除し、14日のカーグ島攻撃では機雷貯蔵施設を破壊した。新たな敷設能力は削がれたとみられるが、海峡内にすでに敷設された機雷の数量は公開情報で確認できない。掃海完了や安全宣言も出ていない。英海事情報統合センター(JMIC)は12日時点で脅威環境を「クリティカル」と評価し、安全な通航再開には「計画的かつ段階的な手順」が必要だとした。米海軍はバーレーンに配備していた掃海艦4隻を2025年に退役させており、ペルシャ湾での即応掃海能力に空白がある。米軍の分析では、海峡全体の安全確認に最短で2-3週間を要するとされる。
3つ目は護衛体制だ。米軍による商船護衛は15日時点で一件も確認されていない。ホワイトハウス報道官は10日、護衛が未実施であると説明している。唯一の実績はインド海軍で、12日に自国のLPG(液化石油ガス)タンカー2隻をホルムズ海峡経由で護衛通過させた。米海兵隊の増援部隊(第31海兵遠征隊)を乗せた強襲揚陸艦「USSトリポリ」は13日時点でフィリピン海を西進中で、中東到着は3月下旬の見込みだ。
海峡が開いても、物流はすぐには戻らない。通航再開から物流正常化までには4つの段階がある。
2024年の紅海危機でも、フーシ派の攻撃が収まった後にスエズ運河経由の定期航路が元に戻るまで数か月を要した。ホルムズ危機は紅海以上に構造が深い。オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)のジェレミー・ニクソンCEOは業界カンファレンスで「世界のコンテナ船腹の10%がこの状況に巻き込まれている」と述べた。コンテナ船はすでに他航路に再配置され、主要船社は湾岸向けの予約の停止や大幅制限に動いている。海峡が開いた瞬間に荷物が動き始めるわけではない。
3つの壁に加え、14日にはさらに重要な事実が加わった。海峡を通らない出口が攻撃されたことだ。イランがUAEのフジャイラ、ドバイ、アブダビ近郊の3港を攻撃目標と宣言し、フジャイラでは無人機攻撃を受けて一部の油積み作業が止まった。
フジャイラはホルムズ海峡を迂回するUAEの生命線でもある。アブダビ産原油を運ぶハブシャン・フジャイラ・パイプラインの終点で、能力は日量150万バレル。25年には日量170万バレル超の原油と石油製品を輸出していた。14日朝の攻撃では迎撃破片による火災で一部の積み込みが停止し、15日時点でUAE当局やアブダビ国営石油会社(ADNOC)による全面再開の公式確認は出ていない。
イラク北部の製油所も同日ドローン攻撃を受けて操業を停止した。攻撃対象はホルムズ海峡だけでなく、湾岸のエネルギーインフラ全体に広がっている。「海峡を通れるか」だけでなく「通らずに出せる港が安全か」が焦点になっている。
封鎖が続くなかで、海峡を通れる船と通れない船の線引きが鮮明になりつつある。3月1日から11日までの通過実績は77隻。前年同期の1229隻から94%減った。大半はいわゆる「影の船団」、ロシア制裁回避などで使われる非標準的な保険・運航形態のタンカー群だ。インド海軍は12日、自国のLPGタンカー2隻を護衛して通過させた。トルコは15隻中1隻がイランから通航許可を得た。中国関係船はAIS(船舶自動識別装置)上で「CHINA OWNER」と表示しながら通航を続けている例が報告されている。公開情報で確認できる範囲では、日本関係船がこの「例外」に含まれている形跡はない。海峡は閉じていない。だが正常な海運は止まっている。

▲ホルムズ海峡封鎖と湾岸エネルギーインフラ(3月15日時点、クリックで拡大)
ドバイ128ドル、日本の調達を直撃
原油価格はカーグ島空爆を受けて再び上昇した。14日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)終値は98.71ドル、ブレントは103.14ドル。ブレントは2日連続で100ドルを超えた。
荷主が注目すべきはドバイ原油だ。日本の原油調達はドバイ指標に連動する。そのドバイ原油(Platts先物)は13日時点で127.86ドルをつけた。WTIやブレントを25ドル上回る。通常はブレントがドバイより高いが、現在はドバイがブレントを10ドル以上逆転している。ホルムズ海峡経由の中東産原油が物理的に手に入らないことを反映した供給途絶プレミアムだ。WTIやブレントの水準だけを見ている荷主は、自社の調達コストを過小評価している可能性がある。
国際エネルギー機関(IEA)は3月の月報で、ホルムズ海峡経由の原油・石油製品輸出が開戦前の日量2000万バレルから激減し、湾岸産油国が日量1000万バレル以上の減産を余儀なくされていると分析した。世界の石油供給は3月に日量800万バレル減少する見通しで、IEA史上最大の供給途絶となる。
影響は原油だけではない。世界のLNG(液化天然ガス)輸出の2割がホルムズ海峡を経由する。カタールはフォースマジュール(不可抗力)を宣言してLNG生産を停止しており、アジアのLNGスポット価格指標(JKM)は一時2倍以上に急騰した。LNGは原油より在庫が薄く、電力価格への波及は石油より速い。日本のLNG輸入に占めるホルムズ経由の割合は1割前後だが、スポット市場で欧州やアジア各国と争奪戦になれば電力コストへの波及は避けられない。本誌が先に報じた通り、倉庫の電力費比率は一般倉庫で15-20%、冷凍冷蔵倉庫で30-40%に達する。燃料サーチャージは即座に届くが、LNG高騰による電力費の上昇は数か月のタイムラグを経て倉庫や物流拠点の固定費を押し上げる。
日本政府は16日から民間備蓄15日分の放出を開始し、3月下旬からは国家備蓄30日分を放出する。合計45日分、8000万バレルは過去最大の規模だ。19日からはガソリン価格を全国平均170円程度に抑える激変緩和措置も始まる。4月1日には軽油引取税の暫定税率(17.1円/リットル)が廃止される。
だが備蓄放出は供給が途絶えている間の時間稼ぎであり、価格を元に戻す力はない。保険と港湾の安全が戻らない限り、物量は回復しない。LNGや石化原料のように在庫が薄い分野から先に影響が出る。海峡が開かないまま4月に入れば、石油化学やエネルギー産業への直接的な供給制限が視野に入る。
3月19日の日米首脳会談では、日本がどの法的枠組みで、どの段階まで関与できるのかが問われる。高市早苗首相は12日の衆院予算委で「停戦合意前に機雷除去のために自衛隊を展開することは想定できない」と答弁している。19年にホルムズ海峡の有志連合(IMSC)への参加を求められた際も、日本は「調査・研究」名目の独自派遣にとどめた。備蓄放出で稼げる時間には限りがある。19日の首脳会談で通航再開への道筋が示されるかどうかが、次の焦点だ。
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