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物流拠点がサイバー攻撃の標的に、KPMGが警鐘

2026年2月19日 (木)

調査・データKPMGコンサルティング(東京都千代田区)は「サイバーセキュリティサーベイ2026」の調査結果を発表した。生成AI(人工知能)の普及により攻撃手法が巧妙化したことで、大企業を中心に1社当たりの年間被害額が10億円を超える深刻な事例を初めて確認した。特に物流現場での対策遅れが目立ち、サプライチェーン全体を揺るがすリスクが浮き彫りとなっている。

▲過去1年間に発生したサイバー被害の合計金額(クリックで拡大、出所:KPMGコンサルティング)

同社が実施した調査によると、過去1年間のサイバーインシデントによる被害額が「1億円以上」と回答した企業の割合は10.1%に達した。22年の1.2%から急増しており、サイバー攻撃による経済的損失が深刻化している実態を裏付けている。売上高1兆円以上の大企業では、被害額が10億円以上に達したケースも5.9%発生した。

物流業界の現状について、同社の澤田智輝執行役員パートナーは本誌の取材に対し、「物流現場のセキュリティーは依然として遅れている。企業側もR&D(研究開発)などの重要情報の保護に集中しがちだが、現在はシステムが生産から出荷までつながっている」と強い危機感を示した。物流拠点がランサムウェア攻撃を受ければ、グループ全体の生産が止まる恐れがあるという。

▲KPMGコンサルティングの澤田智輝執行役員パートナー

被害の直接的な要因は、ランサムウェア攻撃が6.9%で最多を占める。次いでビジネスメール詐欺やフィッシングがそれぞれ3.6%となった。特に運輸・インフラ業界では、転職時などに情報を持ち出す「内部不正」による被害が11.5%に上り、全業界平均と比較しても高い水準にある。従業員のモラル向上やアクセス権限の厳格な管理が急務だ。

▲内部不正による被害の業種別分析(出所:KPMGコンサルティング)

委託先や取引先の管理における「形骸化」も深刻な課題として浮き彫りとなった。委託先に対する「セキュリティー指針の整備」を行っている企業は、運輸・インフラ業界で38.5%にとどまる。金融業界の66.7%と比較して取り組みの遅れが目立つ。実効性を担保する「定期的なセキュリティー監査」の実施率は11.5%に過ぎない。

▲セキュリティー指針の整備取り組み状況(出所:KPMGコンサルティング)

澤田氏は「金融業界では金融庁のガイドラインなどにより委託先管理が厳格化されているが、物流を含む他業界では足並みがそろっていない」と指摘した。多くの企業が契約書にセキュリティー条項を盛り込むものの、現場での実施状況を直接確認するまでには至っていない。物流子会社や協力会社がセキュリティーの「空白地帯」となり、そこから親会社や荷主のシステムへ侵入を許すリスクが現実のものとなっている。

導入済みツールの運用状況にも課題が残る。「資産管理」では42.4%、「ネットワークセキュリティー対策」では34.3%の企業が、運用の一部に支障をきたしている。インターネットに公開されているシステムの脆弱性放置も深刻だ。外部から攻撃可能な状態にあるシステムであっても、5割弱の企業が修正パッチ公開後に適時な適用を行っていない。物流拠点の在庫管理システムや輸配送管理システム(TMS)がこうした脆弱性を抱えたまま運用されれば、攻撃者にとって格好の標的となる。

澤田氏は、従来の「防御」に偏った対策から、侵入を早期に検知して迅速に復旧させる「サイバーレジリエンス」への転換が必要だと強調した。今後、生成AIを用いた攻撃はさらに巧妙化し、不自然な日本語によるメールは影を潜め、本物と見分けがつかない指示書や請求書が物流現場を襲うと予測する。

これに対抗するには、個別のツール導入といった「点」の対策ではなく、グループ全体やサプライチェーン全体を網羅する「面」のガバナンス構築が不可欠だ。物流拠点の停止は社会インフラ全体に影響を及ぼす。物流子会社への「丸投げ」を脱し、経営層が自らの課題としてセキュリティー投資を判断するべき局面を迎えている。(菊地靖)

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