荷主ホルムズ海峡の封鎖から5週間。エチレン設備12基のうち6基の減産は続いている。追加停止こそ広がっていないが、不足が解消されたわけではない。(編集長・赤澤裕介)
非中東ルートからの調達は増えたが、中東減少分を埋め切るには至っていない。それでも、追加停止はひとまず広がっていない。
問題は価格だ。日本着のナフサスポット価格は4月3日時点で1トンあたり1190ドル。封鎖前の600ドル台から92%上昇した。不足が続いたまま、調達コストだけが2倍に跳ね上がっている。石油化学工業協会の工藤会長は3月24日、「4月は稼働維持が可能だが、5月以降が焦点だ」と述べた。全く来ない状態は避けられた。だが、不足を抱えたまま2倍のナフサで生産を続ける局面に入っている。
川下では4月1日出荷分から、旭化成がポリエチレン(PE)を1キロ120円以上、東レが合成繊維全品目を緊急値上げし、大型値上げが一斉に始まった。ナフサ危機は「届かない」から「高すぎる」へ移ってきた。
減産中の6基は、三菱ケミカル鹿島、三井化学の千葉・大阪、出光興産の千葉・徳山、AMEC水島(旭化成・三菱ケミカル共同運営)だ。三菱ケミカル鹿島は3月6日から、三井化学の2基は3月10日から、AMEC水島は3月11日から、出光興産の2基は3月16日から減産を続ける。いずれも4月に入って状況は変わっていない。
このうち三菱ケミカル鹿島(茨城県神栖市、年産48万5000トン)は5月からの定期修理が変更されていない。減産下での在庫積み増しが難しく、定修中に顧客への供給が絞られる可能性がある。国内能力の8%を占める設備が、減産中のまま定修に入る。5月の供給はさらに減る可能性がある。
定期修理で停止していた3基では動きがあった。東ソー四日市(年産49万3000トン)は3月17日に「再稼働の無期限延期」を発表していたが、業界専門紙が4月1日付で「4月末の再稼働を目指す」と報じた。当初の再稼働は4月20日前後だったため、遅れは10日にとどまる見込みだ。非中東ナフサの確保が進み、再稼働の見通しに変化が出始めた。
京葉エチレン(住友化学・丸善石油化学の合弁、千葉、年産69万トン)は1月下旬からの定修後、再稼働を4月初旬に延期した。再稼働後も低負荷運転が見込まれる。クラサスケミカル大分(旧レゾナック、年産61万8000トン)は2月から定修中で、4月下旬以降の再稼働が見込まれている。残る設備の個別稼働状況は公表されていない。
石油化学工業協会(JPCA)が3月24日に発表した2月のエチレン稼働率は75.7%だった。採算ラインの90%を43か月連続で下回った。2月の数値にはホルムズ封鎖(2月28日開始)の影響がほぼ含まれていない。工藤会長は「設備保全に必要な最低稼働率の70%近辺での運転が続く」との見方を示している。封鎖の影響が本格化した3月の実績がどこまで落ちたかは、4月23日の速報値で見えてくる。
4月に追加停止が広がらなかった背景には、非中東ルートの調達増に加え、各社が減産継続や在庫の取り崩しでしのいでいることがある。経産省は3月31日、4月の非中東ナフサ入着量が90万kLになると発表した。通常の45万kL前後から倍増する。ただし封鎖前は、中東が日本のナフサ調達の4割超を占めていた。非中東の倍増だけでは中東分の穴は埋まらない。その穴が埋まっていないことは、6基の減産継続に表れている。
うち30万kLが米国産で、4月1日朝に第1船が千葉・市原に到着した。ペルー、アルジェリア、豪州、インドからの調達も進む。ただし米国湾岸から日本への輸送日数は35〜45日で、中東ルート(15〜20日)の2倍かかる。調達先は広がったが、届く速度は遅く、補充の間隔は広がっている。
化学品市況の指標(大慶化学)では、4月3日の日本着ナフサスポット価格は1トンあたり1190ドル(円換算13万3981円/kL)に達した。石化メーカーの取引指標となる国産ナフサ基準価格は、2025年10〜12月期で6万5600円/kLだった。足元はその2倍を超えている。不足は残ったまま、採算だけがさらに悪化している。
韓国産業通商資源省が3月27日に発動したナフサ全量輸出禁止(5か月間)も調達先の選択肢を狭めている。25年の日本のナフサ輸入に占める韓国比率は9.4%で、中東減少を補う調達先はさらに限られた。
値上げの波、物流資材を直撃
不足を抱えたままの高コスト調達は、4月1日出荷分から川下製品の一斉値上げとして表面化した。
PEでは4社、PP(ポリプロピレン)では1社が値上げを打ち出し、いずれも4月1日出荷分から適用した。

旭化成は同時に合成ゴム全品を+160円/kg以上値上げしている。
三菱ケミカルは3月17日から4月1日にかけて7件以上の個別値上げを発表した。紙おむつ原料のアクリル酸製品+40円/kg以上、スパンデックス原料+165円/kg以上、食品包装フィルムのダイアミロン+20%以上を含む。用途ごとに値上げ幅が分かれ始めており、一律の転嫁では追いつかない。
合成繊維では東レが3月31日に「暫定的措置」として全品目の緊急値上げを発表した。4月出荷分からナイロンが+100円/kg以上、ポリエステルが+50円/kg以上、アクリルが+110円/kg以上。東レは3月27日に樹脂・炭素繊維にサーチャージ制度も導入し、従来3〜6か月かかっていた価格転嫁を1か月以内に短縮する仕組みを作った。
値上げは汎用樹脂や合繊にとどまらない。塩ビ樹脂でも信越化学、カネカ、積水化学、トクヤマが3月中に相次いで値上げを公表した。さらに、フクビ化学工業は4月1日からの全製品供給制限を打ち出しており、値上げだけでなく、供給制約も表面化し始めた。
値上げはまず包装資材に波及する。PE・PPの+80〜120円/kgは食品トレー、シュリンクフィルム、ストレッチフィルムの原価に直結する。次に樹脂パレットだ。物流の基幹資材である樹脂パレットはPE・PPそのものでできている。包装フィルムや樹脂パレットの供給縮小は、4月以降、物流センターの資材調達に影響し始める。
さらに、化学品値上げが荷主の生産コストを押し上げれば、荷主側の減産や出荷抑制を通じて荷動きそのものが減る経路もある。値上げの波は、資材コストの上昇だけでなく、荷動きの減少としても物流現場に及ぶ可能性がある。
官房長官は3月30日にナフサ由来製品の供給余力を「4か月分」と発表した。だがこの数字は川下製品(PE、PPなど)の在庫を含んでおり、ナフサ単体の在庫は20日分前後にとどまる。代替調達分も確保済みの量ではなく見込みを含む。
赤澤経産相のもとで4月2日に立ち上がった重要物資安定確保タスクフォースは、品目別・地域別の供給点検を始めた。だが、どの用途をどこまで優先するのかは、まだ見えていない。
停止の連鎖はひとまず食い止められている。だが不足は解消されておらず、価格は2倍に跳ね上がったままだ。問われるのは、この価格でどこまで作り続けられるかだ。次の焦点は、5月の定修集中と4月23日に公表される3月のエチレン稼働率だ。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
「備蓄放出でも届かないナフサ、21中分類に連鎖」(3月27日)
本シリーズの親記事。ナフサ不足がどの産業に波及するかを中分類で網羅し、深刻化の順番を示した。今回の値上げ連鎖はこの記事が示した「樹脂→2〜3か月」の時間軸で進行している。
「石化プラント減産、物流資材不足が4月迫る」(3月9日)
エチレン減産の初動を報じた記事。三菱ケミカル茨城の減産開始、PCSのFM宣言、ナフサ依存95%の構造を詳報した。今回の記事で扱うエチレン設備の基礎情報がここにある。
「封鎖1か月、物流を襲う3つの波」(3月30日)
韓国ナフサ禁輸、カネカ断熱材40%値上げ、非ホルムズ原油の初到着を報じた。4月1日からの値上げ連鎖はこの記事が示した「第2の波」の本格化にあたる。
「赤澤経産相が担当相兼務、重要物資の供給調整が焦点」(3月30日)
赤澤経産相への担当大臣発令と品目別供給状況を報じた。ナフサ由来製品の配分という新しい政策課題の出発点になった記事。
「透析34万人の命綱、樹脂が届かない」(3月27日)
本シリーズ第1回。ナフサ減産の影響が最も早く到達する医療業を深掘りした。医療への優先配分が物流資材の後回しにつながるという構図は今回の記事の末尾とつながっている。
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。
LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com
LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。
ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。

























