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運送業の経営者から現場まで女性30人集結。広島発、中国5県へ共鳴広げる

女性の声が照らす運送業の構造問題

2026年3月12日 (木)

行政・団体「中国地方には、これまで県をまたいだ女性たちの横のつながりがなかった。まずは『こんなに仲間がいるんだ』と知ってもらうことから始めたかった」。12日、国土交通省中国運輸局(広島市)で開催された「トラック事業におけるジェンダー主流化推進懇談会」の主催の一人である同局自動車交通部貨物課安定輸送係長の阿部啓恵氏は開催の意図をそう語った。

会場には中国5県から経営者、管理職、ドライバー、事務職ら運送業界で働く多彩な顔ぶれの女性30人が一堂に会した。2024年問題や度重なる法改正への対応という難局を迎えるなか、現場で噴出している「綻び」と、それをどう「最適化」すべきか、立場を超えた本音が飛び交った。

業界の現在地は「困」か、それとも「希」か

懇談会ではまず、今の運送業界を象徴する漢字一文字として、多くの参加者が「困」を挙げた。燃料費高騰や法改正への対応、ドライバー不足といった物理的な『困難』。そして、荷主よりも運送側ばかりが対応を迫られる現状に、一様に隠せない『困惑』。現場が抱える2つの「困」が浮き彫りとなった。

一方で、経営層からは前向きな変化を捉える声も上がった。広島の運送業経営者は、「『希望』の「希」、そして漢字は異なるが『期待』の「き」。法改正は、会社が一丸となって学び、選ばれる存在へと転じるチャンスと語り、苦境を逆手に取った意識改革の必要性を説いた。

現場に立ちはだかる「商習慣」と「DX」の壁

議論が白熱したのは、女性や若手の参入を阻む具体的な「障壁」だ。運送業役員を務める女性は、平ボデー車両での「シート掛け」作業が、濡れても支障のない荷物でも慣例的に求められる現状を指摘。「こうした古い商習慣が、体力的なハードルとなり、担い手を遠ざけている」という声に、多くの参加者が頷いた。

また、DX化についても「全社員にスマホを配備したが、『パスワードを忘れた』といった初歩的な問い合わせから操作説明まで、ドライバーの数だけ繰り返される『個別サポート』の実態。すべて事務方の負担として降ってくる。一件一件の対応に割かれる実働コストは衝撃的」と語るのは、家業を継ぎ現場業務全般に携わる女性。デジタル化の裏側にある泥臭いアナログな苦労ーーITツールへの苦手意識が根強い層へのフォローや、従来のやり方に固執するベテラン社員への説得ーーが露呈した。

視点を変え、求職者の目線で「本音」を発信

人手不足解消に向けた具体的な取り組みとして、管理職の女性からは、募集内容を求職者の目線に立ち返って考えることの重要性が語られた。

「女性ドライバーがいない前提の募集ではなく、2年前からSNSで積極的な発信を始めた。お母さんドライバーのルーティンや、行事、平日の用事で休みを取りながら働く『本音』を映像を交えて公開したところ、『私でもできるかな』という同世代の応募が増えた」という成功事例は、多くの参加者の関心を引いた。

同時に、現場からは「若年層を呼び込むための議論は当然の流れ。それなのに『ジェンダー』や『男女』という言葉が出た瞬間にアレルギー反応が出るのはなぜか。業界全体で理解を深める必要がある」という、体質改善を求める切実な声も上がった。

行政と現場が紡ぐ「新しい物語」

閉会後、主催した同局自動車交通部貨物課長の田中幸久氏は、本紙の取材に対し、次のように決意を語った。

「今、物流の世界では、消費者から荷主、運送業者に至るまで、それぞれが『当たり前』と思っていることが、全体として労働力不足という構造的な歪みを生んでいる。これを変えるには、机上の政策ではなく、今日出たような現場の切実なドラマを、政策の説得力としてぶつけていく必要がある。この熱量を一回きりで終わらせるつもりはない」。今後は年1回の開催を目指し、継続的な交流を通じて、県を越えて女性同士が繋がり共鳴の輪を広げてほしいとした。

また、阿部氏も「今回はお子様同伴での参加も認めるなど、女性が声を上げやすい環境作りを重視した。この会をきっかけに、県を越えて女性同士がつながってほしい」と、今後の継続的な連携に期待を寄せた。

女性の声が映す、運送業の構造問題

今回の取材で確信したのは、これは「女性の働き方をどうするか」という限定的な話ではないということだ。

現場で噴出した平ボデーの商習慣やDX化のしわ寄せ、世代間のギャップは、今の運送業界が抱える「構造的な歪み」そのもの。彼女たちの本音は単なる不満の羅列ではない。男性中心の「気合」と「慣習」で覆い隠されてきた不合理を、別の角度から照らし出す「最適化への処方箋」だ。

広島から始まったこの共鳴が、中国地方、そして全国の運送業界を「困」から「希」へと塗り替える突破口になることを期待したい。(林花代子)

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