行政・団体LOGISTICS TODAYとHacobu(ハコブ、東京都港区)は26日、東京都内で「物流『取引適正化』の最前線」と題したハイブリッドイベントを開催した。公正取引委員会企業取引課の武田雅弘・執行連携担当企画官が基調講演に登壇し、2025年4月以降に運送分野で実施した集中調査で勧告2件、指導530件の措置を講じたことを報告した。パネルディスカッションでは、荷主が価格協議の面談に応じながら回答を保留し続けるケースについて、武田氏が「問題となりうる」との見解を示し、協議の形骸化に警鐘を鳴らした。

▲(右から2人目)公正取引委員会の武田雅弘・執行連携担当企画官
イベントには会場・オンライン合わせて1000人以上が申し込んだ。事前質問は54件に上り、大半が「セーフとアウトの境目を知りたい」という内容だった。
武田氏はまず、公取委と中小企業庁が運送分野で新たに実施した集中調査について説明。中小企業庁の価格転嫁調査で運送分野の転嫁率が低かったことや、物流2024年問題を背景に取引適正化を進める必要があったことが調査の理由だと述べた。
調査で確認された主な違反行為は3つの類型に分かれる。

1つ目は書面の不交付・記載不備だ。荷待ち・積込み・取卸しなど運送業務以外の役務を委託しているにもかかわらず、発注書面にその内容を記載していなかったケースが多数あった。「その他一切の附帯業務」という曖昧な記載にとどめていた運送事業者には、運送業務以外の役務を具体的に明記するよう指導した。武田氏は「この書面の記載不備に関する指導が、今回の集中調査で最も重要だった」と述べた。
2つ目は買いたたきだ。労務費やエネルギーコストが上昇しているにもかかわらず、受託側の運送事業者と協議を行わず代金を据え置いていた事例が多く確認された。運送業務以外の役務を「運送業務及びその他附帯する業務」と一体的に扱っていた例もあった。結果として、本来支払うべき対価が支払われていなかった事例も確認された。取適法(中小受託取引適正化法、旧下請法)では「協議に応じない一方的な代金決定」が禁止行為に追加されている。武田氏は、委託事業者が中小受託事業者からの価格協議に応じない場合は取適法上問題となり得ると述べた。

3つ目は不当な経済上の利益の提供要請だ。発注書面に記載していない荷待ち・積込み・取卸しなどを無償で行わせていた事例や、遠距離運送で有料道路の利用料金を受託側に負担させていた事例が複数あった。武田氏は、発荷主から運送業務以外の役務に係る対価が支払われていないことを、受託側に無償で役務を行わせている要因として挙げる運送事業者も多数いたと紹介した。
武田氏はこの3類型を通じた最大のポイントとして「適切な発注書面を出していただくことで、取引をする両者でコンセンサスをちゃんと得ることが大事だ」と強調した。
価格転嫁、60日ルール、着荷主対応へ
武田氏は講演の後半で、取適法の改正だけでは対応しきれない分野への新たな施策として3つの方向性を示した。
1つ目は、サプライチェーン全体での価格転嫁の環境整備だ。取適法の対象外となる大企業同士や中小企業同士の取引でも、実効的な価格協議が行えないことで価格転嫁が進んでいない。優越的地位の濫用に関するガイドライン(優越ガイドライン)を改正し、実効的な価格協議が行われたかどうかを濫用行為の判断の考慮要素として明確にする方向で、現在パブリックコメントを実施している。
2つ目は、支払条件の適正化だ。取適法の対象外取引では支払サイトが長期化する傾向がある。「製造委託等」の取引を対象に、受領日から60日以内の支払いを求める独占禁止法上の告示(特殊指定)を新たに策定する。支払条件の適正化に向けたこの特殊指定案では、資本金や従業員といった規模基準を設けず、取引上の地位の優劣で適用を判断する。
3つ目は、着荷主による契約外の荷待ち・荷役への対応だ。着荷主と運送事業者の間には直接の契約関係がないケースが多いため、発荷主と着荷主の取引関係に着目し、物流特殊指定の対象を拡大する方向で検討が進んでいる。武田氏は「着荷主と発荷主の間に契約関係があるという点に着目した規制だ」と論理構成を説明した。

基調講演に続くパネルディスカッションには、武田氏に加えてHacobu(ハコブ、東京都港区)執行役員CPOの岡幸四郎氏、LOGISTICS TODAYの刈屋大輔編集委員が参加し、赤澤編集長が司会を務めた。議論は実運送事業者、元請・3PL、発荷主の3つの立場から進んだ。
着荷主がドライバーに契約外の荷役をさせているケースについて、武田氏は現在は取適法の直接の対象ではないとしたうえで、物流特殊指定の改正により対象を拡大する方向を示した。刈屋氏は取材の現場から「弱い立場の実運送事業者は、着荷主が発荷主のお客さんであるため間接的に仕事を失う恐れがあり、応じざるを得ない状況にある」と現状を報告した。
議論の焦点は、協議の「実効性」に移った。面談の有無ではなく、協議が実効的だったかどうかが問われる段階に入っている。
荷主が価格協議の面談には応じたものの「検討します」と繰り返して結論を出さない場合について、武田氏は「回答を保留し続けるような場合も、一般論としては問題となりうる」と述べた。一方で「確実にダメですと申し上げることはできない」とも付け加え、最終的な価格決定は両当事者間の協議に委ねられるとの原則を示した。
発荷主の立場からは、値上げ要求への対応が議論された。武田氏は「満額回答でなければならないとか、何パーセントでなければならないと申し上げることは適切ではない」と述べ、金額の多寡ではなく、労務費やエネルギーコストの上昇分をちゃんと検討しているかどうかが問われると説明した。
岡氏は、荷主と物流事業者の双方がテーブルに乗せるべき客観データについて「交渉のポイントに合わせたデータを普段から取れるようになっているかが大事だ」と指摘。ハコブのシステムでは輸送依頼のデジタル化から四条書面の自動作成、待機時間の報告まで紐づけて管理でき、依頼情報をそのままデータで流すことで二重入力の負荷を抑えつつ証跡を残す設計だと説明した。

▲ハコブの岡幸四郎執行役員CPO
刈屋氏は、ある元請け運送事業者が実運送事業者からの値上げ要請にわずかな額しか応じなかった結果、実運送事業者が取引を離れ、年末に配送の大規模な遅延が発生した事例を紹介。「元請けも実運送事業者からの協議に真摯に応じなければ、結局は自社の運送に多大な影響を及ぼす」と指摘した。
武田氏は、事業者が違反する典型的なパターンとして「商慣習だったので問題になるとは認識していなかった」と「違反になることは分かっていたが改善が進められなかった」の2つを挙げ、「商慣習だったから違法ではないということにはならない」と明言した。クロージングでは「明日から変えるべきこと」として「適切な発注書面を適切な内容で出すこと」を挙げた。
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