行政・団体政府は5月21日、首相官邸で第8回中東情勢に関する関係閣僚会議を開いた。高市早苗首相は、原油やナフサ由来の化学製品を含む石油製品について「年を越えて」供給継続が可能との見通しを示した上で、流通過程で発生している滞留の実態把握と解消を関係大臣に指示した。経産省はこれまでに流通の偏り解消の累計を346件と報告し、滞留の発生パターンを3類型に整理。地方経産局、地方整備局、地方運輸局、地方農政局が連携して川下のプッシュ型把握に乗り出す方針が示された。第7回(5月12日)で首相が打ち出した川下対応の優先方針が、業種別の実装に進んだものといえる。(編集長・赤澤裕介)
国内対策では、ガソリン、軽油、重油、灯油などへの補助を継続している。物流の主燃料である軽油の全国平均小売価格は、3月19日出荷分から始まった緊急的激変緩和措置と、4月1日の軽油引取税の暫定税率(17.1円/L)廃止により、3月16日時点の178円40銭から5月18日時点で158円60銭まで19円80銭下がった。資源エネルギー庁が5月21日から27日に適用する軽油の補助単価は、1リットル当たり41円80銭で、ガソリンと同額。ガソリンの全国平均小売価格も、3月16日時点の190円80銭から5月18日時点で169円20銭まで低下している。なお、3月27日には全日本トラック協会、全国ハイヤー・タクシー連合会、日本バス協会の3団体が「燃料価格高騰等経営危機突破総決起大会」を開き、安定的な軽油確保のための環境整備を訴えるなど、運送業界の関心度は高い。
原油やナフサ由来の化学製品を含む石油製品は、代替調達の進展により年を越えて供給継続が可能となっているが、流通過程で滞留が発生している。ここでいう滞留は、総量として供給が確保されていても、商流上の情報不足、数量制限、過剰発注、荷姿不足などにより、必要な事業者に必要量が届かない状態を指す。経産省は今回、川中から川下にかけて発生する滞留を3つの類型に整理した。川上の石油化学メーカーが翌月供給量を「未定」と伝えた結果、川中の商社・シンナーメーカーが防衛的に供給を半減させた第1類型、シンナーメーカーが3月の供給制限を通知した後に4月の回復情報を卸小売へ伝達せず情報が断絶した第2類型、塗装事業者が不安から通常2週間ごとの調達を1.5カ月分に一括発注し川上の出荷を混乱させた第3類型——の3つで、いずれも経産省が当事者間の伝達や発注頻度・量の調整に入り解消した。
特に第3類型は、通常2週間サイクルの発注が1.5カ月分の一括発注に変わると、卸小売の在庫配分、配車計画、出荷順、保管スペースの確保まで連鎖して崩れる。需要家の防衛発注が、物流オペレーション側に直接の負荷を生じさせた事例である。
塗料・シンナーの3月の国内出荷量はそれぞれ前年同月比111%、116%と前年実績以上の水準を維持しており、潤滑油も同142%、塩ビ管も同116%。政府は総量面では供給が確保されているとみているが、出荷量は5月時点の小口需要家への到達を直接示すわけではない。地域、商流階層、荷姿、発注行動による偏在が今回の問題の中心にある。年越し供給の見通しも総量評価であり、川下での数量制限や納期遅延、過剰発注による偏在の解消を意味しない。
資源エネルギー庁、経産省、国交省、農水省、厚労省、こども家庭庁は、5月20日までに石油大手卸売事業者、潤滑油など関係事業者、住宅建材・設備・資材の流通事業者、バス・トラック・自動車整備事業者団体、内航・外航海運・造船・舶用工業事業者団体、農業機械関連団体、畜産業関連資材製造・流通事業者、林業・木材産業関連資材製造・流通事業者、医療機器など関係団体、火葬場、生活衛生関係団体などへ計24件の前年同月並みの供給を求める要請などを発出している。
工務店、自動車整備、パン菓子販売店から実態把握
第7回会議では政府が川下の偏在解消を優先課題に位置づけたが、第8回ではこれを一段具体化し、工務店、自動車整備工場、パン・菓子販売店の3業種を初期重点対象に設定。地方整備局、地方運輸局、地方農政局が地方経産局と連携し、従来の相談を待つ窓口対応に代えて、業界団体や事業者に行政側から直接聞き取り、滞留箇所を探すプッシュ型の体制に移る。
大型連休中に副大臣・大臣政務官27人が事業者・団体124件から聞き取った声を受け、政府はこの3業種を絞り込んだ。3業種に共通するのは、小規模・分散型で、在庫余力や代替調達ルートが乏しく、川上・川中の供給回復情報が届きにくい点である。情報、在庫、交渉力の3つが同時に弱い末端事業者を、行政側から掘り起こす対応となる。
まず実態把握を進めるのは、(1)工務店(一人親方など)による建設資材(塗料、シンナー、断熱材、塩ビ管、防水関係資材など)の調達状況を地方整備局が担当、(2)自動車整備工場(バス、トラックなどの運送会社を含む)に対する潤滑油、アドブルー(高品位尿素水)の供給状況を地方運輸局が担当、(3)パン・菓子など販売店に対する包装資材の供給状況を地方農政局が担当——の3業種。それぞれ地方経産局と連携し、滞留箇所を特定して解消につなげる。
工務店は全国に16万事業者、パン・菓子など販売店は1万4000事業所。建設・住宅資材については、業界団体と連携した情報収集・共有の強化により「数量制限付ではあるものの、シンナーを入手できた」など改善の兆しを示す声が現場から上がり始めている。特に情報が届きにくい一人親方に対しては、全国建設労働組合総連合(組織人員59万人)の地方組織と地方整備局・地方経産局が連携し、地方ごとにプッシュ型で調達・供給状況を把握する仕組みを構築。資材メーカー・卸小売と全建総連地方組織との間に地方経産局・地方整備局が入り、川下・川上両面から滞留を確認する体制を敷いた。
潤滑油・アドブルーについては、地方運輸局が事業者・事業者団体へのヒアリングなどプッシュ型の働きかけを強化し、地方経産局とも連携して滞留解消を進める。パン・菓子など販売店については、地方農政局が販売店から聞き取った情報を基に、地方経産局と連携して原料メーカー、フィルムメーカー、販売・印刷会社にわたる流通の滞留箇所を特定する。
埼玉県内の運送事業者は本誌の取材に、「軽油は確保できているが、特定銘柄のエンジンオイルやアドブルーの納期が読めず、整備計画を組みにくい」と話した。総量の問題というより、銘柄、ロット、納入時期の偏在が車両維持の計画を狂わせるという現場感覚は、政府が3類型に整理した滞留の発生メカニズムとも重なる。
首相は関係大臣に対し、地方機関の連携を通じて川中から川下の流通過程の実態把握と滞留解消に全力で取り組むよう指示した。工務店、自動車整備工場、パン・菓子など販売店について早急に滞留解消の目途を付けた上で、順次、重点的取組の対象を拡大する。
解消累計346件、医療用手袋は5月23日から配送
経産省が「流通の偏り・滞留を解消した」と整理した案件は、5月20日時点で累計346件に達した。5月11日時点の155件から9日間で2倍規模に拡大している。直接販売スキームは、通常の卸・小売ルートで供給が滞った重要用途について、政府が元売事業者などと調整し、需要家への直接販売に切り替える対応で、対象は公共サービス、医療、農水畜産、重要物資製造などに広がっている。ただし、経産省のいう「解消」が納入完了、商流再開、直販スキームへの移行のいずれを指すのか、「1件」の単位が品目、事業者、相談案件のいずれなのかは一律には読み取りにくい。件数の増加は対策の進展を示すが、現場への到達度を測るには定義の明示が必要となる。
医療関係では新たに、錠剤包装シート(PTPシート)、歯科用器械の部品加工のための潤滑油などの供給不安を解決済みとした。直販スキームでは新たに、中部地方のし尿処理施設で使用するA重油、茶製造に必要なA重油(九州・東海)、舶用エンジン出荷前の陸上試験用A重油、発電所所内設備の結露防止用A重油、ごみ焼却施設のA重油などを元売事業者から直接販売する仕組みに切り替えた。業種別では、医療、交通・公共サービス、農水畜産業、重要物資製造業に広がっており、九州地方の路線バスの軽油、海底ケーブル敷設船のA重油、地方鉄道の運行に使用する潤滑油、自動車整備事業者で使用するシンナー(岩手、埼玉、東京、愛知、福岡)、ごみ焼却施設のA重油などが解消事例として並ぶ。
医療用手袋も、流通・調達の偏在が現れた品目だ。厚労省は5月18日の対策本部で、全体として直ちに供給が不足しているわけではないものの、一部医療機関で確保が困難になっているとして、備蓄からの放出に踏み切った。非滅菌手袋を含む個人防護具は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づきパンデミック発生に備えて備蓄されており、このうち国が備蓄水準を超える余剰分として確保している4億9000万枚規模から、まず5000万枚を放出する第1弾の要請受付が5月18日(月)から始まった。厚労省によると、5月18日時点で都道府県・国の確認を終え、要配布とした対象は412の医療機関などとなり、枚数は最大160万枚。5月23日(土)から、順次、販売業者から医療機関などへの配送を始める。全国の一般診療所・歯科診療所の1カ月分の需要は9000万枚程度と推計されている。
厚労省によると、医療分野で安定供給に影響があると判断された品目は5月18日時点で80品目あり、このうち対応検討中が43品目、解消済みが37品目。前回(5月13日)時点からそれぞれ6品目、2品目、4品目増えた。相談総数は9785事業者で、内訳はメーカー・卸業者1882、医療機関など7903。前回から740事業者増加した。
軽油の総量が足りていても、エンジンオイル、機械油、油圧系の消耗品、アドブルーが偏在すれば、車両、設備、工場は止まる。塗料・シンナーは塗装事業者と工務店、潤滑油・アドブルーはバス、トラック、自動車整備工場、包装資材はパン・菓子販売店と、川下の事業者ごとに調達難の質が分かれている。政府対応は、第6回までの原油・ナフサの総量確保を軸とする段階から、第7回で川下の偏在解消を優先課題に位置づけ、第8回で重点3業種への実装に進んだ。経産省・国交省・農水省・厚労省・こども家庭庁、各省の地方支分部局が地方経産局と組んで川下にプッシュ型で入り込む。要請と個別調整を中心とする手法であり、業界団体に属さない零細事業者や、複数商流をまたぐ副資材の偏在は、なお把握が遅れる可能性が残る。重点3業種について早急に滞留解消の目途を付けた上で、順次、対象を拡大する方針が示されている。
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