行政・団体高市早苗首相と韓国の李在明大統領は19日、慶尚北道安東で会談し、原油・石油製品・LNG(液化天然ガス)の相互融通(スワップ取引)を含むエネルギー安全保障協力を具体化することで一致した。経済産業省(METI)と韓国産業通商部(MOTIR)は同日、首脳会談の成果として「エネルギー安全保障及びサプライチェーン強靱化に関する協力強化についての共同プレスリリース」を連名で発出し、原油・石油製品では官民対話を促進、LNGではJERAと韓国ガス公社(KOGAS)が3月に結んだ運用最適化MOUを土台に協議を深める方針を示した。重要鉱物を含むサプライチェーン強化は、3月14日付のMETI・MOTIR間サプライチェーン・パートナーシップ協力覚書の下で推進する。物流網の実装はこれからで、対象品目、融通量、輸送ルート、参加事業者はいずれも未確定だ。(編集長・赤澤裕介)
ホルムズ海峡では2月28日以降、米国・イスラエルとイランの軍事的緊張で実質的な通航制約が3か月目に入っており、日本の2026年2月の石油製品輸入のうち韓国産は60万klで全体の36.6%を占めて最大の供給元となっている。逆方向でも25年の韓国の石油製品輸出のうち日本向けは11.3%で3位を占めており、両国はLNGでも世界有数の輸入国同士で危機時の融通余地を持つ。今回の合意は、こうした相互依存を危機時の融通インフラに転換するための入口に位置づけられる。

▲首脳会談での高市早苗首相と韓国の李在明大統領(出所:首相官邸)
会談は14時32分から105分行われ、終了後に両首脳が共同記者発表に臨んだ。経産省と産業通商部の共同プレスリリースは、前日18日に赤澤亮正経産相と金正官(キム・ジョングァン)産業通商部長官が開いたオンライン大臣会談で内容を詰めたうえで、19日に日本語版と英語版が公表され、両首脳は同時に両省間で「産業・通商政策対話」を新設することでも合意した。
合意の核心は、外務省の会談概要と共同プレスリリースに照らすと2つの柱に整理でき、1つは4月に高市首相が発表した日本主導のアジア向けエネルギー金融協力枠組み「POWERR Asia」の下でインド太平洋地域の備蓄強化を含む供給強靱化を推進すること、もう1つが日韓間で原油・石油製品・LNGの相互融通とスワップを軸にしたエネルギー安全保障協力を進めることで、具体的な行動は産業当局が今後検討する。

(出所:首相官邸)
「POWERR Asia」(アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ)は、JBIC(国際協力銀行)融資、NEXI(日本貿易保険)輸出保険、JICA(国際協力機構)投融資を束ねた100億ドル規模(1兆5000億円規模)の政策金融スキームで、4月15日のAZECプラスオンライン首脳会合で発表された。日本の備蓄原油を放出する仕組みではなく、アジア各国の代替原油調達、対日サプライチェーン維持、備蓄インフラ整備、重要鉱物確保を金融面から下支えする設計で、先行案件として5月2日の日越首脳会談で合意した、出光興産が運営に関わるベトナム最大のニソン製油所(日量20万バレル)への原油400万バレル相当の調達支援があり、NEXI保険で信用補完する。安東会談で韓国は支援対象というより、域内備蓄強化を日本とともに進める協力相手として位置づけられた。
LNG分野では、3月14日にKOGASとJERA(東京都中央区)が東京で結んだ運用最適化MOUが起点となる。同MOUはカーゴ・スワップとターミナル運用最適化、需給情報共有を内容とし、赤澤経産相と金正官産業通商部長官の立会いの下で署名された。両国は危機時の需給調整を念頭に置く大口需要家として協調する立場で、共同調達や価格交渉の一体化までは公式に踏み込んでいない。国際ガス連盟(IGU)の25年版世界LNG報告書によると、24年の世界LNG貿易4億1124万トンのうち日本は16.47%、韓国は11.43%を占め、両国合計で世界貿易の28%に達する。
原油では、日本の中東依存度が24年度に95.9%と1965年度以降で最大、韓国は2025年通年で69.9%と22年以来の最低水準にあるものの、いずれもホルムズ海峡通過に大きく依存する点で構造は同じだ。備蓄は経産省の暫定値で日本が243日分(国家備蓄145日分、民間備蓄91日分、産油国共同備蓄6日分)、韓国産業通商部の発表で韓国が208日分と、両国ともに先進国でも突出した水準を保つ。共同記者発表で李大統領は「原油需給・備蓄に関する情報共有と疎通チャンネルも深化していく」と述べており、公的備蓄、民間在庫、製品融通のどこまでを対象にするかが今後の焦点となる。
物流業界にとって今回の合意は実務上の出発点にすぎず、原油、ナフサ、軽油、ジェット燃料、重油、LPG(液化石油ガス)、LNGのどこから優先するか、平時の在庫最適化なのか危機時協定なのか、品質規格・通関・備蓄放出手続き・船腹・保険・港湾荷役能力などの実務制約をどう整理するかが、これから産業・通商政策対話の場で詰められていく。
今回の安東会談で確認できることと、まだ決まっていないことは次のとおりだ。
相互融通を実装する場合、韓国側の蔚山・麗水・大山などの製油所と平澤・三陟・統営・仁川などのLNG基地、日本側の根岸・水島・四日市・川崎などの製油所と知多・袖ヶ浦・四日市・水島などのLNG基地が、潜在的な接点となる施設群だ。タンカー・LNG船の運航計画、共同チャーター、危機時の優先航路確保などが今後の論点となる一方、釜山港・光陽港と日本主要港を結ぶコンテナ航路への直接的な合意は現時点で確認されていない。

(出所:首相官邸)
ホルムズ海峡では2月28日以降、湾岸の海上輸送リスクが現実化しており、韓国海運会社が運航する船舶26隻が周辺海域で1カ月以上待機しているとの報道に加え、5月4日にはUAE北部の港外でHMM運航のコンテナ船「Namu」の機関室付近で爆発が発生、乗組員24人は全員無事だったものの中東情勢が日韓双方の海上輸送に直接の負荷をかけている。日韓は原油輸入の中東依存と地理的近接性、大規模な備蓄、精製・石油化学の生産競争力、世界2位・3位のLNG輸入規模という共通点を持ち、危機時に短距離で物資をやり取りできる相手として互いの存在を制度的に位置づける合意の意味は、こうした条件の重なりに支えられている。
19年の輸出管理問題で表面化したように政策判断は供給網に直接波及するが、今回の合意は日韓のエネルギー物流網が直ちに動き出すことを意味するものではなく、ホルムズ危機で露呈した原油・石油製品・LNGの調達リスクを、両国の備蓄、製油所、LNG基地、船腹、金融支援の組み合わせでどう補完するかを、政府と民間が同じテーブルで詰める段階に入った。スワップの実効性は、外交文書ではなく、対象品目、数量、船腹、港湾、品質規格をどこまで実務に落とし込めるかで決まる。
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