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信頼性優先だからこそのモーダルシフトという選択

2026年3月11日 (水)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「九州電力、玄海原発の低レベル廃棄物を海陸輸送」(1月27日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

話題物流業界が「2024年問題」に直面し、いかに効率よく運ぶか、どうやって環境を守るかといった議論が盛んに行われている。その解決策としてトラックから船や鉄道へと切り替える「モーダルシフト」が注目されているが、九州電力が進める内航船による放射性廃棄物の輸送実態を詳しく見ていくと、そこには単なる効率化だけではない、もっと根本的な「見えにくいメリット」が隠されていることに気づかされる。それは、計画通りの運行や安全な輸送を邪魔する「外からのノイズ」を、徹底的にシャットアウトできるという点だ。

外的ノイズを遮断する「隔離されたルート」

ここで言う外的ノイズ(外からの乱れ)とは、陸上の道路を走る際にどうしても避けられない要素のことである。例えば、予期せぬ交通渋滞や、人通りの多い場所を通る際の事故リスク、さらには第三者による接触や盗難といったセキュリティー上の不安などのことだ。

九州電力は、こうした陸路ならではの「思い通りにいかない要素」から荷物を遠ざけるために、あえて海上輸送という隔離されたルートを戦略的に選んだ。海上輸送は陸上輸送に比べ、一般市民との間に物理的距離を確保できるため公衆被ばくのリスクを低減でき、また第三者が接近しづらいため核物質防護上のリスクも低減できるからだ。周りに何もない海の上を走ることで、管理の質を高めた。

「条件が整うまで待つ」という最後の切り札

また、天気もこうした外的ノイズの一種だが、その性質は渋滞などとは少し異なる。渋滞は通る道を変えれば避けられることもあるが、天気の影響はどこを走っていても完全には逃れられない。そこで九州電力は、天気という自分たちではコントロールできない要素に対して、「到着までの全行程で気象が安定していること」という、非常に厳しい独自のルールを設けている。

実際にことし1月の輸送では、高い波という天候リスクを避けるために、当初1月22日に予定していた船積みを1月25日へと3日間遅らせている。これは、「最高の条件が整うまでじっと待つ」という選択は、物流の確実性を守るための最後の切り札といえる。こうした判断ができるのは、同社が自社施設の貯蔵状況や廃棄物の発生量をあらかじめ把握し、余裕を持った搬出計画を立てているからにほかならない。

「速度」と「確実性」のハイブリッドな使い分け

このような、外からの乱れを断ち切り、あえて「待つ」ことを許容する物流の形は、放射性物質に限らず、私たちの身近にあるほかの荷物にも応用できるはずだ。例えば、万が一の事故が社会に大きな影響を与える化学薬品や、わずかな振動も許されない超精密機器、あるいは盗難が心配な高価な商品などである。運搬側が「時間の主導権」を握ることができれば、天候などのリスクを「焦り」ではなく、計画的な「ゆとり」へと変えることができる。

もちろん、世の中のすべての荷物をこの「ゆっくり・じっくり」の形にする必要はない。これからの物流には、荷物の性格に合わせた「メリハリ」が求められている。今すぐ届けなければならない生鮮食品や、一刻を争う緊急の修理部品などは、トラックよりもさらに早くて正確な航空輸送や新幹線貨物を活用し、徹底的に「速度(Velocity)」を追求すればよい。一方で、安全や確実性が何より優先される荷物は、リードタイムを長く取った海上や鉄道のルートに振り分ける。このように、「極限のスピード」と「極限の確実性(Reliability)」を賢く使い分けるハイブリッドな形が、これからの物流の当たり前になっていくだろう。

持続可能な物流のための「待つ覚悟」

物流を持続可能なものにするためには、物流を単なる「運び」のサービスとして使い捨てるのではなく、社会を支える大切な「インフラ」としてみんなで守っていくという姿勢も必要だ。これからの持続可能な社会を作っていくためには、着荷主、あるいは受け取る側である私たち消費者も、ときには「スピード」を追い求める手を少し緩め、安全のために「条件が整うまで待つ」という物流のルールを、必要なプロセスとして受け入れる覚悟が求められる時代となっている。(土屋悟)

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