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フィリピン非常事態、日系供給網に波及も

2026年3月25日 (水)

国際フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領が24日、国家エネルギー非常事態を宣言する大統領令第110号(Executive Order No. 110)に署名した。ホルムズ海峡の事実上の封鎖による燃料供給の混乱と価格高騰を受け、政府が供給確保と流通管理を一体で進める非常対応に踏み切った形だ。同日、高市早苗首相はマルコス大統領と電話会談し、ホルムズ海峡の安全な航行確保に向けた連携を確認した。日本とフィリピンはともに中東原油への依存度が高いが、備蓄の厚みと政策対応の余地には大きな差がある。(編集長・赤澤裕介)

大統領令の有効期間は1年間。マルコス大統領は「エネルギー供給の著しい不足、もしくは差し迫った危機がある」と宣言した。フィリピンは原油輸入の9割超を中東に依存しており、石油備蓄は消費ベースで45日分にとどまる。

政府は同大統領令で、生活・産業・食糧・交通を横断して支援する枠組みUPLIFT(Unified Package for Livelihoods, Industry, Food and Transport)を発動した。エネルギー省、運輸省、社会福祉省、農業省、財務省、予算管理省の各長官がメンバーに入り、マルコス大統領が委員長を務める。燃料や食品、医薬品、農産物の供給・流通を一元管理し、買いだめや価格操作への取り締まりも即時発動する。平時の通常調達や予算執行では間に合わない状況を前提に、政府主導で供給確保と価格監視を同時に進める体制へ移行した。エネルギー省とフィリピン国営石油会社(PNOC)には緊急の燃料調達権限が与えられ、契約金額の15%を超える前払いも認められた。

国内の燃料価格は急騰している。フィリピンのエネルギー省データによると、10-16日の軽油小売価格はリッターあたり70.95-91ペソに達した。年初からの累計値上げ幅は軽油でリッターあたり57.55ペソに上り、17日以降はリッター100ペソ(日本円で265円前後)を突破した。日本の軽油全国平均は直近公表値で149.8円(資源エネルギー庁、3月9日時点、補助金込み)。フィリピンの100ペソ超はその1.8倍にあたる水準だ。シャロン・ガリン・エネルギー長官は、国内燃料供給は4月末まで維持できる見通しとしつつ、その先については不透明だとしている。

▲エネルギー依存と対応の比較(日比、クリックで拡大)

備蓄45日と250日、同じ依存度で割れた対応

日本とフィリピンは中東原油への依存度が9割超で共通する。にもかかわらず、両国の対応は異なる時間軸にある。

日本は国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を合わせて250日超の石油備蓄を持つ。16日から過去最大規模の備蓄放出を開始し、24日の関係閣僚会議ではナフサ確保策と26日からの追加放出を決めた。予備費8007億円も計上している。備蓄の厚みが政策の選択肢を広げ、時間を確保している。

フィリピンの45日分は、日本の5分の1以下だ。備蓄の薄さは、政府が平時対応ではなく非常対応を早期に選択した背景の一つとみられる。ガリン長官が示した「4月末まで」という期限は、そこから先の供給をどう確保するかが未解決であることを裏返している。

フィリピンには日系企業が1400社以上(外務省海外進出日系企業拠点数調査、2022年時点)進出しており、その多くが製造業だ。日系製造業の大半はルソン島南部に集中しており、ラグナ州やカビテ州、バタンガス州の工業団地に電子部品や自動車部品の組立工場が集積している。これらの工場は日本向けの部品供給拠点でもある。フィリピンの電気代はASEANの中でも高い水準にあり、ジェトロ(日本貿易振興機構)の調査でも進出日系企業の経営課題として繰り返し指摘されてきた。発電燃料の多くを輸入に頼っているため、燃料調達の制約は電力供給そのものに波及する。今回のエネルギー危機は操業コストの上昇にとどまらず、工場の稼働率に影響するリスクをはらんでいる。内陸輸送や港湾搬出での燃料制約が加われば、日本向け部品の納期やコストへの波及も避けられない。

日本国内でもナフサ不足による石化プラントの減産が物流資材に波及し始めた。国内の素材供給制約と、海外拠点のエネルギー制約が同時に進行している点が、今回の危機の特徴だ。

高市首相は24日、マルコス大統領に加え、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相、マーシャル諸島のヒルダ・ハイネ大統領とも電話会談を行った。19日に日本と英仏独伊蘭で発出した「ホルムズ海峡の安全な航行に関する共同声明」(30か国参加)に触れ、事態の早期沈静化に向けた国際連携を確認した。エネルギー安全保障が外交議題として前面に出始めている。

フィリピンの非常事態宣言は、中東依存国にとっての制約条件を可視化した。日本は備蓄250日超という厚みで時間を確保しているが、封鎖が長期化すればその優位も相対的なものにとどまる。フィリピン拠点を持つ企業は、以下の3点を分けて確認する必要がある。

(1)現地工場の電力確保状況。停電の有無だけでなく、燃料調達制約下で契約電源や自家発電がどこまで維持できるかを把握する。

(2)内陸輸送の燃料調達状況。トラック運行の可否ではなく、燃料の優先配分や供給制約が発生していないかを確認する。

(3)出荷リードタイムの変動幅。通常のリードタイムではなく、遅延が起きた場合の最大幅とその頻度を把握する。

確認を後回しにすれば、納期遅延や追加コストが顕在化した時点で初めて問題に気づくことになる。供給網の変調は、事後ではなく事前にしか捕捉できない。

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