話題第1回で触れた通り、激変する通商環境において、通関業務のデジタル化はもはや避けて通れない経営課題である。しかし、多くの現場でその第一歩を阻んでいるのが、インボイスやパッキングリスト(PL)といった膨大な「紙とPDF」の存在だ。
多種多様なフォーマットで送られてくるこれらの帳票を、手作業でシステムへ打ち込む作業は、現場を疲弊させる最大の要因となっている。この「転記作業による忙殺」から解放されない限り、通関士が本来の専門性を発揮し、戦略的な業務に従事することは叶わない。本稿では、通関業務デジタル化ソリューションの入り口を担う「AI-OCR」に焦点を当て、その革新性を解き明かす。
従来のOCRが現場に定着しなかった理由
これまでもOCR(光学文字認識)技術自体は存在していたが、通関実務の現場では「使い物にならない」と敬遠されるケースが少なくなかった。その最大の理由は、従来のOCRが「定型帳票」の読み取りを前提としていた点にある。

▲従来のOCRは書式が決まった帳票、事前登録された文字情報しか読み取れなかったため、活用できる場が限られていた(出所:NEC)
従来の一般的なOCRでは、どこに何が書かれているかを事前に細かく設定する必要があり、少しでもフォーマットが異なると読み取りができなくなる。取引先ごとに様式が異なる帳票に対し、その都度テンプレートを作成することは現実的ではない。また、この設定作業自体が専門知識を持つ担当者に依存し、結果として属人化を招く事態も生じていた。
事前設定不要、生成AIが「文脈」を理解する
NECが提供するAI-OCRは、これらの課題を生成AI(人工知能)の活用によって根本から解決している。最大の特徴は、読み取り対象が「非定型帳票」であっても、事前の細かな設定なしに文字情報を抽出できる点にある。

▲NECロジスティクスソリューション統括部ロジスティクス事業開発担当の永瀬祥夏氏
永瀬祥夏氏は、その操作性について次のように説明する。「読み取りたい項目名だけを指示することで、あとは生成AI自身が帳票の中身を理解し、該当箇所のみを抽出できる。これにより、誰でも素早く簡単に読み取り設定を行えるのがポイント」

▲NECが提供するAI-OCRは手書きの日本語はもちろん英語、中国語などの国際貿易で使われる外国語も読み取りが可能(出所:NEC)
例えば、B/Lナンバー(船荷証券番号)を読みたいと指示すれば、AIが自ら帳票内を探してデータを抽出する。さらに「DESCRIPTIONが複数行に分かれているものを、文脈を判断して抽出してほしい」といった、人間が口頭で行うような指示(プロンプト)であっても実行可能だ。これは従来の、座標を指定して文字を読み取るだけのOCRとは決定的に異なる強みと言える。
99.2%の精度*と実務に即した付加機能
実務において最も重要となる読み取り精度についても、検証の結果「99.2%(※)」という驚異的な数値を実現している。石渡竜也主任は、「綺麗な帳票はもちろん、文字が曲がっているものや手書き文字、上から押されたスタンプとの重なり、さらには劣化して不鮮明になったファクス帳票であっても、高い精度で識別できる」と強調する。

▲NECロジスティクスソリューション統括部ロジスティクス事業開発担当の石渡竜也主任
さらに、実務上のミスを防ぐためのバリデーション機能も充実。AIに対して「単価と数量を掛け算し、合計金額(Amount)と合致しているか確認せよ」といった指示を出すことで、検算や重複チェックを自動化できる。これまで人間が膨大な時間をかけて行ってきたダブルチェックをAIに委ねることで、ヒューマンエラーを限りなくゼロに近づけることが可能になる。
※…99.2%の精度=検証に協力したユーザー企業での、毎回フォーマットが異なる見積書の読み取りにおける結果
デジタル化の土台を築く
このAI-OCRの導入は、すでに多くの企業で劇的な成果を上げている。大手物流会社の事例では、AI-OCRの導入によって、それまで90分程度かかっていた入力・確認作業が30分程度(およそ66%削減)にまで短縮された。
デジタル化の最初の壁である「紙とPDF」をAI-OCRによって突破することは、単なる効率化ではない。紙やPDFを「共有可能なデータ」へと昇華させ、デジタル化を推進するために必要不可欠な土台作りなのである。

























