話題国内レンタルパレット市場における歴史的な統合が、食品サプライチェーンに新たな地平を切り開こうとしている。日本パレットレンタル(JPR)は3月18日、同業の日本パレットプール(NPP)への株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表。4月17日付で完全子会社化し、新たなスタートを切った。物流の2024年問題やトラックドライバー不足が食品の安定供給を脅かすなか、輸送用レンタルパレットの2社の融合は、食品メーカーや物流事業者にどのような価値をもたらすのか。JPRの二村篤志社長を取材した。

▲日本パレットレンタル(JPR)の 二村篤志社長
加工食品と石油化学品のネットワークが交差する
今回の統合が食品業界に与える最大のインパクトは、これまで交わることの少なかった「加工食品・日用品」と「石油化学」のネットワークがシームレスにつながる可能性が高まった点にある。JPRは加工食品や日用品、農産物の領域で高いシェアと知見を持つ。一方のNPPは、石油化学(石化)業界などに深く入り込み、独自のネットワークを築き上げてきた。
異業種の荷主間で輸送を組み合わせる「物流共同化」の最大の障壁は、荷物を載せる規格がそろっていないことだ。規格が違えば、荷役や保管のオペレーションが統一できない。JPRは長年、T11型(1100ミリ×1100ミリ)の標準パレットを普及させており、NPPはT11型とともに石化業界で14型(1400ミリ×1100ミリ)に注力してきた。
「日本の標準規格パレットはT11型であることを前提としつつ、互いに民間企業である両社が差別化を図りながら競争をしてきた。これは当然のことだと思う」。そう語る二村社長は統合の意義についてこう続ける。
「ハードとしてのパレットだけではなく、それらを運用する両社のネットワークから価値を創造できると考えている」
例えば、食品の配送において長年の課題となっているのが「帰り便」の確保や、積載率の向上だ。これまで別々のパレットシステムで動いていた加工食品と石化製品の荷物が、同じグループのインフラで運用されるようになれば、トラックの相互乗り入れや異業種間の共同配送のハードルは下がる。JPRはすでに、日用品と食品の間で共同輸送の枠組みを構築してきた実績を持つ。ここに石化業界の大ロットの荷流が組み合わされば、行きは食品、帰りは石化製品(またはその原料となる樹脂など)といった運用による積載率の向上が見込め、手荷役や荷待ち時間の削減という現場の「痛み」にも直接的な処方箋を提示できる可能性が高まる。
共同物流と一貫パレチゼーションの「相互補完」
ただし、この異業種間の共同物流が真に機能するためには、単にパレットが導入されているだけでは不十分だ。発地から着地まで荷物をパレットに載せたまま輸送し、積み替えの手荷役を一切発生させない「一貫パレチゼーション」が前提となって初めて、共同化による積載率向上や車両回転率の向上という付加価値を最大限に引き出すことができる。共同物流と一貫パレチゼーションは、いわば相互補完の関係にある。国の「総合物流施策大綱」でも、この両輪の推進が喫緊の課題として掲げられている。
その一貫パレチゼーションの普及を歴史的に阻んできた最大の壁が、パレットの「回収・管理」だ。
自社保有のパレットを用いた場合、遠方の納品先まで空パレットを回収しに行くコストは膨大で、紛失リスクも高い。そのため、流出を恐れるあまり出荷時に別のパレットへ積み替えたり、バラ積みに直したりしてしまい、結果的に一貫パレチゼーションが途切れてしまうケースが少なくなかった。国の「パレット標準化推進分科会」において、一貫パレチゼーションを実現するための標準的な運用として「レンタル方式」が強く推奨されているのはこのためだ。「どこでも借りて、どこでも返せる」プール制を利用することで、荷主や物流事業者は回収の手間や紛失リスクを低減することができる。
とはいえ、それだけで現場の「手間」が完全に消えるわけではない。納品後、トラックドライバーは空になったレンタルパレットを回収し、管轄のデポ(サービス拠点)へ返却しに行く必要がある。共同物流によってせっかく帰り便を確保しても、回収作業やパレットの返却動線が非効率であればそのメリットは相殺されてしまう。つまり、パレットを循環させる「静脈」をいかに効率的にするかがカギなのだ。特に多品種少量生産で納品先が細分化しやすい食品業界では、この返却の負担が重い。
今回の統合は、この「静脈の課題」に対する解答となりえる。JPRが展開する60か所のデポと全国3150か所の共同回収拠点網に、NPPが持つ200か所のデポが合わさり、圧倒的な規模と密度を持つネットワークが誕生する。拠点戦略について二村社長は「デポは増やせばよいというわけでも、減らせばよいというわけでもない。デポと運送ネットワークを一体的に捉え、いかに最適化していくか。それがサービスの利便性と安定性を高めることにつながる」と今後の方向性を示す。
市場シェアが拡大することで、一部には荷主側の価格交渉力が弱まるのではないかという懸念も生じうるが、JPRはこれを単純なコスト削減や囲い込みのための統廃合とは位置づけていない。NPPが長年培ってきた石化業界などとの強固な信頼関係や独自の運用ノウハウに対し、二村社長は「我々より現場を知っているはず。まずはNPPさんが長年お取引されている業界の物流課題を我々にも共有していただき、一緒にお客様に合った解決方法を提案していきたい」と語る。この「対等な融合」は、一貫パレチゼーションの実現にも寄与する。
「パレットの循環の効率を高めるために、運用規模は重要な要素。しかし、2つの独立したシステムでは意味がない。両社の経験を活かして統合を図りながら一貫パレチゼーションの普及に努めたい」(二村社長)

輸送用パレットに軸足を置くJPRとNPPの統合により、一貫パレチゼーションの基盤が強化されることで、前段で触れた共同物流の推進力もさらに高まることになるのだ。
物流情報でも「つなぎ役」
こうした物理的なネットワークの結合以上に、JPRが統合の核心と位置づけるのが「情報ネットワークの融合」だ。JPRは現在、同業のユーピーアールと共同で、パレットをはじめとする物流容器の循環型運用を容易にするサービス基盤「XROP」(クロップ)を展開しているほか、納品伝票の電子化や共同物流のマッチング支援などにも取り組む。ここにNPPの事業基盤が加わることでデータ基盤として強化されるだけでなく、ユーザーにとっても物流データの連携先が増え、個社では対応できない課題を企業・業種をまたいで解決できる可能性が高まる。
ここで重要なのは、JPRが特定のプラットフォームで市場を囲い込むような存在になろうとしているわけではないという点だ。二村社長は、企業と企業がデータをやり取りする際に「繋ぎ役」が不在であることが、物流効率化を阻むボトルネックの一つだと分析しており、自社の役割を「多様な企業と企業がデータでも連携する時に、標準化されたシステムで多数の人と多数の人がやりとりできる場というか、繋ぎ役。そういうところに本当に価値がある」と表現する。
プラットフォーマーとして君臨するのではなく、あくまで異なる企業システム間で膨大なデータを円滑に流通させる「パスの出し手」、すなわちフィジカルインターネットの実現に向けた一歩手前のインフラとして機能することに、自らの存在価値を見出しているのだ。
ロジスティクスを「投資」と捉えるCLOへ
こうした取り組みの先に見据えているのは、サプライチェーン全体の意識改革だ。現在、一定規模以上のメーカーや小売業者には物流統括管理者(CLO)の選任が求められているが、二村社長は「形だけのCLO配置にとどまっては本来の目的を果たせない」と危機感を示す。
「調達、生産、営業、財務などを俯瞰してサプライチェーンを設計するのがCLO本来の役割だ。物流は単なるコストではなく、モノを作って消費者に届けるまでの過程を持続可能にするための投資として捉え直す必要がある。CLOになることをマイナスに捉えず、自社の企業価値を高めるチャンスと捉えてほしい」
日本の物流業界では、毎年5000万枚のパレットが生産されていると言われるが、レンタルパレットとして循環しているのはその一部に過ぎず、50年以上前に提唱された一貫パレチゼーションの理想にはまだまだ届いていない。
今回の統合は、この壮大で未完成のインフラを完成に近づけるための歴史的な一歩となるか、今後の動向が注目される。CLO選任義務化のタイミングと重なっているのは、決して偶然ではないはずだ。統合された新たなパレット網をいかに使いこなし、自社の競争力に変えていくか。食品業界をはじめとする各プレイヤーのロジスティクス戦略が問われている。




























