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容器不足が広げる調達格差

アドブルー、容器ひっ迫で店頭消失

2026年4月21日 (火)

ロジスティクスホルムズ海峡の封鎖と中国の尿素輸出停止が重なるなか、日本のアドブルー供給で液体ではなく容器が先に詰まる異変が起きている。液体そのものはあるが、詰まっているのは容器で、小売形態では市場に出せなくなっている。本誌が複数の製造・販売事業者と運送事業者、業界団体、行政機関に4月16日から20日にかけて取材した結果、この問題の本質は広く語られる「枯渇」ではなく、供給経路の分断にあるとわかった。(編集長・赤澤裕介)

アドブルーはディーゼル車の排ガス浄化システムに使う尿素水で、残量が尽きると再始動できなくなる車種が多い。国内の大型・中型トラックの9割近くが依存する物流インフラの消耗品だ。

その詰まりは上流の液体ではなく、下流の小売形態で起きている。国内アドブルー製造・販売事業者の複数が、液体の供給を継続しながらも10L・20LのBIB(バッグインボックス)の新規受注を停止している。本誌が確認したのはShatz(東京都江東区)、社名非公開を条件に取材に応じた名古屋市と長野県の製造販売事業者の3社で、共通の停止要因はBIBの内袋(バッグ)の不足だ。BIBは外側の段ボール箱と内側の樹脂製バッグで構成されるが、段ボールに余裕がある一方で内袋がひっ迫している。液体は存在するが、内袋に充填できないため小売形態では市場に出せない。

以下の表は本誌が取材した供給側3社の状況をまとめたものだ。

(クリックで拡大)

内袋の主材はLDPE(低密度ポリエチレン)やLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)で、ナフサを起点とする石油化学品だ。さらにアドブルーには金属不純物の混入を極度に制限するJIS規格があり、対応できる成形容器の国内製造業者は限られる。容器製造に関わる業界関係者は「アドブルー規格に対応できる国内製造業者は実質3社程度に集中しており、そのポリエチレン原料の供給が細っている」と指摘した。旭化成は3月31日、ポリエチレン全品を1キロあたり120円超引き上げると発表した。国内エチレン生産12拠点のうち6拠点が減産に入り、石油化学工業協会はポリエチレン在庫のタイト化を認めた。日本の原油調達は95%超を中東に依存する。ホルムズ海峡封鎖を受けたナフサ系原料の逼迫が、エチレン、樹脂を経て容器供給に波及したとみられる。

影響は需要側でくっきり分かれている。以下の表は本誌が取材した運送事業者5社の状況をまとめたものだ。

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インタンク(自社給油設備)を持つ大手・中堅事業者では大きな乱れは出ていない。キリングループロジスティクスは「各拠点で緊急度は高くない様相だ」とし、5月1日から7-8%程度の値上げを受け入れることを決めた。ヤマトホールディングスはグループ内の車両整備会社を通じて一括調達しており「当面の必要量は確保できている」と回答した。北海道千歳市の大勝の澤田専務取締役は「インタンクにも補充できており、不足感も枯渇感もない。値段は1.5-2倍に上がったが、現時点で供給が止まる感覚はない」と話した。一方で「首都圏と比べ情報が入りにくく、北海道ではそれほど危機感がないかもしれない」とも付け加えた。

一方、BIB小売に依存する中小事業者では状況が異なる。愛知県みよし市の運送事業者、mirai計画の柳川佑平社長は「仕入れ先からすでに数量制限がかかっており、価格も15%ほど一気に跳ね上がった。供給が止まれば数日から1週間で車両稼働に直接影響が出る」と話した。岡山市東区の智商運輸の河合智哉社長も「値段は倍くらいに上がっており、近隣の運送事業者でアドブルーとエンジンオイルの入荷が滞ったという噂も聞いている」と証言した。これは規模の格差ではない。同じアドブルーへのアクセスを、調達経路が分断している。このアクセス格差が、稼働可否を分け始めた。

供給側には、危機を商機と受け止める動きも出ている。名古屋市内の製造販売事業者は原料調達を国内品に一本化し、各プラントで6か月以上の在庫を維持するBCPを持つ。液体供給には余力があっても、内袋のひっ迫を理由に出荷量をコントロールしており、需要の急増に対してBIBでの供給を増やせない状況が続いている。社名公開は控えるよう求めた。長野県の製造・販売事業者は、2021年の中国輸出規制以降にアドブルー事業に参入した際から調達リスク管理を徹底し、商社と提携して中東・インドネシア依存を抑えた調達ルートを確保している。担当者は「液体の在庫は潤沢で年内は供給できるが、BIBの包材が手に入らず新規受注は止めている」と話した。

21年は尿素という上流の問題だったが、今回はそれに加えて容器という下流も締まっており、国内製造があっても小売形態で出せない点で、21年より逃げ場が少ない。

行政の窓口は最後まで定まらなかった。国土交通省 物流・自動車局 貨物流通事業課は「数件の相談が届いており、状況が変化しているとの認識はある」としながら、供給管理は経済産業省の所管として詳細な把握は持たないと答え、窓口として経済産業省 商務サービスグループ 物流企画室を案内した。その物流企画室は「所管外」と回答した。

本誌はさらに経産省製造産業局素材産業課に取材した。同課は「複数企業へのヒアリングに基づくと、現時点でアドブルー生産における内包材やBIBの調達に問題は生じていない」と述べた。一方で来月以降の見通しについては「原油調達状況に依存する部分があり、確実な回答は困難」とした。行政が見ているのは生産で、現場が困っているのは流通だ。石油備蓄には法定の確保義務と放出体制がある。だがアドブルーや容器原料に相当する戦略備蓄の制度は存在しない。

複数の取材先が、アドブルーより先に懸念を示したのはエンジンオイルだ。全日本トラック協会は「アドブルーよりエンジンオイルの供給不足に関する情報の方が多い印象だ」とした。日本貨物運送協同組合連合会の星野治彦専務理事は「販売会社から『全く物がない』という話を聞いており、ディーラーでのオイル交換に支障が出ている例も報告されている」と語った。エンジンオイルの主成分である潤滑油基油もナフサ由来であり、同じ供給制約の下にある。本誌は引き続き取材を進める。

アドブルーが「量の問題」として語られ続ける間、実態は「経路の問題」として進行している。バルク経路を持てる事業者と持てない事業者の間で、物流の継続可能性はすでに分かれ始めた。

>>特集「ホルムズ海峡封鎖〜試されるサプライチェーン」トップページへ

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