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WGは実務者協議明記、今回論点では後景に

デジタル教科書指針、供給網の位置づけ見えず

2026年4月11日 (土)
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荷主全国の小中高校に紙の教科書を届けている書店は、この27年間で4040店から2551店まで3分の1以上減った。文部科学省は10日、デジタル教科書を含む新制度の指針を議論する検討会議の初会合を開き、有識者による議論を始めた。会議で示された論点は紙とデジタルの使い分けや発達段階、健康影響、ICT環境など10項目で、紙の教科書を誰がどう届け続けるかは前面に出ていない。(編集長・赤澤裕介)

委員には学校現場や教育行政、教科書業界、学校保健、認知科学などの関係者が入ったが、紙の教科書を特約供給所や取扱書店を通じて全国の学校に届けている一般社団法人全国教科書供給協会の代表は、初会合の委員構成には見当たらない。

会議は初等中等教育局長決定に基づき4月1日付で設置され、12月末までに指針を取りまとめる。座長には、中央教育審議会(中教審)デジタル教科書推進WGで主査を務めた堀田龍也東京学芸大学副学長が就いた。

初会合では、発行者や採択権者の負担軽減も論点に含まれた。ただそこでも、特約供給所や取扱書店といった紙の教科書を届ける担い手は明示されていない。負担軽減の主語は発行者と採択権者にとどまり、両者の間で紙の教科書を実際に運ぶ側は、論点の表に出てこない。

WGは実務者協議明記、今回論点では後景に

対比すべきは、この検討会議の土台となった中教審デジタル教科書推進WG審議まとめ(25年9月公表)だ。計12回の審議を経て制度改革の骨格を整理した文書で、初会合でも参考資料として配布された。

WGは、発行・供給をめぐる実務について、より具体に踏み込んでいた。「国、教科書発行者、供給会社の実務者による協議」を行い、転学への対応などの実務ルールを定めるよう求めた。教科書価格についても、デジタル化で必要となるコストに見合った水準を国が検討すべきだとしている。WGは、紙の教科書を届ける供給会社を制度設計に組み込んでいた。

ところが初会合で示された論点からは、このWGの整理をどう引き継ぐのかが読み取りにくい。10項目に実務者協議の文言は見当たらず、会議で議論される「発行・採択・使用に関する留意点」は発行者と学校現場の関係に軸足がある。WGが明記した供給網の論点は、初会合で示された論点表では前面に出ていない。

紙の教科書の供給網は、デジタル化を待たずに縮小の途上にある。教科書協会が25年7月に公表した「教科書発行の現状と課題(2025年度版)」によれば、全国の学校に教科書を届ける取扱書店は98年の4040店から25年4月には2551店まで減った。27年間で1489店、37%近い減少だ。現行の体制は、教科書発行者39社、特約供給所53か所、取扱書店2551店で全国の3万4966校を支えているが、取扱書店の減少は続いている。

教科書協会自身も、供給網に「完全供給に支障をきたすおそれ」があると指摘している。後継者不足や複雑な供給形態への対応で取扱書店の経営維持は年々厳しくなり、廃業や教科書取り扱いの辞退が続いているとした。特約供給所の負担も増えている。協会は、現在の供給体制を安定的に続けるには教科書定価の適正化が必要だと結論づけている。紙の教科書が制度上残っても、届ける側の採算が先に崩れれば完全供給は維持できない。

ここにデジタル教科書の採択制度が加わる。各教育委員会は今後、紙のみ、デジタルのみ、紙とデジタルを組み合わせたハイブリッドの3形態から1つを選ぶ。デジタル選択が進む地域ほど紙の物量が減り、既存の配送網の稼働率は落ちる。供給網は地域ごとの物量密度に依存して成立してきた仕組みであり、一部地域で物量が抜けても固定費は急には下がらない。1冊あたりの配送コストは上昇し、そのしわ寄せは需要密度の低い地方に先に出やすい。その結果、紙の需要が相対的に残る地域ほど、届けにくくなる逆転が起こりうる。

影響は教科書だけにとどまらない。書店が教科書取り扱いをやめれば、副教材やドリル、テスト、指導書といった周辺商材の配送チャネルも同時に失われる。学校教育で日常的に使う紙教材の供給基盤が細る。

供給網を維持するうえでは、教科書価格の設計も論点となる。デジタル教科書には、紙にはなかった費用が継続して発生する。データ加工費やクラウド費用、OSやブラウザ対応、保守管理などだ。紙の教科書の定価には、こうしたデジタル特有のコストは含まれていない。WGが適正な価格設定の検討を求めたのは、コスト面の見直しを前提としていたためだ。

指針は12月末までに取りまとめられる。供給網の論点をこの会議本体で扱うのか、WGが求めた3者協議として別ルートで進めるのか。初会合の段階ではまだ見えていない。

この記事をより深く理解するために

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