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2028年までに全世界にある倉庫業務の40%が導入

ゲーム大手が解決指南、倉庫人手不足に効く新手法

2026年4月14日 (火)

ロジスティクス米調査会社ガートナーが2月に発表した予測は実に衝撃的だった。2028年までに、全世界にある大規模な倉庫業務の40%が従業員エンゲージメント(社員のやる気や会社への愛着)向上を目的として、新たな手法「ゲーミフィケーション」を活用したツールを導入するという。近い将来、数多くの倉庫がゲーム性に富んだシステムを現場に採用するというのだ。

背景にあるのは深刻化する人手不足と離職率の高止まりだ。倉庫の仕事は同じ動作の反復になりやすく、会話が少ないこともある。頑張りの手応えが見えにくい現場では、「やりがいがない」「モチベーションが続かない」とこぼす声が少なくない。

セガの知見を社会課題の解決へ

この難題に、正面から向き合う企業がある。ゲーム大手セガが磨いてきたゲーム開発の「人を夢中にさせる手法」を非ゲーム分野に活用するゲーミフィケーションの社会実装を手がけるセガエックスディー(東京都新宿区)だ。人手不足にあえぐ物流現場に、この仕掛けは効くのか。同社エクスペリエンスデザイン部の部長兼人事企画担当部長・田岡雄氏と、同部プランナー・金谷航氏に、その手応えを聞いた。

セガエックスディーは、セガから分社化して生まれた。田岡氏は「ゲーム会社は自社のエンターテインメント制作に特化しています。私たちはそこから一歩踏み出し、セガで培った知見を携えて非ゲーム業界の企業と組み、社会課題の解決を目指します」と語る。ゲームやエンターテインメントなどを分析し、人の欲求と、それに応じた手立てを整理したり、ゲーミフィケーション研究所の運営なども実施してきた。「ゲーミフィケーションを事業の芯に据えているのは、国内でもおそらく私たちだけでしょう」と田岡氏は語る。

日常に潜むゲームの仕掛け

では、ゲーミフィケーションとは何か。ゲームが人を夢中にさせる仕掛けを、日々の場へそっと移し替える技法である。田岡氏は「使いやすいサイト」と「つい指が伸びるサイト」は別物だと言い、「その差を生むのがエンターテインメントの力です」と語る。ポイントカードやスタンプラリー、マイレージなど、暮らしの足元には小さな”ゲーム”が転がっている。回転寿司の皿回収ゲームも、5杯で1杯無料のスタンプも、本質は同じだと語る。

▲セガ エックスティー エクスペリエンスデザイン部の部長兼人事企画担当部長・田岡雄氏(左)と同部プランナー・金谷航氏(右)

一度廃れた理由と、本質への回帰

ゲーミフィケーションには、一度は流行の波に呑まれ、静かに退いた時期がある。15年前、ポイントやバッジを貼り付ける手法がもてはやされたが、熱はすぐに冷めた。田岡氏は「手法だけが先に走り、本質をつかまないまま実装した。結果として、その場しのぎになった」と語る。金谷氏も「ゲームは面白いから続ける。ポイントは、その面白さを引き立てる1要素です。面白味を置き去りにしてポイントだけ配ったことが問題でした」と語る。報酬を渡すこと自体ではなく、いつ、どんな形で手渡すか。その設計こそが、ゲーミフィケーションの要になるということだ。

「物流の現場はゲーミフィケーションと相性がいい」と田岡氏は断言する。力を発揮するのは、単調さが人の気持ちを削る現場だ。仕分けて運び、棚に収める。その反復の隙間に小さな遊び心を差し込めば、作業はただの苦行ではなくなる。「単調さで気持ちが途切れる現場に、エンターテインメントを処方できるのです」と田岡氏は語る。日本でもガートナーの予測の通り、相談する物流企業が増えているといい、「この流れは今後も加速しそうです」と語る。

「ゲームです」と言わない導入術

導入の肝は、「ゲーミフィケーションです」と宣言しないことだ。種明かしをしようものなら、現場は身構える。田岡氏は「まずは効率化のツールとして入れて、触るうちに『少し楽しい』『数字が見えると動ける』と気づいてもらうのが理想」と語る。たとえばホワイトボードに「今日10個運んだら星」を付ける。そんな小技でも十分に回る。デジタルかアナログかは枝葉にすぎない。人がつい手を伸ばしたくなる筋書きが描けているか、そこに尽きる。

▲ 神奈川県総合防災センターはゲーミフィケーションを採用し、全員での避難成功を目指すゲーム体験型防災訓練コンテンツを提供(出所:セガ エックスディー)

返却率も上げる「静脈物流」への応用

物流の悩みは、人材の定着だけにとどまらない。いま注目を集めるリバースロジスティクス(静脈物流)、返品、回収、リサイクルといった”逆流”の現場にも、ゲーミフィケーションは意外な効き目を見せるという。この領域に詳しい金谷氏は「『返してください』で動く人は、言われなくても返す人です。動かない人には『これは早めに返した方がよさそうだ』と、理屈より先に体が反応する合図を差し出すのが大事です」と語った。

金谷氏は行政の督促状を引き合いに出す。「特別催告状は、妙に目に刺さる色で届く。封を切らずにいられない、そんな“胸騒ぎ”を仕込んでいます。返却用の段ボールも同じ色で送れば、『この色は返せの合図だ』と、理屈より先に体が動きます」と語る。

自治体の健康診断の受診率向上にも、同じ発想が効くと金谷氏は指摘する。「人は損を避けたがります。『今年受けないと来年は受診できない』と告げれば、『なら今年受けよう』と背中を押される。言葉の選び方や通知の見た目を少し変えるだけでも、この“先回りの合図”は、リバースロジスティクスの現場で十分に生きる」と金谷氏は語る。

9つの欲求が、行動を動かす

セガエックスディーは、ゲーム制作で磨いた「人を夢中にさせる手法」を非ゲーム分野に転用し、企業のマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメーション)、新規事業を後押しする。要は、人の行動をそっと押し出す「9つの欲求」をもとに、課題ごとに効き目の強い欲求を組み合わせて手法に落とす設計だ。田岡氏は「達成、関係、(損失の)回避といった欲求に触れると、人は自然に動き出します」と語る。9つの欲求と101の手法をまとめた一覧表に加え、難物になりがちな概念はカードゲームに仕立て、活用しやすい形へ整えたともいう。物流の悩みもまた、欲求の地図で読み解ける。そこにゲーミフィケーションの強みがあるのだ。

導入で田岡氏がまず、課題の「根っこ」の掘り起こしに着手する。「辞める理由は一枚岩ではありません。体力が尽きて去る人もいれば、単調さで心が折れる人もいる。理由が違えば、処方箋も変わります」と田岡氏は語る。課題抽出そのものを“遊び”に変えるワークショップ商品「課題解決クエスト」も用意した。「縛りプレイのように言葉を制限すると、惰性がほどけて発想が跳ねる。思わぬ組み合わせが生まれるのが面白い」と田岡氏は語る。

目指すのは「会社のファン」をつくること

田岡氏がゲーミフィケーションの到達点として掲げるのは、「従業員が会社のファンになること」だ。ポイントや可視化は、主役ではなく舞台装置にすぎない。「気づけばこの会社が好きになっていた。そんな状態をつくるのが理想。会社が好きになれば、人は辞めません」と田岡氏は語る。自ら動き、腰を据える。その自然な循環を引き出す力が、ゲーミフィケーションにはある。

人口減少が進む日本で、物流を担う人材をどう確保し、どう定着させるか。現場の処方箋としてゲーミフィケーションが選択肢になった。「出発点は、どうすれば人は動くのか、という問いです。ゲームの力を前向きに生かせるのは、企業とマネジメントです。本腰で取り組めば、持続可能な物流現場につながります」と田岡氏は語る。倉庫の仕事が、気づけば“没入”になる日も、そう遠くないかもしれない。(星裕一朗)

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