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サンゲツ内藤氏、業界の持続性問う物流設計に挑む

2026年6月9日 (火)

話題壁紙の多くは、50メートルの巻き物状で仕入れ先から届く。長辺は90センチ、重量は15-20キロ。床材やファブリックも含め、サンゲツが扱う内装材は長尺・重量物で品種が多く、しかも当日出荷・配送が根付いている。商品は代理店や内装事業者を経て、最後は施工現場へ向かう。物流が滞れば、単なる遅配では済まない。代理店での販売、施工の段取り、現場の工程までが止まる。社内で「物流を制するものは商売を制する」と言われてきたのは、この商流の重さを誰もが知っているからだ。その難しい物流部門を束ねるのが、営業と商品畑を歩いてきた執行役員、内藤孝二氏である。

改正物流効率化法でCLO(物流統括管理者)選任が義務付けられた初年度、各社の関心は「誰を置くか」から「何を変えるか」へ移りつつある。サンゲツにとって、その問いは当日出荷を含むデリバリー品質をどう持続可能にするかに直結する。同社は経営クラスの物流統括管理者の必要性が広く議論される前から物流を経営課題として扱い、物流領域に執行役員を置く体制を2016年から続けてきた。「The CLO サプライチェーンの変革者たち」では、ロジスティクス部門ゼネラルマネージャーを務める内藤氏に、即納文化をどう作り直すかを聞いた。(大津鉄也)

商品と営業を知るCLO

内藤氏は、入社後の6年間を営業部門で過ごした。内装事業者、代理店、大手工事事業者に加え、設計事務所や事業主など建設業界の川上にあたる顧客も担当した。その後は本社の商品領域へ移り、27年間にわたって商品開発、調達課長、事業戦略、床材事業部長などを歴任してきた。物流専門部署での在籍はない。だからこそ、内藤氏のキャリアはCLOに効く。営業を知るから顧客が求める納期の重さが分かり、商品と調達を知るから在庫や仕様変更が物流に与える影響が読める。床材事業部長の経験は、商材ごとに異なる荷扱いの負荷を体に入れている。

「専門の物流部署にいたわけではないが、実質的には常に物流に関わってきた」。内藤氏はこう振り返る。商品開発や調達に携わる中で調達物流とは常に接点があり、同社が平成26年以降、物流を自前で強化するなかでは、調達物流の自前化にも携わった。物流を、一部門の長の視点を超えて、商売そのものの設計者として見られる——その視点が、CLOの土台になっている。

内藤氏は、CLOの役割の1つを「社内外 外交」と呼ぶ。サンゲツでは、商品統括部門が販売価格帯や調達条件を持ち、営業部門が顧客への納期約束を負い、DX・SCM部門がデータとシステムを握る。そして物流部門が実際の保管・流通加工・出荷・配送能力を担う。利害がぶつかる場所で落としどころをつくるのが、CEO直轄のCLOの仕事になる。「すべての権限を一人で握るわけではない」と内藤氏は言う。輸送会社や倉庫との契約、組織事項、中小規模の設備投資は決裁するが、販売価格戦略や調達条件は商品統括部門が判断する。だからこそ、各部門を橋渡しする調整力が要る。

物流部長は、まず現場の最適化を考える。物流統括管理者は、会社全体の最適化を担う。CLOには、会社に加えて業界、社会にどう貢献するかという視点が重なる。内藤氏はそう整理する。その視点は抽象論ではない。後編で触れる壁紙ロールのユニットロード化のように、自社の現場改善を業界の課題解決へつなげる発想として表れている。一方で、「CLOという言葉の社内浸透はまだ途上にある」とも認める。役職を置けば変わるわけではないという自覚が、初年度のCLOには共通する。

即納を守るための見直し

サンゲツの物流を語るうえで欠かせないのが、デリバリーポリシーである。「JUST IN TIME 今日注文を受けたものは今日届ける」。品質、価格と並べて、デリバリーも顧客価値の一部として扱われてきた。内藤氏は、「デリバリーも品質のうち」という創業からの経営方針を背景に、物流が大事だという考えを言葉にしてきたのが同社だと話す。その重要性は今も昔も変わらず、むしろ増しているという。

ところが、ドライバー不足と車両確保難が深刻になり、従来通りのサービス水準をそのまま保つのは難しくなった。内藤氏は当日出荷を「良き伝統」としながら、それだけに固執すれば事業の継続性を損なうと見る。「明日今日届けることだけに専念していると、取り残される。継続性、持続性を高めていかないといけない」。速さを守るためにこそ、即納の前提そのものを問い直す段階に入っている。

具体策の1つが、販売物流と調達物流をつなぐ発想だ。商品を届けた配送先の近くに仕入れ先がある場合、帰り便を使ってその仕入れ先から商品を引き取る。行きと帰りを組み合わせ、相互に効率化する。荷主どうしの危機感も高まり、個社単独では立ち行かず連携でやっていくという意識が、顧客や仕入れ先にも広がっているという。

ただし、理念や社内調整だけでは即納文化は守れない。現場の作業、積載、拠点配置、輸送ネットワークそのものを変える必要がある。その象徴が、後編で見るユニットロードシステム「Vパレ」と、庫内オペレーションの可視化である。

壁紙荷役を87%短縮した技術を標準化基盤へ

仕入れ先から届いた50メートル、15から20キロの壁紙ロールを、一本ずつ積み込み、一本ずつ降ろす。サンゲツの物流現場では、この長尺・重量物の荷役が、トラックのバース滞留や待機時間の一因になってきた。積み込みと荷降ろしを合わせて、要する時間は一運行あたり240分。それを30分まで縮めたのが、同社独自のユニットロードシステム「Vパレ」である。即納文化を持続可能にするというCLOの宿題に、サンゲツは現場の荷役から答えを出そうとしている。

壁紙はメーカー側で縦置きに保管・輸送される一方、サンゲツロジスティクスセンターで入庫後は庫内で加工作業するために一時的に横置きにする必要がある。従来はトラックへの積み込みと荷降ろしの際、一本ずつバラ積み、バラ降ろしし、向きも人手で変えていた。

作業時間は、積み込みと荷降ろしを合わせて240分から30分へ短縮した。削減率は87.5%に及ぶ。

これを実現したのが、関連特許3件を取得したサンゲツ独自開発のVパレだ。回転式パレットと回転フォークリフトを組み合わせ、輸送時と保管時で異なる積み方に対応しながら、工程間を一気につなぐ。内藤氏はこの取り組みを、「サンゲツのためだけでなく、業界や社会のためにもなるもの」と位置付ける。

(出所:サンゲツ)

ここにCLOの視座が表れている。Vパレをサンゲツの社内改善で終わらせず、「業界共通パレット」として標準化まで見据えているからだ。サンゲツだけが使っても効果は限られる。仕入れ先やメーカー、同業、運送会社が同じ荷姿で扱えるようになれば、効果は業界全体へ広がる。半面、標準化にはラック規格の違いへの対応、パレットの回収や保管、コスト負担という課題が伴う。だからこそ、社外を巻き込む調整力・外交力がCLOに求められる。すでに異業種からも関心が寄せられ、現在は北関東と中部の拠点を中心にパイロット運用を進めている。

注目すべきは、この改革が積載率の論理だけからは生まれにくい点だ。積載効率は重要な指標だが、目先の積載率だけを追っていれば、荷役時間や待機、作業者の負担にここまで踏み込めなかった。ドライバーや庫内作業者の負荷、業界全体の持続可能性まで含めて最適解を探る──それが、サンゲツのCLOが示す視座である。

可視化と中継輸送で運びきる力を高める

荷役の改革と並行して、内藤氏は庫内オペレーションの可視化を急ぐ。「センター単位でどれだけ在庫が入るのか、どの工程にどれだけ時間がかかっているのか、各エリアの精査がまだできていない」と課題を率直に認める。どこにボトルネックがあるかを把握しなければ、自動化設備や在庫配置への投資の優先順位は決められない。在庫とオペレーションの双方を見える化し、投資判断の精度を高めて、段階的に全国へ広げる考えだ。「中期経営計画2029」でも、サプライチェーン最適化を重要な事業戦略に掲げ、データドリブンな意思決定による適正在庫の維持と最適在庫配置を目標に据えた。

自動化も商材ごとに進む。壁紙では、保管棚が作業者のもとへ移動するGTP方式や、フロア間搬送工程の一部自動化を導入した。長尺床材でも、セット投入後の搬送や検尺から梱包の半自動化を実現している。「壁紙は年間の出荷量で地球8.2周分規模になる。ここの庫内オペレーションの自動化・省人化は避けて通れない」と内藤氏は言う。過去に断念した経緯もあるが、まずは現場で使える実用解を完成させ、全国へ広げる構えだ。

変えているのは庫内や荷役だけではない。長距離輸送も、ドライバーの働き方を前提に組み替え始めた。一社が直行していた長距離便を中継型へ移し、北関東の拠点に貨物を集約して仕分け、東北・北海道へ振り分ける。関西を経由して九州方面へ向かう便もある。中継点ではトレーラーのヘッドを交換し、一人当たりの運転時間を労働時間規制に収める。設備の改善と輸送網の設計を組み合わせて、「運びきる力」を底上げする。

こうした改革を担う人材も育てる。内藤氏は「役職や部署経験はあまり重要ではない。その人が何を見て、何を学び、何を身につけてきたかだ」と語る。ロジセンター長による物流技術管理士の取得や、女性の活躍に向けた社外での学びの社内共有など、越境的に視野を広げる機会を用意する。物流から出る廃棄物の削減やリサイクルも視野に入れる。

サンゲツの事例が示すのは、CLOは名刺の上の役職では機能しないということだ。商品、営業、調達、物流の利害を実際に動かせる人材でなければ、全社の物流は変わらない。業界標準化や社外連携には、自社最適を超える覚悟が要る。そして、即納という看板を守るためには、即納の前提そのものを変えなければならない。物流を「商売の血液」と捉えるサンゲツのCLOは、その難題の入り口に立っている。

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