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日本の原油調達、複数ルート運用へ急旋回

2026年4月29日 (水)

荷主日本の原油調達をめぐり、3つの動きが連続した。26日にコスモ石油の千葉製油所へ米国産原油が到着し、28日には出光タンカーが運航する超大型原油タンカー(VLCC)「出光丸」がホルムズ海峡を通過したとみられる。同じ28日にはUAE(アラブ首長国連邦)がOPEC(石油輸出国機構)とOPECプラスからの脱退を発表した。いずれも単独では限定的な動きだが、重ねて見ると、中東依存を前提にした供給網が、非中東調達、ホルムズ迂回ルート、選別通航、備蓄放出を組み合わせる複線運用へ移り始めたことを示している。(編集長・赤澤裕介)

米国産・ホルムズ迂回・選別通航、3経路の動き

コスモ石油千葉製油所が受け入れた米国産原油は、14万5000キロリットル前後。国内需要でみれば半日分に相当する。テキサス州を3月22日に出発し、パナマ運河を経由して35日で千葉に着いた。喜望峰回りなら55日程度かかるとされる航路に比べ、20日ほど短い。

ただ、この1隻だけで中東依存が変わったとはいえない。すでにホルムズ迂回ルートとしては、サウジアラビア紅海側のヤンブー港経由が3月28日に太陽石油の四国事業所(愛媛県今治市)菊間へ初着し、UAEのフジャイラ港経由が4月5日に初着している。これらは中東産原油をホルムズ海峡を通さずに積み出す経路だ。今回のコスモ石油千葉製油所への米国産原油到着は、量としては国内需要の半日分にとどまるが、中東以外からの代替調達が、計画や契約段階を越え、実際の国内搬入に至った点が違う。

政府は4月下旬の関係閣僚会議で、5月の代替調達量について、前年同月実績の6割前後に相当する水準まで確保できる見通しだとの認識を示している。5月の米国産原油の調達は日量換算で9万バレル前後とされ、前年同月の4倍規模に拡大する見通しだ。これは前年同月の原油輸入全体の15%前後にあたる。

一方、出光丸の通過は性格が異なる。出光丸は出光タンカーが運航する超大型原油タンカーで、サウジアラビア産原油200万バレル規模を3月上旬にジュアイマ積出港で積載した船だ。船舶追跡データでは、4月28日にホルムズ海峡を東向きに抜けた航跡が示されている。海外通信社の報道では、5月中旬に日本へ到着するとの見通しが伝えられている。出光側は安全上の理由から個別の船舶についてコメントしておらず、現段階では追跡データに基づく観測であることを留保しておきたい。

それでも、この通過は調達実務上の選択肢が残っていることを示す。ホルムズ海峡では、2月28日のイラン情勢急変以降、3月にかけて商業船の通航がほぼ止まった。3月の商船通航隻数は平時の6%水準に落ち込んだ。4月以降はイラン革命防衛隊の許可制下で限定的な選別通航が始まったが、公開情報で確認できる範囲では、出光丸は日本関連の原油VLCCによる最初期の通過事例にあたる。

つまり、4月下旬時点で日本の原油調達には、米国産を含む非中東ルート、ヤンブーやフジャイラを起点とする中東産原油のホルムズ迂回ルート、出光丸のような選別通航によるホルムズ通過という3つの経路が、いずれも実際の船積み、航行、到着を伴って動き始めている。

これらの経路は性格が異なる。米国産は調達先の分散、ヤンブー・フジャイラは中東産原油の輸送経路の迂回、出光丸はホルムズ通過の選別運用、後述する備蓄放出は到着までの時間差を埋める政策手段である。性格の異なる手段を重ね始めたことに、今回の変化がある。恒常的な調達網の組み替えとは別の動きであり、危機下で複数の手段を同時に動かす、応急的な複線化である。

UAEのOPEC脱退、湾岸供給の選択肢に変化

UAEは4月28日、国営通信を通じて、OPECとOPECプラスから5月1日付で脱退すると発表した。UAEのエネルギー相は、主権的な政策判断だと説明し、生産政策と将来能力の包括的見直しを経たうえでの決定だとしている。

OPECの存続論よりも日本の原油サプライチェーンへの影響に焦点を当てる。論点は3つに絞られる。

第1に、UAEがOPECプラスの減産制約から外れることで、原油生産・輸出を独自判断で増やせる立場になる。UAEは日量300万バレル台の原油生産能力を持ち、500万バレル規模への能力拡大を掲げてきた。協調減産下では生産余力を十分に使い切れない状態が続いていたが、脱退によって量の判断余地は広がる。脱退後の生産量は、設備、販売契約、輸送能力、価格への影響を見ながら判断される。

第2に、UAEの輸出ルートは、ホルムズ海峡を通る通常ルートと、UAE北部のフジャイラ港を起点とする迂回ルートに分かれる。アブダビからフジャイラに伸びるハブシャン・フジャイラ原油パイプラインの能力は日量150万バレルとされる。フジャイラ港全体では、2025年実績で原油・石油製品の日量170万バレル超を輸出していた。フジャイラはオマーン湾側に面しており、ホルムズ海峡を通らずに東アジア向けへ積み出せる。このルートは、日本にとって選別調達路になり得る。

第3に、ADNOC(アブダビ国営石油会社)の動きだ。ADNOCは国営石油会社でありながら、近年は海外の生産・販売網を広げ、国際石油会社に近い動きを強めている。海外通信社の報道によれば、UAE側はADNOCを世界のバリューチェーンに関与する供給者と位置づけている。OPECの量規律から離れたADNOCの対日供給余力が、5月以降の焦点となる。

出光丸が示した選別通航と、UAEの脱退は逆向きに見えるが、いずれもホルムズ封鎖下で原油を動かす選択肢を増やす点でつながっている。出光丸はホルムズを完全には避けず、許可制下で通す経路を残す動きだ。一方のUAE脱退は、ホルムズを避けるフジャイラ側の供給余地を広げる可能性を持つ。

ただし、UAE離脱を供給不安の解消材料と見るには限界がある。フジャイラ経由パイプラインの能力日量150万バレルは、平時にホルムズ海峡を通過していた石油フロー日量2090万バレルと比べれば1割以下にとどまる。UAE産が増えても、ホルムズに依存する湾岸産油国の出湾の流れを一気に置き換えることはできない。フジャイラ周辺でも3月から4月にかけて安全保障上の緊張が高まっており、紅海側ヤンブーと同様、別系統のリスクを抱えている。

もう一つの線が国家備蓄だ。3月26日に第1弾として850万キロリットル、30日分の放出が始まり、5月1日からは第2弾として580万キロリットル、20日分が追加される。備蓄は、代替原油が国内に届くまでの時間差を埋める政策手段になる。

UAE脱退は5月1日に発効する。同じ日、日本では国家備蓄原油第2弾の放出が始まる。出光丸は5月中旬に日本へ到着するとの見通しが伝えられている。

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