行政・団体政府は5月12日、首相官邸で第7回中東情勢に関する関係閣僚会議を開いた。高市早苗首相は、原油の代替調達が5月で6割前後、6月で7割以上にめどが立ったとして、今月は第3弾の国家備蓄放出を行わないと表明した。ガソリンの全国平均小売価格も補助金で170円程度に抑制されている。総量面の数字を並べる限り、原油危機は当面の総量不足を避けたように見える。ただし政府の説明が示す国内影響は、川下で資材が届きにくい問題に及んでいる。(編集長・赤澤裕介)

原油の総量確保は、現場の供給安定をそのまま意味しない。2週間前の第6回会議で示されたこのズレは、今回もほぼ縮まっていない。焦点は、原油そのものの調達から、川中・川下で物資が時期、場所、荷姿まで含めて届くかという課題へ移った。高市首相が会議終盤で川下対応の徹底を求めた点に、政府自身の現状認識が表れている。
経産省の説明によれば、25年実績は日量236万バレル。これに対し5月の代替調達は日量140万バレルほど、6月は日量165万バレル以上の見込み。5月、6月に必要な原油量は日量216万バレルと整理されているため、5月は代替調達分にこれまでの備蓄放出決定分を加えて埋める。6月も、保守的に代替調達率を6割と見た場合、同じく既決定分の活用が前提となる。
第3弾備蓄放出を見送る判断の前提も、5月の代替調達が当初想定の4割を上回り、6月も保守的に6割と見ても、これまでの備蓄放出決定分で必要量を確保できる見通しが立ったことにある。民間備蓄義務55日は次の1か月も維持される。来月以降は状況に応じて機動的に対応するとされ、政府は備蓄を温存しつつ、代替調達の遅れに備える判断を続ける。政府の説明には注記もある。5月12日時点の見込みであり、タンカーの配船・運航状況により到着が後ろ倒しになれば月ごとの調達量は変動し得る、と明記された。数字上の6割、7割は、船腹、航路、港湾、保険、製油所受け入れ、製品出荷のタイミングリスクを含んだ未確定値となる。
潤滑油とアドブルー、小口流通に偏在
物流メディアの視点で見ると、最大の論点は潤滑油にある。経産省は、日本全体で必要な量は確保されているとしつつ、3月下旬から供給不安を抱く流通事業者・需要家が大量発注し、一部で供給に偏りが発生したと説明した。さらに、工作機械向け機械油や自動車向けエンジン油を中心に、供給不安を抱く需要家からの相談件数は4月17日の最初の要請以降も増加傾向にある、と明記している。
要請先には全日本トラック協会、日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会、日本自動車整備振興会連合会、日本建設機械工業会、日本農業機械工業会、日本ロボット工業会、日本工作機械工業会などが並ぶ。軽油が足りても、エンジン油、機械油、油圧系の消耗品が偏在すれば、車両、設備、工場は止まる。政府は前年同月比同量の購入を呼びかけているが、これは裏返すと、現場が余分に買えばすぐ偏りが広がるほど、流通が通常より偏在を起こしやすい状態にあることを示している。
アドブルー(高品位尿素水)も、課題は尿素水そのものにはない。国交省の説明によれば、アドブルー、BIB(バッグインボックス)原料のポリエチレンは平時と同水準で供給が継続している。一方で、中小規模事業者を中心に、小口販売に使われるBIBの供給・流通に滞りが生じており、従来通りの調達ができていないという声がある。大口タンクで買える大手は耐えやすいが、BIB依存の中小運送会社、バス、タクシー、自動車整備工場は調達難になりやすい。排ガス浄化装置(SCR)搭載車ではアドブルーが切れると走行継続に支障が出るため、容器の制約が運行リスクに直結する。
経産省は、燃料の供給偏り・流通円滑化について、直接販売スキームと前年同月比同量要請をもとに249件を解消したとする。対応の積み上げは進む。一方、249件もの個別介入が必要になったこと自体が、通常の商流が機能低下していることも示す。対象は九州地方の路線バス、海底ケーブル敷設船、下水処理施設、学校給食、離島フェリー、医療機器製造、病院リネン、茶製造、漁船、と畜場、半導体・電池製造と非常に広い。燃料や石油化学製品は、市場任せの通常流通だけでは行き渡らず、行政が重要度を見ながら個別に流れを補正する対象になっている。
物流危機が表面化する形は、液体そのものの不足というよりも、容器、荷姿、販売単位、卸網、末端配送の滞りとして現れる。アドブルーだけでなく、医療用手袋、食品トレー、塗料・シンナー、潤滑油でも同じ問題が出ている。
建材と医療資材、川下把握へ
建設分野では、塗料・シンナー、ユニットバス、断熱材、塩ビ管、アスファルト防水材が工期に直結する品目として残っている。塗料原料のトルエン、断熱材原料のウレタンフォーム、断熱材本体、塩ビ管、アスファルト防水材について、経産省は、前年実績での供給が可能と確認したとしている。
ただし、経産省はさらに踏み込んでいる。塗料・シンナーについて、川上から川中(石油化学メーカー、商社、塗料・シンナーメーカー)では出荷が実績並みに戻りつつある一方、川中から川下では一部で供給の偏りや流通の滞りが残っているとした。政府対応の焦点も、メーカーの生産量確認から卸・小売の出荷実態確認へ広がった。経産省は主要卸・小売108社に地方経産局がヒアリングし、仕入れ・出荷状況を聴取する方針を示した。川上の供給確認だけでは足りないことを、政府対応も示している。メーカーが前年実績で供給可能と説明しても、工務店、一人親方、自動車整備、塗装事業者、消費者まで届くかはなお確認が要る。
医療分野では、ECMO(体外式膜型人工肺)の洗浄剤、血管内治療器具の誘導用ワイヤー洗浄剤、検査用スライドグラス・カバーグラスの印字用塗料などが新たに解決済みとなった。厚労省によれば、安定供給に影響があると判断された品目が73(前回比9増)、対応検討中が43(同5増)、解決済みが30(同4増)と整理されている。相談総数は8244事業者で、うち医療機関が6717、メーカー・卸業者が1527。滅菌燃料、酸化エチレンガス、溶剤、容器、包装資材、洗浄剤など、医療の中核物資は石油関連資材に深く依存している。
医療用手袋は、国が備蓄水準を超える余剰分として4億9000万枚ほどを確保し、まず5000万枚を放出する。5月18日の週から要請受付を開始し、配送は5月下旬から週次で進める。全国の一般診療所・歯科診療所の1か月需要は9000万枚程度と推計されており、5000万枚は全国需要を丸ごと賄う規模ではない。確保困難な医療機関向けの優先放出として設計されている。
農水・食品分野でも、焦点は食品そのものから周辺資材へ広がっている。農水省によれば、日本が肥料原料とする尿素の74%はマレーシアからの輸入で、そのほぼ全量をペトロナスが扱う。鈴木農水相は同社から安定供給の確約を得たが、特定国・特定企業への調達集中は残る。食品分野では、茶製造の燃油、持ち帰り商品向けトレー、食品包装容器のポリエチレン、コメ袋用ポリエチレンペレットが論点となった。食品そのものより、容器、包装、燃油、袋、トレー、インクが出荷制約になり得る。
政府はまた、国や業界団体による前年同量・通常通りの供給・発注要請を一覧化した。対象は石油製品、潤滑油、住宅設備・建材、シンナー・溶剤、アドブルー、食品容器包装、医療機器、火葬場、クリーニング溶剤まで広がる。前年同月比同量の調達という行政要請は、平時の需給調整と性格が異なる。需要家が先行き不安で積み増し発注すると流通在庫が薄くなり、本当に必要な先に届かなくなるため、行政が実需ベースの購買を求めている。総量不足を回避するため、行政が需要行動の平準化に踏み込んでいる。
物流メディアの視点では、今回の論点は次の5項目に整理できる。中心になるのは、総量確保と現場供給の分離、中小・小口・地方の脆弱性、軽油以外の保全資材リスクの3点である。そこに、副資材による工程停止リスクと、価格・納期・在庫負担の見えにくさが重なる。
中東情勢による国内影響は、原油の総量確保に加え、石油関連資材の川下流通にも広がった。政府は代替調達と備蓄で6月の原油量を確保する見通しを示したが、潤滑油、アドブルー、塗料・シンナー、住宅設備、医療用資材、食品包装、農業燃油では、偏在と小口流通の滞りが続く。第7回会議では、年越し供給見通しを維持しながら、行政対応の対象を川下の流通、需要家の発注行動、軽油以外の稼働維持資材へ広げる方針が示された。
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