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船社の請求書、何が上乗せされたのか

2026年3月14日 (土)

ロジスティクスホルムズ海峡の封鎖から2週間。コンテナ船大手5社が相次いで緊急サーチャージを導入した。荷主の請求書には紛争サーチャージ、緊急燃料サーチャージ、運航変更費用が3層に積み上がっている。名称も適用範囲も船社ごとに異なり、フォワーダーからの見積書だけでは全体像が見えにくい。何が新設で、何が既存の料金と重なるのか。荷主が週明けに確認すべきポイントを整理した。(編集長・赤澤裕介)

40フィート1本で4000ドル超の上乗せ

今回の請求書が読みにくいのは、緊急費用が3層で積み上がるからだ。紛争サーチャージ(中東向け限定)、緊急燃料サーチャージ(全航路)、迂回・保管・寄港変更に伴う運航変更費用(中東向け中心)が同時に適用される。

40フィートドライコンテナで試算すると、紛争サーチャージ3000ドル(CMA CGM基準)、燃料サーチャージ320ドル(ONEの160ドル/TEU×2TEU)、迂回費用800ドル(MSC基準)で4120ドルの追加負担になる。冷凍コンテナでは紛争サーチャージだけで4000ドルに達し、燃料サーチャージ420ドル前後(ONEの210ドル/TEU×2TEU)、迂回費用800ドル、さらに複合輸送や保管延長の費用が加われば6000ドル規模に届く。

2024年のアジア-中東間40フィート運賃は、スポット市況で1万2000-1万5000ドル前後まで上がった時期があった。今回の追加コスト4000-6000ドルは、その3-5割に相当する。

21年のスエズ運河座礁では運賃の急騰が中心だった。24年の紅海危機では戦争リスク保険料と迂回コストが加わった。今回は別名目の追加料金が多層で同時に積み上がっている。

3層の詳細に入る前に、週明けに確認すべき実務ポイントを先に示す。

▲週明けに確認すべき請求項目と確認の要点(クリックで拡大)

以下、請求書に載る3つの費目を順に分解する。

第1層は紛争サーチャージだ。封鎖が始まった3月2日前後に各社がほぼ同時に導入した。中東向け・中東発の貨物に限定して適用される。CMA CGMは「緊急紛争付加料金」として20フィートドライコンテナで2000ドル、40フィートで3000ドル、冷凍コンテナ・特殊機器で4000ドルを設定した。ハパックロイドは「戦争リスク付加料金」として1TEU(20フィートコンテナ換算)あたり1500ドル、冷凍コンテナ・特殊機器で3500ドルを導入している。APモラー・マースクは「緊急運賃増額」として20フィートで1800ドル、40フィートで3000ドル、冷凍コンテナで3800ドルを適用した。

名称だけでなく、適用対象の地理的範囲も船社ごとに違う。CMA CGMはイラク、湾岸諸国に加えてヨルダン、エジプト(アインスフナ港)、ジブチ、スーダン、エリトリアまで含めた。ハパックロイドはアッパーガルフ、アラビア湾、ペルシャ湾が対象で、紅海側は含まない。マースクはUAE、カタール、サウジアラビア(ダンマン・ジュベル)、バーレーン、クウェート、イラク、オマーン(ソハール)を対象とし、サラーラは除外している。

荷主にとって重要なのは、これらの紛争サーチャージが「すでに海上にある貨物」にも適用される点だ。3社とも、2日以降の予約で未出荷の貨物だけでなく、すでに船に積まれているが対象国で揚げ荷・積み荷が済んでいない貨物にも適用すると明記している。船荷証券発行済みの貨物に対する追加課金がどの約款条項に基づくのか、荷主は自社の契約書面で確認しておく必要がある。

マースクは緊急運賃増額について「対象港で積み替えるだけの貨物には適用しない」と明記している。中東のハブ港を経由するだけで最終仕向地が中東以外の場合、この費用は本来かからない。だがフォワーダーの見積書では、最終仕向地に関係なく経由港ベースで料金が反映されることがある。

▲主要船社の紛争サーチャージ(クリックで拡大)

次に第2層の緊急燃料サーチャージ。第1層が中東向け限定なのに対し、燃料サーチャージは全航路に適用される。3月中旬から下旬にかけて5社が順次導入する。この費目が荷主にとって最も注意を要する。理由は、既存の燃料関連料金に上乗せされる構造にあるからだ。

マースクは10日、「緊急バンカーサーチャージ」を3月25日から全航路に適用すると発表した。同社は既に「化石燃料料金」(FFF)という燃料関連料金を徴収しているが、緊急バンカーサーチャージはFFFでカバーしきれない燃料調達・配船コストに対応するための追加料金だと説明している。つまり既存のFFFと新設の緊急バンカーサーチャージは並存する。同社は14日ごとに見直すとしており、上下両方向に調整する方針だ。

オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は24日から「緊急燃料サーチャージ」(EFS)を導入する。幹線航路の往路方向でドライ160ドル/TEU、冷凍コンテナ210ドル/TEU。復路方向はドライ80ドル/TEU、冷凍コンテナ105ドル/TEU。域内航路も復路と同額の設定だ。

ハパックロイドも23日から緊急燃料サーチャージを導入する。幹線の往路方向でドライ160ドル/TEU、冷凍コンテナ225ドル/TEU。復路・域内航路はドライ70ドル/TEU、冷凍コンテナ100ドル/TEUだ。同社は既存の「燃料費回収料金」(MFR)でカバーできない異常な燃料コストに対応する料金だと説明している。

CMA CGMは16日から緊急燃料サーチャージの適用を開始した(一部航路は23日から)。MSCも16日から航路別に56-200ドル/TEUの緊急燃料サーチャージを導入している。

▲主要船社の緊急燃料サーチャージ比較(幹線・往路方向基準)(クリックで拡大)

なお米国の連邦海事委員会(FMC)は12日、サーチャージの規制遵守に関する声明を出している。米国規制下の貨物については不当な増額が禁じられており、ハパックロイドが米国向けの適用を4月8日に遅らせ、ONEが4月9日に設定しているのはこの規制への対応だ。日本発着の貨物には直接適用されないが、米国向け貨物を扱う荷主は留意が必要だ。

第3層は迂回・保管・寄港変更に伴う運航変更費用だ。ここが最も不透明になりやすい。

マースクの緊急運賃増額には代替ルートの手配と一時保管(14日分)が含まれている。同社は3月11日の運航アップデートで、中東向け貨物について「代替ルート、保管場所の確保、追加チャーター」のコストを含むと説明した。21日までに荷主から指示がなければ、航海の終了を通告するとも記載している。

ハパックロイドは、ジュベル・アリなど特定港への寄港を省略し、インドのムンドラから代替投入する措置をとっている。港ごとに追加サーチャージが導入される可能性があると案内済みだ。MSCは800ドル/コンテナの迂回費用を別途設定している。

CMA CGMは11日、イラク、クウェート、カタール、バーレーン、サウジアラビア、UAE向けの予約を再開したが、湾岸港への直接寄港をやめ、フィーダー船やトラックを使った複合輸送での配送に切り替えている。この代替輸送コストが既存の紛争サーチャージに含まれるのか、別建てで請求されるのかは個別の契約による。

請求書に載る金額の外にもコストは広がる。喜望峰経由への迂回で輸送日数が10-14日延びれば、荷主側では在庫の積み増しや欠品対応が必要になる。倉庫の保管費用、運転資金の増加、納期遅延の補償といった間接コストは、船社の請求書には現れない。

本誌が3月14日に掲載した陸運向けの燃料サーチャージ記事(※)では、国交省が定めた基準価格120円/Lからの5円刻み改定表を示した。トラック運賃には国が定めた計算式がある。海運にはそれがない。だからこそ、請求書の中身を1行ずつ読む必要がある。

軽油急騰、サーチャージいまどの区分か

船社のサーチャージは今後も短い周期で変動し得る。マースクの緊急バンカーサーチャージは14日ごとの見直しを明言しており、他社も「情勢が変われば調整する」としている。参考までに、20フィートドライでも紛争2000ドル+燃料160ドル+迂回800ドルで2960ドルの追加負担になる。

荷主に必要なのは、見積書と請求書の費目を分解し、どこまでが既存料金で、どこからが危機対応の上乗せなのかを書面で押さえることだ。

ホルムズ危機が始まって2週間。海からのコスト増は、陸の軽油高騰とは別の経路で、しかし確実に荷主の損益に届き始めている。

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