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標準的運賃の前提崩壊、軽油120円が空文化

2026年4月5日 (日)
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ロジスティクス標準的運賃が前提とする軽油120円の世界は、現実にも契約実務にも残っていない。国土交通省が2024年3月に改定した標準的運賃は、燃料サーチャージの基準値を1リットル120円に置いた。いま軽油の全国平均は補助金込みで159円(3月30日時点)。補助金がなければ224円になる計算で、制度の前提と現実の差は、補助金を外した参考水準で見れば100円を超える。サーチャージ制度そのものは、形式上は機能する。だが大手荷主を含め、サーチャージを受け入れない企業が少なくない。120円どころか、旧基準100円のまま動く契約も残る。制度の前提が、価格と契約の両面で崩れた状態で、運送会社の資金が先に尽きるリスクが現実になりつつある。(編集長・赤澤裕介)

全日本トラック協会、日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会の3団体は3月27日、自民党本部で「燃料価格高騰等経営危機突破総決起大会」を開いた。寺岡洋一全ト協会長は「全国の会員から軽油の納入を拒否されたとのSOSが出されている」と述べた。問題は価格だけでなく、量の確保の危機に広がった。

軽油の全国平均小売価格は3月16日に178.4円に達した。1週間で28.6円の上昇は異例の幅だ。3月19日に始まった緊急的激変緩和措置で補助金が軽油1リットル65.2円に拡大され、3月30日時点では159円まで戻した。ただ、同日時点の補助金相当額65.2円を加えれば、補助金がなければ224円水準だった計算になる。

全国平均159円と現場240円。この差が、サーチャージ交渉の出発点を壊している。岡山県内の運送会社はインタンク納入で1リットル240円を提示された。全国平均との差は80円を超える。統計値をもとに交渉しようとしても、実際の調達価格は60円以上高い場合がある。

標準的運賃の燃料サーチャージは、基準値からの乖離幅を5円刻みの区分表で算出する。基準値は2020年告示で100円、24年告示で120円に改定された。算定根拠は2023年8月のローリー価格134.9円で、基準値はそこから15円近く低い120円に置かれた。国交省は一定の平準化を踏まえた水準として設定したが、足元では実勢との差が拡大している。

以下の試算は、告示の区分表を前提にしつつ、燃費は全ト協の経営分析報告書に基づく車種別平均値で置いた。224円は補助金相当額を外した参考水準であり、制度区分との対応を示すために置いている。

※224円は補助金相当額65.2円を加えた参考水準。端数処理は告示に準拠(1円未満切り上げ)。実車率・積載率・高速利用は織り込まない単純試算で、実際の請求額は契約条件で異なる

※同上

標準的運賃の中距離帯と照らしても、車種や条件によってはサーチャージだけで本体運賃に迫る。大型車700km帯で軽油224円の場合、サーチャージは1万8200円に達する。本誌の取材では、実勢の受託運賃は標準的運賃の7割前後にとどまるとの見方が複数の運送会社経営者から聞かれた。そうだとすれば、サーチャージが標準的運賃に迫るだけでなく、実勢の本体運賃を上回る案件も現実に出うる。

3月27日には国交大臣、中小企業庁長官、公正取引委員会委員長の3者連名で荷主関係団体に転嫁徹底を要請した。要請文では、協議拒否や転嫁拒否が独禁法上の買いたたきに該当するおそれがあり、トラック・物流Gメンの勧告・公表対象になりうると警告している。

だが制度的な圧力と、現場の転嫁率は一致していない。中小企業庁の価格交渉促進月間フォローアップ調査(2025年9月実施)では、トラック運送業の転嫁率は34.7%で全30業種中の最下位だった。全産業平均の53.5%を大きく下回る。前回調査(25年3月実施)の36.1%からも逆行している。公取委は社名公表を段階的に進めてきた。2022年12月に13社、24年3月に10社、25年3月に3社。物流特殊指定に基づく年次調査では、121社に立入調査、573社に注意喚起が行われている。それでも転嫁率は最下位圏から抜け出していない。

しかも、この問題は現行制度の中だけで終わらない。トラック適正化二法では、国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金を制限する仕組みが盛り込まれた。国交省は、この制度の導入に伴い現行の標準的運賃を廃止するとしている。いま残る120円基準の空文化や旧基準100円契約は、次の制度への移行を前に、なお解消されていない矛盾でもある。

制度が現場に浸透していないことは、旧基準100円の契約がなお残る事実にも表れている。

本誌が取材した複数の運送事業者は、荷主との契約上の燃料前提価格が20年告示時の100円のまま据え置かれていると証言した。3月27日大会で燃料不足を訴えた事業者の中にも、120円基準への切り替えが済んでいないケースがあった。

国交省の実態調査(25年7月公表)がこの構造を数字で裏づける。標準的運賃を提示して運賃交渉を行った事業者は41%にとどまる。改正後の標準的運賃の8割以上を収受できた事業者は45%で、前年の50%から5ポイント低下した。届出件数も事業者数全体から見て限定的で、制度の活用は広がっていない。

転嫁が届く前に資金が尽きる

帝国データバンクは3月18日、燃料費が3割上昇した場合、運輸業の営業利益の8割が消失し、4社に1社が赤字に転落するとの試算を公表した。全ト協の経営分析報告書(23年度)によると、営業利益率はもともと1%台にとどまる。燃料費の急騰を吸収する余力はほとんどない。

金融庁は3月23日、銀行・信用金庫に対して「燃料費高騰の影響を受ける運送事業者への貸し渋り・貸しはがしを行わないよう」緊急要請を出した。運送業の倒産件数は24年に374件で10年間の最多を記録しており、危機前から経営基盤は弱まっていた。

転嫁の遅れは、価格差そのものよりキャッシュフローのギャップとして経営を圧迫する。燃料費は毎日発生するが、サーチャージ交渉の成否が分かるのは数週間から数か月後だ。その間の立替資金が持たない事業者から順に、経営が行き詰まる。

運送事業者がいま確認すべきことは3つある。

第一に、自社が実際に調達している軽油価格を把握すること。交渉の起点は全国平均ではなく、自社の調達コストだ。インタンク価格、スタンド価格、契約条件を荷主別に整理しておく必要がある。

第二に、契約上の燃料前提価格が旧基準100円のままであれば、120円基準への契約改定を荷主に求めること。24年告示に基づく新基準は、価格改定交渉の根拠になる。

第三に、協議を求めても荷主が応じない場合は、トラック・物流Gメンの目安箱や公取委への申告制度を使うこと。並行して、金融庁の緊急要請を踏まえた銀行への資金相談も進める。転嫁交渉と資金手当てを同時に動かさないと、交渉結果が出る前に資金が尽きる。

平時に価格を決め直せなかった取引は、有事に会社を削る。制度は整った。残っているのは、荷主が払わない現実と、運送会社が不採算取引を整理できない現実だ。


この記事をより深く理解するために

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※為替・原油価格の基準日は記事中に記載の各時点

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