ロジスティクス朝は銀座でコーヒーを楽しみ、昼はパリの石畳を歩き、夜はシドニーの波音を聴く──そんな暮らしが、絵空事ではなくなりつつある。2040年実用化を目指す「次世代型宇宙港」(NSP)構想が、いま日本で静かに動き出した。
この構想を率いるのはスタートアップ企業の将来宇宙輸送システム(ISC、東京都中央区)。2024年8月、三井不動産、三菱倉庫、鹿島建設、商船三井、日本郵船など17社と1大学が集結して船出となった。この布陣について、同社ビジネス部宇宙港Gr.グループリーダーの野沢茂雄氏は「オールジャパン体制」と呼ぶ。25年10月までに22回の議論を重ね、次世代型宇宙港は発射場の域を超えた。
「商業、娯楽、エネルギー、防災、多機能を併せ持つ複合拠点として練り上げた。宇宙へ発つ者以外も、多様な目的で人が集う場所。そんな未来の玄関口を描いている」と野沢氏は語る。

▲アジア最大級の宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2025」内で、ワーキンググループ(NSP-WG)の報告会を開いた(出所:将来宇宙輸送システム)
段階的に進化するASCAロードマップ
NSP構想の核は「ASCAプロジェクト」という段階的ロケット開発だ。第一幕(22-28年)は「ASCA hopper」(垂直離着陸の飛行実験機)で地を固め、「ASCA1」で100キロ級衛星を軌道へ送る。第二幕(28-32年)は「ASCA2」で人を宇宙へ運ぶ。第三幕(32-40年)ではブースターを捨てず機体ごと帰還する完全再使用型単段式宇宙往還機(SSTO)「ASCA3」を定期便として飛ばし、構想は結実する。
ASCA3は全長39メートル、直径7.7メートル、全幅21メートル。全備重量616トン、乾燥重量56トンと最大限の軽量化を図る。50人と10トンの物資を一度に運ぶ。地球周回軌道(高度400キロ)への投入も、地球上の任意地点への輸送も射程に収める。空飛ぶバスではない。宇宙と地球を結ぶ定期便と呼ぶ方が的確だろう。
注目すべきは一日数往復の運用だ。従来のロケットは打ち上げごとに部品を海へ捨てた。回収しても分解整備と再組み立てが必要だった。ASCA3は機体ごと帰還する。「飛行機と同じ。回収も整備も最小限で済み、燃料を満たせばすぐ次の便として発てる。この回転の速さが輸送費を削る」という野沢氏の解説が小気味よい。
機体はまるごと持ち帰るため宇宙ごみは生まれない。飛行機が燃料タンクを空に落とさぬように、ASCA3も何ひとつ捨てずに帰還する。当たり前の発想が、実は最大の革新でもあるのだ。
地球の裏側まで1時間、P2Pが変える物流
NSP構想の核心は、地球上の任意の2地点を1時間で結ぶ「P2P輸送」にある。かつて、超音速旅客機コンコルドは大気の壁に阻まれ、マッハ2が限界だった。だがロケットは大気圏を抜け、真空の宇宙空間を駆ける。「桁違いに速い。抵抗がない。地球の裏側まで理論上60分で着く」と野沢氏。まるで水面を突き破って跳ねるトビウオのような機動力だ。

▲将来宇宙輸送システムビジネス部宇宙港Gr.グループリーダーの野沢茂雄氏
ロケットが駆け抜けるのは「サブオービタル」と呼ばれる準軌道空間だ。宇宙ステーションが周回するオービタルの下、大気圏の上。この隙間を滑るように飛べば、空気抵抗もなく地球の裏側に1時間ほどで到達する。
P2P輸送は荷物が先だ。野沢氏が真っ先に挙げたのは医療・メディカル分野だ。一刻を争う現場では、この速度が救いとなる。また、生鮮食品も視野に入る。「だが、いきなり人は乗せない。まず荷で実績を積み、数字で安全を示すことになるはず」と野沢氏。旅客はその先という。
港と空港を融合した次世代拠点
NSP構想は陸と海、2つの顔を持つ。陸上には東京ディズニーリゾート2パーク分の敷地を押さえ、ロケット整備からエネルギー、防災、物流、旅客ターミナルまで一気通貫で配する。ASCA3の燃料は液体水素、液体メタン、液体酸素の3本立て。貯蔵も供給も安全管理も一筋縄ではいかない。ここでは、燃料のプロたちが腕の見せ所となる。

▲2040年代の完成を想定した次世代型宇宙港の模型
陸上は発射台だけではない。「宇宙港から文化と産業を」の旗を掲げ、商業施設、劇場、ホテル、教育施設、防災拠点を束ねた複合体へと進化する。沖合100キロには2隻の船。一隻は発射船、もう一隻は出発前の静かな時を過ごす洋上ラウンジだ。セキュリティーから医療、避難設備まで揃え、陸と海で二重の安全網を張る。
陸上整備を終えた機体を船で沖合まで運び、帰りは滑走着陸で陸へ。この循環を1日数度で定期化する。まるで通勤電車のダイヤのように宇宙便を回す算段だ。

▲宇宙へ飛び出すASCA3の模型
地域創生と多様な収益モデル
NSP構想の経済効果は大きい。初期投資は2兆5000億円。年間収支は収入6300億円、費用6100億円で、200億円の黒字を見込む。経済波及効果は建設段階で1兆5000億円、事業活動で3400億円。雇用創出は9万3000人と試算する。
収益の柱は3つ。ロケット打ち上げと旅客・物流輸送という本業に加え、商業施設やホテル、エンタメが集う陸の賑わい、そして企業研修やイベント誘致といった外部との協働。空へ飛び立つ力と、地に根ざした営みが両輪となる。
2026年、第2期ワーキンググループが始動
26年4月、第2期ワーキンググループの幕が開く。陸も海も、設備の細部から法規制まで詰める段階に入る。とりわけ洋上発射は世界に前例が乏しく、知恵の絞りどころだ。さらに、本業の宇宙輸送だけに頼らない収益構造を練る。地域と手を組み、資金を循環させる仕組みをどう築くか。そこに宇宙港の命運がかかる。
「宇宙を産業の柱にする。技術開発で終わらせず、新しい産業を興す。もっと多くの企業に参画してほしい。業種は問わない。ワーキンググループに加われば、自社の枠を超えた知恵が手に入る。一社で完結する時代はとうに過ぎた。多様な企業、多彩な人材が手を組んでこそ、この構想は現実になる」と野沢氏が言葉に思いを込める。
2040年、宇宙は特別な場所ではなくなる。野沢氏たちの歩みは、その未来への静かな確信に支えられている。
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。
LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com
LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。
ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。














