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G7備蓄放出見送り、石化減産が日本に波及

2026年3月11日 (水)

国際G7エネルギー相は10日の緊急会合で、各国が非常時に備えて積み立てている戦略石油備蓄の協調放出を見送った。トランプ米大統領の「戦争はほぼ完了」発言で原油が急落(既報)したことで「まだ放出の段階にない」と判断した形だが、ホルムズ海峡は依然として実質封鎖のままだ。一方、日本の石化大手3社がそろって減産に動き、物流資材の供給不安が現実のものになり始めた。(編集長・赤澤裕介)

備蓄放出、協議2日で結論出ず

G7は9日の財務相会合、10日のエネルギー相会合と2日連続で備蓄放出を協議した。仏ロラン・レスキュール財務相は会合後、「IEA(国際エネルギー機関)にシナリオ策定を要請した。いつでも行動できる準備はある」と述べた。IEAのファティ・ビロル事務局長も同日、加盟国の臨時会合を招集し「供給安全保障と市場状況を評価した上で放出の判断を行う」と発表した。

米国は3億-4億バレル(IEA加盟国の備蓄総量12億バレルの25-30%)の協調放出を提案していたとされる。しかし結論は出なかった。最大の理由は、国際指標のブレント原油が10日に90ドル台、米国指標のWTI(ウエストテキサスインターミディエイト)が81ドル台まで下がったことだ。前日の119ドルから30ドル以上の急落で、G7は「市場が自律的に落ち着いた」と読んだとみられる。

ただし、市場が落ち着いた原因はトランプ発言という「口先」であり、物理的な供給は1バレルも回復していない。ホルムズ海峡の商業船交通はほぼゼロの状態が続いている(既報)。アナリストは封鎖が2-3週間続けば150ドル超もありうると警告しており、米EIA(エネルギー情報局)は10日発表の月例見通しで、ブレントが今後2か月は95ドル超で推移し、第3四半期(7-9月)に80ドルを下回るとの予測を示した。この予測は「海峡通航が段階的に回復する」前提に基づいており、封鎖が長引けば上方修正は避けられない。

日本にとって放出見送りの意味は重い。原油の95%を中東に依存し、70%がホルムズを通る日本は、G7の中で最も脆弱な立場にある。備蓄は254日分あるが(既報)、資源エネルギー庁は6日、志布志国家石油備蓄基地に放出準備を指示している。G7協調が動かない以上、日本単独での備蓄対応が現実味を帯びる。2022年のウクライナ危機では日本は2250万バレルを放出したが、今回は協調の枠組みすら固まっていない段階だ。

石化産業への波及も加速した。三井化学は10日、大阪と千葉(市原)のエチレン設備で今週から減産に入ったと発表した。エチレンはプラスチックや合成繊維、食品包装フィルムの基礎原料で、原料となるナフサ(粗製ガソリン)の中東からの調達が滞っていることが理由だ。三菱ケミカルは7日から茨城県神栖市のプラントで減産しており(既報)、同プラントは国内エチレン生産能力の8%を占める。出光興産も千葉、山口のエチレン設備で停止の可能性を取引先に通知している。住友化学のアジア子会社は、シンガポールPCSが契約上の納品義務を免除するフォースマジュール(不可抗力)を宣言した影響で、塗料や接着剤の原料であるメタクリル酸メチルの供給についても同様にフォースマジュールを宣言した。

日本の石化メーカーはナフサの国内需要のうち60%を輸入に頼り、そのうち70%が中東産だ。国内12か所のエチレン設備のうち3社が減産に入ったことで、樹脂自動車部品、合成繊維、食品包装材の原料が4月以降に不足するリスクが高まっている。

アジア全体では、原料が届かないため契約通りの納品ができないとするフォースマジュール宣言がドミノ式に広がっている。シンガポールPCS、インドネシアのチャンドラ・アスリ、韓国ヨチョンNCC、タイのラヨン・オレフィンズ(サイアムセメント子会社)、台湾のフォルモサ石化、中国の万華化学がそれぞれ宣言済み。ベトナムのビンソン精製石化は、国産原油の国内向け優先供給を政府に要請した。アジアの石化プラントはナフサの70-80%を中東に依存しており、物流資材不足の「4月の壁」は日本だけの問題ではない。

軽油価格への影響も整理する。10日時点のブレント90ドル、WTI81ドルは前日の119ドルから大幅に下がったが、危機前(65ドル)の水準には程遠い。為替も10日時点で157円台と円安が続いている。本誌試算モデルでは、ブレント90ドル・為替158円で軽油小売222円となる。既報の「200円超」水準は、原油の急落後もむしろ深まった形だ。EIAが見通す95ドル超が2か月続くシナリオでは234円が常態化する計算になる。

▲軽油価格シナリオ(クリックで拡大)

G7の備蓄放出は「準備はできた」のまま止まっている。原油はトランプ発言で一時的に下がったが、海峡が開かない限り再急騰のリスクは消えない。石化3社の減産は4月の物流資材供給に直結する。国際協調も国内備蓄もまだ動いていない今、物流現場が頼れるのは在庫と調達先の多角化だけだ。

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