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WTO電子商取引協定、船荷証券は紙からデータへ

2026年3月30日 (月)

ロジスティクスカメルーン・ヤウンデで開催されたWTO第14回閣僚会議(MC14、3月26-29日)で28日、電子商取引協定の暫定実施に向けた道筋が正式に採択された。WTO加盟66か国(世界貿易の70%をカバー)が合意し、45か国が受諾書を寄託した時点で協定が発効する。2024年7月に82か国が支持した安定化テキストに基づく協定が、参加国間で先行適用される枠組みが確定した。日本は共同議長国(豪・シンガポールと共同)として交渉を主導し、28日に3か国の外務・通商当局が共同プレスリリースを発出した。(編集長・赤澤裕介)

▲WTO電子商取引協定の概要と採択内容(クリックで拡大)

WTOの採択は枠組みの整備であり、実務上の対応はすでに各国・業界団体の側で進んでいる。紙の船荷証券(B/L)では、紙を持つことを通じて権利を移転・主張してきた。その実務が、データの支配で管理される仕組みに変わる。影響は書類のフォーマットにとどまらず、貿易における権利の帰属先、与信・担保・責任の仕組みまで及ぶ。

協定第4条3項はUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)のMLETR(電子的移転可能記録モデル法、2017年採択)を考慮した法的枠組みの採用・維持を努力義務とし、第8条は税関フォームの電子公開・受領義務を定める。電子船荷証券(eBL)、電子為替手形、電子倉庫証券に法的効力を与える国際的な基盤が整備される。

これまでの実務はこうだった。銀行はB/Lの原本を物理的に手元に置く(占有する)ことで貨物への担保権を確保し、荷主はB/Lの所持で貨物を支配し、フォワーダー(貨物利用運送事業者)は書類のハンドリングで実務上の支配力を持っていた。eBLへの移行で、この3者の力学がすべて変わる。データの「支配」を技術的に保証するプラットフォームが権利移転の基盤となり、海運標準(DCSA)が技術標準を握り、各国は法制度で自国の管轄権を確保しにいく。貿易金融の与信判断、貿易を利用したマネーロンダリング(TBML)の対策、サプライチェーン上のデータ主権が、すべてこの支配の組み替えの上に乗る。トレードワルツ(東京都港区)が昨年10月、TBML対策としてメガバンク3行(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)を集めてワーキンググループを発足させた背景もここにある。

WTOのヌゴジ・オコンジョイウェアラ事務局長は採択を受け、デジタル貿易が経済成長と雇用創出の原動力であり、参加国が共通の規制枠組みを構築しつつあると評価した。WTO事務局の試算では、全加盟国が実施した場合に2040年までに世界GDPが8兆7000億ドル増加し、低・中所得国が最大の恩恵を受けるとしている。ただし完全実施が前提であり、法整備の遅延、プラットフォームの分断、企業導入が部分最適で止まる現実を織り込んでいない。数字ほどには伸びないが、仕組みは変わる。

日本の遅れ、意思決定の不在

すでに動いている国がある。英国は23年に電子貿易文書法(ETDA)を施行し、eBLの法的効力を自国法で確定させた。シンガポールは21年の電子取引法改正でアジアのハブ機能を固めた。DCSA(デジタルコンテナ海運協会)は加盟船社に30年までのeBL100%目標を掲げさせ、技術標準を先に敷いた。それぞれの手段は異なるが、共通しているのは「誰が支配するか」を先に決めている点だ。

日本はどうか。商法改正(船荷証券など関係)は24年9月に法制審議会が要綱を法務大臣に答申したが、法案の国会提出が遅れている。25年12月にトレードワルツ事務局の貿易コンソーシアムが法務大臣宛に早期提出を要望する事態となった。施行目標は27年度中だ。

法改正の先にある実務上の論点はさらに大きい。eBLで決定的に重要なのは、同じ貨物について権利が二重に主張されるのをどう防ぐか、不正発生時の責任を誰が負うか、プラットフォームの責任範囲をどこまで定めるか、という判断だ。紙のB/Lでは物理的に1通しか存在しないことが二重譲渡を防いでいた。電子化すれば、その保証はシステム設計と法的枠組みの組み合わせで担保するしかない。商法改正要綱案は「支配」の概念を導入して、電子でも紙と同じ法的効果を持たせる方針だが、実務上は責任配分の具体像がなお重要論点として残る。

国内のプレーヤーを見ても、トレードワルツ(NTTデータ、豊田通商、三菱商事など18社出資)、Zenport(ゼンポート、民間SaaS)、海運大手(日本郵船、商船三井、川崎汽船のDCSA参画)、メガバンク3行、経済産業省のアクションプラン(28年度までにプラットフォーム利用率10%、3000億円のコスト削減目標)が並走しているが、全体を統合する主導権を握る主体がいない。このまま進めば、日本は標準もルールも外から受け取る側に回る。プラットフォーム間の相互運用性が確保されなければ、電子化しても結局二重入力や手作業が残り、コスト削減効果が出ない事態になる。

時間軸は明確だ。26-27年が各国の法整備期間、27-30年がeBLの本格普及フェーズ、30年にDCSAの100%目標で勢力図が固定される。この4年間で標準とルールのポジションが決まる。その後に参入しても、標準の選択肢は限られる。

L/C(信用状)を使う荷主、B/Lを扱うフォワーダー、海上輸送に関わる物流企業は例外なく当事者だ。今やるべきことは3つある。1つ目は、自社の取引で使っているB/Lの発行主体を洗い出し、その発行主体がどのeBL標準に乗る方針かを確認すること。2つ目は、取引銀行がL/C決済でどのプラットフォームを許容するかを確認すること。3つ目は、取引先国のMLETR準拠状況を把握し、紙とデジタルが混在する移行期の運用を設計しておくことだ。

この移行に乗り遅れれば、eBLが担保として認められず与信条件が不利になる。相手国の電子化要件を満たせず、取引そのものから外される可能性もある。66か国はすでに国内手続きに入っており、45か国の受諾書がそろった時点で協定は発効する。

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