ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

常にシードであり続けるAzitの挑戦

需給予測からラストマイルまで、SC全自動化目指す

2026年1月22日 (木)

話題物流の現場はいま、「運べない時代」への備えを迫られている。ドライバー不足と労働規制強化で輸送余力は細り、荷主には物流の見える化や効率化への関与が求められるようになった。一方で、現場の計画業務や需給調整は依然としてExcel(エクセル)と手作業に依存し、欠品や過剰在庫、緊急輸送といったムダが連鎖する。AI(人工知能)やデータ活用がトレンドとして語られるわりに、意思決定に必要なデータが社内に散在し、学習や自動化の土台すら整っていない企業も多い。

▲Azit代表取締役CEOの吉兼周優氏

こうした「末端の配送ひっ迫」と「上流の計画不在」が同時進行するなかで、Azit(アジット、東京都渋谷区)はサプライチェーン(SC)全体を“つなぎ直す”ことを目指す。ラストマイル領域では、AI配車・マッチングの「DELIVERY X」(デリバリーエックス)で、薬局・ドラッグストアを中心とする荷主の配送オペレーションを支援。上流では、需要予測を起点に在庫や生産、輸送計画へとつながる需給予測プラットフォーム「FORECAST X」(フォーキャストエックス)を立ち上げ、生成AIの活用も含めて、従来は高コスト・長納期になりがちだった領域を低価格・短期間で導入できる形に再設計しようとしている。

Azitの吉兼周優社長は2013年、20歳で起業。創業当初は物流とは無縁で、学生仲間とスマートフォン向けアプリを開発していたという。数理最適化やルーティングといった技術に関心を持ちつつも、当時は「仕事というより趣味に近かった」と振り返る。転機となったのは、12年に訪れたシリコンバレーだ。ウーバー(Uber)やエアービーアンドビー(AirBnB)が台頭しているのを目の当たりにし、「海外では配車アプリが当たり前になりつつあるのに、なぜ日本にはないのか」と疑問を持った。この違和感が、後の事業につながっていく。

15年、Azitはライドシェア事業に踏み出した。当時の法制度では導入は難しいという見方が強いなか、国土交通省に足しげく通い、弁護士やロビイストと議論を重ねながら、日本で成立し得るスキームを模索した。都市部だけでなく、交通過疎地の移動課題にも向き合い、一定の手応えをつかみつつあったが、20年に新型コロナウイルスが直撃する。外出が止まり、売り上げは短期間で「百分の一」にまで落ち込んだ。

この局面で、吉兼氏は決断を迫られる。将来の見通しが立たないなかで事業を続けることは、スタートアップには難しい。結果として、150人ほどいた社員は10人前後まで縮小された。「経営の苦労はいくらでも耐えられるが、組織を縮めることだけは二度とやりたくない」。当時の経験は、今も強く残っているという。

ライドシェア事業からの撤退を進める一方で、同社は物流領域への進出を始め「第二創業」とも言える局面を迎える。人の移動と同様、物流も位置情報や最適化アルゴリズムが効く領域であり、自社の技術資産を生かせる。加えて、配送や供給の混乱が顕在化するなかで、物流は社会基盤としての重要性を増していた。吉兼氏は「明確な戦略があったというより、目の前の困りごとに向き合った結果」だと語る。

立ち上げ当初は、知人経営者の課題を手伝うところから始めた。来店客が減った寿司店のデリバリーを自ら運び、サラダ専門店の配送を一括で請け負う。モバイルバッテリーのシェアリングでは、都市部から郊外に偏る在庫をどう戻すかという補充の問題に直面した。医薬品配送の相談も相次いだ。こうした現場対応を重ねるうちに、配送とドライバーを柔軟につなぐ仕組みの必要性が見えてきた。

こうして形になったのが「DELIVERY X」だ。ラストマイルに特化し、荷主の配送業務を支援するAI配車・マッチングの仕組みで、クラウド上のシステムとプロフェッショナルサービスを組み合わせて提供する。特徴は、輸送手段を固定しない点にある。トラックだけでなく、状況に応じてフードデリバリーの配達員などともマッチングする。「我々は物流会社ではない。あくまでマッチングしているだけ」(吉兼氏)。条件次第で最適な手段を選ぶという発想は、従来の物流の枠組みとは一線を画す。

対象を一貫して「荷主」に定めてきた点も、Azitの大きな特徴だ。物流会社向けのソリューションを選ばなかった理由について、吉兼氏は「構造の問題」だと説明する。荷主側には在庫ロスや欠品といった財務インパクトが明確にあり、投資判断につながりやすいと考えたのだ。実際、同社の顧客はドラッグストアや調剤薬局を中心とした荷主企業が多い。「そもそも作る必要がない製品を作ることで数億から数十億円の損失を出している企業もある。ここをなんとかしたいという強い需要があり、企業側には課題解決のための投資をする強い動機がある」と読んだのだ。

▲Forecast X機能概要(出所:Azit)

配送の効率化を進める一方で、吉兼氏は早い段階から限界も感じていた。「配送に使うトラックを100台から95台に減らすことはできても、50台までは減らせない。そこで大きなインパクトのある効果は生み出しにくい」(吉兼氏)。ラストマイルの最適化だけでは、投資対効果(ROI)に限界がある。そこで同社は視線を上流に移し、需要予測や在庫計画といった“運ばないための仕組み”に踏み込んだ。それが「FORECAST X」だ。

FORECAST Xは、需要予測を起点に販売計画、在庫計画、生産計画までをつなぐ需給予測プラットフォーム。日本企業の多くが、こうした業務をこなすためにエクセルと手作業に依存している現状を踏まえ、「まずは正しくデジタル化し、AIが学習できる状態を作る」ことを重視する。吉兼氏は、「SCのDXを自動運転に例えるなら、今はまだレベル0」と表現する。「それをレベル1にまで持っていったとき、物流業界のDXはようやく始まる」と語る。

▲Forecast Xダッシュボード(出所:Azit)

生成AIの活用も、この分野での可能性を広げている。従来、SIer(システムインテグレーター)に依頼すれば数億円、半年以上かかるとされた需要予測モデルの構築が、AIを使えば短期間・低コストで実現できるようになってきた。吉兼氏は「ニーズもROIもあるのに投資が多額になりすぎて進まなかった領域を、現実的な選択肢になってきた」と判断。こうした狙いは荷主からの注目を集め、引き合いを増やしている。

吉兼氏が描く先は、SC全体の自動化だ。データが整備され、AIが学習できるようになれば、在庫や生産、配送の計画はAIエージェントが担い、人は方針決定に集中する。労働人口が減少するなかで、この構造転換は不可避だと見る。その先に、物流の効率化だけでなく、生活者の負担軽減があるという。

「ちょっと前まで100円余りだったコンビニのおにぎりは、今は150円、200円になっている」。吉兼氏は、物流の歪みが最終的に生活者の負担として表面化しつつある現状に、強い危機感を抱く。「物流の改善が進まないまま、自分の子ども世代が大人になったとき、当たり前のものが当たり前に手に入らなくなっていていいのだろうか」

一問一答

Q. スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?

A.社内では自分たちのフェーズを「シード・オブ・シード」と呼んでいて、規模が大きくなっても創業期の緊張感や課題意識を失わずにいたいと思っています。もし成長が安定し、「この先は自分でなくても回る」と感じるようになったら、代表を誰かに譲る選択をするかもしれません。それくらい、挑戦し続けられる状態であることを重視しています。常に気持ちの上ではシードでいたい。

Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。

A.出口戦略については、IPOかM&Aかといった形式そのものをゴールとしては捉えていません。将来像についても、あらかじめ固定したゴールを置いているわけではありません。

最終的に目指しているのは、形式としての出口ではなく、Azitが提供する価値が社会や生活者にとって意味を持ち続けることです。サプライチェーン全体をデータとAIでつなぎ、無理や無駄のない形にしていく。その取り組みを長く続けられる会社であることが、結果としての将来像だと考えています。

Azitホームページ

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。