ロジスティクス関通、アサヒグループホールディングス、アスクル──。物流・流通を担う企業がサイバー攻撃を受け、業務停止や混乱に直面する事例が近年相次いでいる。いずれも単なるシステム障害ではなく、受注停止や出荷遅延、取引先対応にまで影響が及び、物流が社会インフラであることを改めて浮き彫りにした。
共通しているのは、「攻撃を受けたこと」そのもの以上に、その後の対応で苦慮した点だ。どこまで侵入されたのか分からない。業務再開の判断ができない。社内で意思決定が止まる──。サイバー攻撃は、物流機能だけでなく、判断と統制の仕組みそのものを揺さぶる。
こうした物流を脅かす深刻な事態が、近年そして直近でも現実の被害として顕在化している状況を受け、本誌は19日、緊急オンラインイベント「物流、非常警戒時代―迫る火災とサイバーの脅威―」を開催する。イベントでは、相次ぐサイバー攻撃の実態に加え、アマゾン倉庫火災をはじめとする火災リスクにも触れ、物流インフラを同時に脅かす2つの脅威を俯瞰する。単なる情報整理ではない。いま何が起きているのかをいち早く捉え、物流に関わる立場として「非常警戒」の認識を共有するための緊急開催だ。
被害後の対応で分かれる「初動の差」

▲東京海上日動火災保険 教学大介氏
今回のイベントに登壇する、東京海上日動火災保険 火災・企業新種業務部 サイバー室 専門次長の教学大介氏は、本イベントを本誌と企画する過程で、相次ぐ被害事例に共通する構造的な課題に繰り返し言及してきた。
教学氏が強調するのは、被害発生後の初動で企業ごとの差が明確に表れるという点である。サイバー攻撃を受けた企業の中には、原因調査や復旧判断に進む前に立ち止まってしまうケースがある。誰に相談すべきか分からない。何を基準に判断すればよいか整理できない。その結果、対応が長期化し、影響が拡大する。
このような状況は、決して特殊な事例ではない。なぜその差が生まれるのか。その背景や構造については、イベント本編で語られる予定だ。
企業セキュリティー水準が「格付け」される時代が始まる
現場で露呈している課題と並行して、制度環境にも大きな変化が動き始めている。経済産業省は2025年4月、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」に関する中間取りまとめを公表した。サプライチェーン全体の強化を目的に、企業の情報セキュリティー対策を段階的に評価・可視化する枠組みを整理したもので、2026年度の制度開始が見据えられている。
現時点で法的義務を課す制度ではないものの、企業のセキュリティー対策が「やっているかどうか」ではなく、「どの水準にあるのか」という形で見られる流れが強まることは避けられない。取引先やサプライチェーン全体の中で、事実上の“格付け”として受け取られる場面が生じる可能性もある。物流や倉庫、3PLといった事業者は、サプライチェーンの結節点に立つ存在だ。情報セキュリティーはIT部門だけの問題ではなく、事業継続や取引の前提として、どのように向き合っているかが問われるテーマになりつつある。
「防げるか」ではなく、「どう備えるか」
サイバー攻撃は、完全に防ぐことが難しいリスクである。重要なのは、被害を前提としたうえで、どこで立ち止まらずに判断できるか、どこまで影響を抑え、どう立て直すかという視点だ。
本イベントでは、相次ぐサイバー被害の実態と、制度環境の変化という2つの軸を踏まえながら、教学氏とともに、これからの企業に求められる備えや考え方を掘り下げていく。企業のセキュリティー対策が「ある・ない」で語られる時代から、水準と姿勢そのものが問われる時代へ──その転換点を捉える場となりそうだ。
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