国際ホルムズ危機は原油とLNG(液化天然ガス)だけの問題ではなくなった。カタールのLNG停止でヘリウムの供給が途絶し始めている。半導体製造に不可欠なこのガスが止まれば、自動車、データセンター、医療機器まで影響が広がる。同時に、中国は燃料の輸出停止を拡大し、米国は国内向けの物流規制を緩和し始めた。各国が「自国優先」に動くなか、サプライチェーンの断層は原油価格だけでは見えない場所にも広がっている。2026年3月13日時点の動きを整理する。(編集長・赤澤裕介)
通れないから出さないへ
前回レポートでは備蓄放出が「必要条件にすぎない」と述べた。その状況は変わっていないが、新たな問題が加わった。各国が燃料を外に出さなくなり始めている。
中国は5日、NDRC(国家発展改革委員会)の指示でガソリン、軽油、航空燃料の輸出を停止した(前回既報)。12日にはさらに踏み込み、通関未了の貨物も含めた事実上の輸出停止に切り替えた。3月の精製燃料輸出は合計65万トン程度と、通常月の3分の1以下にとどまっている。アジア市場にとっては、中東から入ってこないだけでなく中国からも出ていかないという二重の締め付けだ。
米国も自国向けの供給確保に動いた。ホワイトハウスは12日、ジョーンズ・アクト(1920年商船法)の一時免除を検討していると公式に認めた。30日間の免除で石油、ガソリン、軽油、LNG、肥料が対象になる。これが実現すれば外国船籍のタンカーが米国港間で燃料を運べるようになり、ガルフコーストから東海岸への供給が楽になる。対外的には関税をかけながら、国内の物流規制は緩める。前回指摘した相反する政策が、さらに具体的な形になった。
海峡の封鎖は長期化の方向だ。イランの新最高指導者モジタバ・ハメネイ師が12日、就任後初の声明で封鎖継続を明言した。同日までに海峡周辺では商船を含む複数船舶が攻撃被害を受けており、前回整理した海峡再開の3条件はいずれも満たされていない。

(イメージ)
この封鎖が、見えにくい場所に波及している。ヘリウムだ。カタールのLNG生産停止で、ヘリウムの供給も止まった。カタールは世界のヘリウム生産能力の30%を占める。ヘリウムは半導体製造で不可欠なガスだ。供給が滞れば、半導体を使う自動車、データセンター、医療機器まで影響が広がる。韓国はヘリウムの半分以上をカタールから調達しており、半導体向けの高純度品ではさらに依存度が高いとされる。SKハイニックスやTSMC(台湾積体電路製造)で現時点の生産支障は出ていないが、封鎖が長引けばアジアの半導体サプライチェーン全体に響く。原油やLNGほど注目されていないが、影響範囲はむしろ広い。
欧州ではLNGの「買い負け」が進んでいる。EU(欧州連合)は即時の石油不足はないとしているが、米国発のLNG船が欧州向けから中国向けに仕向け地を変更する事例が出始めた。供給が足りないのではなく、アジアに買い負けている段階だ。ドイツのIfW(キール世界経済研究所)は12日、商品価格の上昇を織り込んで26年の成長率見通しを0.2ポイント引き下げ、0.8%とした。
国内では、公正取引委員会と中小企業庁が物流特殊指定の改正案で着荷主を新たな規制対象に加える方向を示したほか、東芝デジタルソリューションズが危機管理AI(人工知能)のSpectee(スペクティ)と戦略提携するなど、サプライチェーンのリスク管理強化に向けた動きが続いている。
前回の見通しを更新する。短期では国際エネルギー機関(IEA)の備蓄放出が時間を稼いでいるが、各国の燃料囲い込みが放出の効果を削り始めている。中期では、前回指摘した肥料・食料への波及が進んでおり、これにヘリウムという新たなボトルネックが加わった。構造的には、問題の重心が「海峡封鎖」から「保険市場の機能不全」を経て「各国の資源囲い込み」へと移っている。
次に来るショックは、この囲い込みの連鎖だ。中国は燃料を、カタールはLNGとヘリウムを止め、米国は規制緩和で自国供給を優先している。海峡が再開しても、元のサプライチェーンにはすぐには戻りにくい。ニアショアリングと在庫の積み増しは、選択肢の一つから実務上の必須項目になりつつある。前回指摘した「運賃を払える荷物とそうでない荷物の選別」は、エネルギーと食料の両面で進むことになる。燃料の囲い込みは肥料の不足を生み、肥料の不足は食料価格を押し上げ、食料価格の上昇は各国の政治判断をさらに内向きにする。エネルギー危機は物流危機を経て、資源ナショナリズムへと形を変えつつある。
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。
LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com
LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。
ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。























