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障がいなどの個性、多様性を力に変えるZOZOの物流現場設計

ZOZOBASEが実装する、可能性育む人材活用

2026年1月8日 (木)

アパレル茨城県つくば市に立地する物流施設「ZOZOBASEつくば2」。アパレルEC(電子商取引)ZOZOを支えるこの拠点では、マテハンや省人化といった設備投資だけでなく、「人の力」をどう引き出すかという視点から、独自の現場づくりが進められている。障がいの有無にかかわらず、同じ現場で、同じ仕事に挑み、それぞれの力を発揮する。その思想を支えているのが、障がい者雇用を推進する支援部の存在だ。

支援部の立ち上げは2021年。背景には、法定雇用率への対応という企業としての責任があった。ただ、フルフィルメント本部支援部就労支援ブロックブロック長の西奈津希氏は当時を振り返り、「単なる制度対応で終わらせるつもりはなかった」と語る。

「物流拠点の業務は単調作業も多く、工程も分かりやすい。だからこそ、さまざまな特性の方がフィットできる可能性があると考えた」(西氏)

▲ZOZO 西奈津希氏

物流という“現場”を、多様な人材が力を発揮できる舞台として捉え直す。ZOZOBASEの取り組みは、ここから始まった。

支援部の立ち上げメンバーには西氏含め3人が指名された。西氏が選ばれた理由はなんだったと思うかと問うと、誰にでもフラットに接することができるところではないだろうか、と自己分析する。自身、この業務が合っているといい、西氏もまた、その個性を仕事に生かしている一人なのだといえる。

制度対応から「力を生かす現場」へ

ZOZOは、個性を尊重し、「みんな違うけど、みんな一緒」という方向性を共有する基本理念「ZOZOBASE NORMALIZATION」を掲げる。誰もが個性豊かなファッションを楽しめるように、業務現場でもお互いの個性を理解・尊重し、多様性を大切にすることこそが、ファッションECをけん引する企業としての使命でもある。

▲庫内に掲出されている「ZOZOBASE NORMALIZATION」ポスター。7種をつなげると美しいグラデーションが完成する。

西氏らは、障がい者雇用でこの理念を実践し、企業文化の醸成に取り組んだ。立ち上げ初期には、採用や適性運用以前に、障がい者雇用に力を入れたいという方向性自体が、地域にほとんど知られていない状況だったと振り返る。

まずは、近隣の障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、特別支援学校などを一つ一つ訪ね、ZOZOの“本気”を伝えるところからのスタートであり、「まずは知ってもらわないと始まらない。そこに一番時間をかけた」(西氏)という。

人が集まるかどうかは、求人票だけでは決まらない。特に障がい者雇用においては、支援機関や学校との信頼関係がなければ、就業希望者の紹介ももらえない。大型物流拠点というと無機質で威圧的なイメージを持たれがちなだけに、実際に現場を見てもらい、入社前の職場実習などを通して、「ここで挑戦してみたい」という感触を共有していくことに力を入れることからスタートした。

同じKPIへ導く、見極めと並走の設計

ZOZOBASEの特長の一つが、「障がい者向けに業務を切り出さない」という原則だ。障がいのあるスタッフも、健常者と同じチームに入り、同じ作業に就く。目標となるKPIも基本的には同じである。

ただし、最初から生産性だけを求めることはしない。入社後3か月を1つの見極め期間とし、勤怠の安定性や業務のマッチ度を確認する。その間、月1回の面談を通じて本人と丁寧に対話を重ねる。

「目標はいっしょ。ただ、いきなりそこを求めるのではなく、まずは安定して働けるか、業務が合っているかを見る。そこを並走しながら判断していく」(西氏)ことで、定着率も上げていった。

面談で話題に上るのは、業務の進ちょくだけではない。仕事を始めたことで生活リズムにどんな変化が出ているか、家に帰ってからの疲労感はどうか。会社からは見えにくい部分を丁寧に拾い上げ、必要があれば支援機関とも連携する。

「会社だと見えない部分がある。そこを聞いて、影響が出そうなら早めに手を打つ。そうしないと、結果的に続かなくなってしまう」(西氏)

優しさを属人性で終わらせない

もちろん、理論や制度を現場に落とし込んだだけで、円滑な運用や個性を生かして能力を発揮できるような職場になるわけではない。ZOZOBASEで多様な障がい者が日常業務の普通となっていること、それを支えるものは何かとの問いに、西氏は「優しさ」が根差した企業風土と答える。

「皆さん優しい人が多い」と、西氏は表現する。ただ、それを単なる個人の資質として片付けていない点が、ZOZOBASEの特長でもある。優しさを育む職場環境作りを仕組みとして落とし込んでいるといえるだろう。

では、どんな仕組みを整えたのか。まず1つ目が、相談しやすさだ。障がいのあるスタッフ専用の相談窓口を設け、「どこに何を聞けばいいか分からない」という不安をなくしている。窓口は支援部が直接担い、内容に応じて適切な部署につなぐ。

「ここに連絡すれば大丈夫、という窓口があるだけで、安心感は全然違う」(西氏)

2つ目が、距離の近さである。ZOZOBASEでは、ニックネームで呼び合う文化が根付いている。これは障がい者雇用のために導入されたものではなく、会社全体の風土だ。社員もアルバイトも、役職や立場に関係なく同じように呼び合う。

呼称がフラットであることは、心理的な壁を下げる。ちょっとした違和感や困りごとを、早い段階で言葉にしやすくなる。その積み重ねが、現場の空気をつくる。

3つ目が、研修による底上げだ。支援部や一部の理解者に任せきりにせず、拠点で働く全員が年1回、障がい理解に関する研修を受講する。

「倉庫で働くスタッフは4500人いるが、全員が年1回研修を受けている」(西氏)といい、配慮や優しさをが根付く環境作りを整えていることがわかる。こうした独自の取り組み成果は、障害者の離職率1.8%、定着率8割から9割という確かな実績へと結びついている。

障がい者スタッフと働くことが、ごく普通の環境となるなかで、周囲のスタッフも過度に構えず、特性以外は気にしなくて良いという認識へ変化し、声かけ・距離感の工夫が自発的に進んでいるのだという。

「できない」より「可能性」を見る現場

現場では、特性がそのまま強みになるケースも少なくない。知的障がいのあるスタッフが検品工程で生産性上位に入り続けている事例は象徴的だ。検品・シール貼りといった作業内容とのマッチ度がピタリとハマった例として、入社から間もなく部署内トップの生産性を発揮したという。「仕事が本当に好きで、面談中も『早く現場に戻りたい』と訴えられるほど。今も必ず生産性上位に入ってくる常連」(西氏)。まさに、その人の類稀なる個性が、業務にマッチした好事例そのものだ。

今回の取材では、フルフィルメント本部拠点総務部つくば拠点総務ブロックの伊藤貴文氏にも話を聞くことができた。聴覚障がいを持つ伊藤氏は、ZOZOBASEの勤務はすでに7年、現在総務業務で活躍している。

伊藤氏が語る自身の強みは「周囲をよく観察する力」と「コミュニケーションが好き」という姿勢だ。聴覚情報が得にくい分、かえって視覚的に周囲を見る力が磨かれたという自己認識は、現場が「できないこと」より「強み」に焦点を当てた好例である。また印象的なのは、西氏をはじめとしたスタッフや同僚が手話を覚えようとしてくれた経験だという。言葉だけではなく気持ちを通わせようとする姿勢が、本人の安心感と主体的なコミュニケーションを後押しした。

困ったときも臆さずに、自分の殻を破って積極的に交流することが重要という伊藤氏は、個人の目標として「職場の太陽」でありたいと語る。それぞれの多様な能力で職場を活性化させる伊藤氏のようなスタッフたちは、もはや現場になくてはならない存在となっている。

▲ZOZO 伊藤貴文氏。職場でのニックネームは「いっくん」と自己紹介

技術の進歩もフラットな職場作りに貢献している。音声翻訳・書きおこしツールとボードの活用などで、必ずしも手話が介在しなくてもスムーズな対話ができるという“当たり前”にも、伊藤氏への取材で改めて気付かされる。どこかで勝手に「障がい者とのコミュニケーションのあり方」に制限をかけていた自分自身を知り、あらためて、“フラット”であろうとすることとは、毎日の当たり前を重ねることから養われるのだなと実感させられる。

物流現場に問われる、人を生かす設計力

伊藤氏もまた、ZOZOBASEの特長を西氏同様に「優しさ」と表現する。定量化できないキーワードに集約される社風は、同社が模倣困難な組織の文化という資産を蓄積してきたことの証明でもある。組織の透明性を高め、効率という物差しだけでは測れない相互理解の土壌を耕すために、多くの時間を重ねて“当たり前”に落とし込んだことがわかる。

西氏自身、関係各所に何度も足を運び、信頼関係を築き上げることからスタートし、さまざまな“出会い”を実現したことで、知見の獲得や企業文化の醸成へとつなげていった。人手不足が深刻化する物流業界では、多様な人材活用が持続可能性の追求において避けて通れないテーマとなっている。ただ、重要なのは穴埋めする発想ではない。入社前から定着、成長までを見据えた「設計」で、“豊かな企業”にできるかどうかだ。

「人を採ることは比較的簡単。でも、長く働いてもらうには、周囲の理解と時間をかけた基盤づくりが不可欠」(西氏)であり、これからも外部と連携し、ぶれない「軸」を持って推進していきたいと西氏は語る。

ZOZOBASEつくば2の取り組みは、制度対応を起点にしながらも、最終的には「一人一人の可能性をどう引き出すか」という問いに向き合ってきた結果だ。物流現場は効率やスピードが重視される場所である。その現場で、人の多様性が“弱点”ではなく“力”として機能し始めている。その事実は、これからの物流現場づくりを考える上で、大きな示唆を与えている。

西氏はさらに26年の目標として、成長支援の精度向上を目指す。本人が挑戦できる環境づくりを通じて、生産性の現場寄与を高めること。面談の質を高め、回数を増やし、困りごとの早期キャッチ・早期解決を徹底すること。「公平な支援」を軸に、現場を巻き込みながら仕組みを磨きあげ持続的を高めていくことなど、そのための具体的なアクションプランも用意する。試行錯誤を重ねるのは自然なこと、むしろ前進と後退を繰り返さなければ、足場を固めることはできないという姿勢だ。

障がいがあることで、就労を通した自己実現に躊躇している人もいるかもしれない。そんな人たちに、西氏からメッセージをもらった。

「挑戦を考えているなら、ZOZOBASEはそれを受け入れられる場所。まずは、その空気に触れてもらいたい」(西氏)

(大津鉄也)

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