
話題CLO(物流統括管理者)の選任義務化を機に、荷主企業は自社の物流統括機能をどう整えるかを問われている。だが、CLOの本質は、制度対応のための役職設置にとどまらない。物流を現場任せ、部門任せにせず、在庫、販売、調達、EC、店舗運営まで含めて経営課題として捉え直すことにある。
スポーツ用品大手のアルペンは、その象徴的な存在だ。
経済産業省が公表した「CLO取組事例集」では、アルペンが「特別編」として紹介された。同社は現時点で物流効率化法上の特定荷主には該当しない。それにもかかわらず、物流DXを積極的に推進しながら、物流を事業成長を支える経営機能へと進化させ、商品、在庫、物流、店舗、ECを一体で捉えた供給体制を部門横断で構築してきた。アルペンにとってCLOとは、制度対応のための役職ではない。物流を起点に経営の意思決定を変えていく役割であり、その考え方を制度に先んじて実践してきた企業である。
執行役員物流本部長兼サプライチェーン・ロジスティクス部長の濱中龍一氏は、アルペンにおけるCLO機能を実質的に担ってきた。
「物流を起点に、会社の経営的な戦略を持って、いろんな意思決定を変えていくことがポイントだ」
この言葉に、アルペンの物流改革の本質がある。物流は、倉庫や配送を効率化するだけの機能ではない。商品をどう作り、どこに在庫を持ち、いつ、どのチャネルへ供給するのか。その意思決定を通じて、事業全体の競争力を高める経営機能である。アルペンが目指してきたのは、物流を改善することではない。物流を起点に、会社の意思決定を変えることである。(大津鉄也)
「物流は全部、数字で表せる」
濱中氏の物流経験は、前職の外資系3PL企業から始まった。物流現場の運営に携わり、入荷、出荷、現場管理、コスト管理を経験した。アパレル物流も担当し、季節や販促によって激しく変動する波動への対応も学んだ。
アルペンに入社したのは2016年。最初のミッションは、物流の実態を数字で可視化し、経営が意思決定できる環境をつくることだった。そのために物流KPIを整備し、それまで見えていなかった物流の実態を一つひとつ明らかにしていった。
物がどこから来て、どこに保管され、どこへ出ていくのか。どの工程に時間がかかり、どのコストが膨らんでいるのか。現場で起きていることを数字に置き換えなければ、経営は正しい意思決定ができない。
アルペンの物流改革は、倉庫を建てることでも、ロボットを導入することでもなかった。まず取り組んだのは、「見えない物流」を見える化することだった。
当時、同社の物流は設備、システム、組織のいずれも転換期にあった。物流設備は長く大きな投資がされず、既存システムにも限界が見えていた。
濱中氏は、物流子会社の現場に入り、工程とコストを一つずつ棚卸しした。外部倉庫の利用実態、在庫の分散、入荷波動、出荷作業、店舗供給の流れを確認し、すべてを数値化していった。
「何も見えない、分からないという状況を打破しないことには、経営として意思決定はできない」
数値化とは、経営が物流を議論し、意思決定するための共通言語をつくることだった。アルペンの物流改革は、設備投資から始まったのではない。経営が物流を経営課題として議論できる状態をつくることから始まったのである。

同じSKUが点在する外部倉庫の整理から
改革初期の象徴的な課題が、外部倉庫の分散だった。濱中氏によれば、当時は外部倉庫が30-40か所あり、同じSKUが十数カ所に分散して保管されるケースも珍しくなかった。
スポーツ用品、アパレル、シューズ、アウトドア用品、ゴルフ用品など、アルペンが扱う商材は幅広い。季節や天候、販促によって需要が大きく変動するため、物流が受け身のままでは、物量が増えるたびに外部倉庫を借り増しし、在庫はさらに分散する。結果として横持ち輸送や管理コストが膨らみ、全体最適から遠ざかっていた。
濱中氏は、この構造を1つずつ変えていった。外部倉庫を閉鎖・統合し、入荷波動を平準化し、在庫の置き方を整理した。単に倉庫数を減らすのではなく、どの商品をどの拠点に置き、どのチャネルにどう供給するかを設計し直した。
同時に、物流システムの刷新にも着手した。LMSを中核に店舗・EC・倉庫在庫を統合管理する基盤を整備するとともに、WMS(倉庫管理システム)も全面的に見直し、倉庫への作業指示や在庫管理のあり方まで再設計した。システム刷新は、単なるIT更新ではない。システムの要件定義を通じて、「アルペンの物流がどうあるべきか」を経営から現場まで議論し、システムを通じて物流業務そのものを設計し直したのである。
「システムを作るとなると、未来をどうあるべきかを語らなければいけない」
アルペンの物流改革は、設備を導入することから始まったのではない。未来の物流を設計することから始まった。組織変革、システム刷新、設備投資。この順番で進められたことが、後の庫内DXと拠点再編の土台になった。

経営と一体で物流を動かす
濱中氏のレポートラインはCOOである。物流を起点にした戦略やプロセスについては、大規模投資を伴わない限り、基本的に自身の判断で進められる。ネットワーク再編、物流戦略、他部門をまたぐプロセス構築などは、関係部門との合意形成を前提に決裁できる。
一方で、商品戦略や販売戦略そのものは決裁範囲外であり、大型投資も経営承認を要する。この線引きは、CLO機能を考えるうえで重要だ。CLOは、すべてを決める役職ではない。物流を起点に、社内の意思決定を変える役割である。
重要なのは、レポートラインそのものではない。物流が経営と直接つながり、商品、調達、販売、店舗、ECなど各部門を横断して意思決定できる体制があることだ。
濱中氏はCOOをはじめ、商品、調達、販売など関係部門と、経営・実務それぞれのレイヤーで月次・週次の議論を重ねる。各部門の制約や狙いを共有した上で、物流側は数字を共通言語に全体最適を提案し、部門横断の意思決定を後押ししている。「物流だけではどうしようもならないこともある」、だからこそ、物流部門だけで閉じない。商品の入れ方、在庫の持ち方、店舗への届け方、ECの出荷スピードまで、部門をまたいで調整する。この社内接続力こそ、アルペンが制度に先行してCLO機能を実装できた理由である。
庫内DXを、経営投資に変えた
アルペンは、庫内DXにもいち早く着手した。物流ロボットの導入がまだ一般的ではなかった2018年前後から、EC物流を人手前提の延長ではなく、自動化を前提としたオペレーションへと再設計した。
東日本のEC専用センターでは、棚搬送ロボットを導入し、当時としても先進的な物流オペレーションを実現した。さらに、小牧DCでは小物物流を1拠点に集約し、国内初となるアルファボットシステムを導入。大口DCでは、アパレルとシューズを1拠点へ集約し、シャトル型自動倉庫とクロスベルトソーターを中核とする大規模マテハン設備を構築した。
こうした取り組みは、単に設備を導入したものではない。商品特性に合わせて物流ネットワークと拠点機能を見直し、保管、ピッキング、仕分け、梱包、計量までを一体で設計することで、庫内作業を「探さない・歩かない・運ばない」構造へ転換した。
重要なのは、アルペンが庫内DXを省人化の道具ではなく、供給力を引き上げる経営投資として位置づけている点だ。ECでは出荷リードタイムが顧客満足度に直結し、店舗では補充の遅れが販売機会の損失につながる。だからこそ、自動化はコスト削減だけを目的とするものではない。ECの成長、店舗への安定供給、リードタイム短縮、需要変動への対応力を支えるインフラ投資なのである。
ただし、濱中氏は自動化を「入れれば終わり」とは見ていない。導入初期には、通信、システム運用、在庫精度、運用連携がかみ合わず、出荷遅延やレビュー低下につながった時期もあった。それでも半年から1年をかけて運用を磨き込み、本来の性能を引き出していった。
「現状の業務に機械を合わせるのではなく、機械に合わせて業務を作り替える」
自動化設備は、既存業務の延長に置くだけでは効果を出しにくい。商品配置、作業手順、WMS、マテハン制御、人員配置、出荷波動への対応を含め、業務全体を再設計する必要がある。
投資判断も厳しい。回収期間は原則5年、長くても7年を目安にする。倉庫全体を一律に自動化するのではなく、時間がかかる工程、効果が出る工程に絞って投資する。工程を秒単位で分解し、どこに時間がかかっているかを見極める。
「省人化が目的ではない。事業成長とサービス水準を支えるための投資だ」
アルペンにとって庫内DXは、人を減らすための取り組みではない。供給力を高め、ECの成長や店舗への安定供給を支え、販売機会を最大化するための経営投資である。そして、その実現をけん引することこそ、CLOに求められる重要な役割なのである。
店舗作業まで設計する物流
小売物流の難しさは、倉庫内で完結しないことにある。商品は最終的に店舗で陳列され、販売される。センターでの効率だけを追えば、店舗作業が増える。逆に店舗負荷を下げようとすれば、センター側の梱包や仕分けが複雑になる。CLOに求められるのは、そのトレードオフを数字で示し、全体として最も効率の良い形を選ぶことだ。
アルペンでは、初回投入、フォロー、客注などを事前に区分し、外装で判別できるようにしている。新店向けではブランド別、陳列順に梱包し、初回投入では売場レイアウトに沿った荷姿を設計する。フォロー商品では、売場単位で混載し、充填率と店舗作業のバランスを取る。
PB商品では、さらに上流から物流を設計する。工場段階で袋入れやインナー箱化を行い、箱単位で出荷できるようにすれば、国内でのタッチ数を減らせる。工場原価は上がるかもしれないが、国内物流コストを含めた総コストでは安くなる場合がある。
「原価だけを見るのではなく、国内で触る回数まで含めて判断する」
これは、自社企画商品を持ち、企画・仕入れ・販売までを一体で設計できるSPAモデルを持つアルペンならではの強みでもある。自社で一貫して手掛けるからこそ、物流要件をものづくりの段階へ戻すことができる。商品ができてから運び方を考えるのではなく、どう運ぶかを前提に商品と供給網を設計する。濱中氏が見据えるのは、Design for Logisticsの実装である。
予測より、変化対応力を競争力に
スポーツ小売は、需要変動が大きい。季節、天候、競技需要、トレンド、販促が、店舗とECの物流波動を左右する。需給予測を高度化しても、読み切れない変化は残る。
濱中氏は、予測だけに依存しない。重視するのは、変化に対応するスピードと柔軟性だ。週末の販売実績は月曜9時には経営KPIとして集約され、部門長以上の朝会で共有される。その日のうちに必要な施策を意思決定し、水曜から金曜の店舗供給へ迅速に反映していく。
「予測だけでなく、変化対応力そのものを競争力にする」
物流を平準化するには、需要を読む力だけでは足りない。予測が外れたときに、いかに早く立て直し、供給を最適化できるか。その対応力こそが競争力になる。
神奈川新拠点で、関東圏の再設計に着手
次の焦点となるのが、関東圏の新拠点構想だ。関東圏でのビジネス拡大に合わせ、濱中氏は、神奈川エリアで新たな基幹拠点計画に触れ、幹線・支線の距離短縮と、関東圏での供給力強化を見据えていると説明した。狙いは、単なる拠点追加ではない。中京エリアで進めてきたカテゴリ別運営や庫内DXのノウハウを横展開し、関東での店舗供給とEC対応を再設計することにある。
構想段階では、幹線距離の短縮、店舗向け支線距離の削減、総物流費の低減、削減原資の自動化・機能強化への再投資などが検討されている。新規性の高いチャレンジよりも、既に効果が見えた機能を強化し、安定稼働につなげることを重視する。
同時に、その構想には将来的なメーカーや物流パートナーとの連携も視野に入れる。まずは自社の成長への対応が最優先だが、関東圏には多くのメーカー物流拠点が集積している。将来的には、共同配送や物流プラットフォームの基盤となる可能性も見据えている。
自社最適の先にある共同化
自社内の拠点再編や自動化を進めても、物流効率化だけではいずれ限界を迎える。次に求められるのは、自社最適ではなく、メーカーを含めたサプライチェーン全体の最適化だ。
濱中氏も、共同化については「当社がすごく進んでいる部分ではない」と率直に語る。一方で、すでにパートナー企業の既存インフラに自社の荷量を合わせ、2次幹線、3次幹線で実質的な共同輸送を行う場面はある。
今後の構想としては、2つの方向がある。1つは、スポーツ領域の物流能力を高め、中小メーカーの納品や配送を担うプラットフォームのような役割を果たすこと。メーカーが個別に3PLへ委託し、各地から納品するより、アルペン側が受け皿となる方が、距離もコストも抑えられる可能性がある。
もう一つは、海外クロスドックを活用した共同物流である。生産地を見ると、近隣の工場で複数の日本企業向け商品が生産されているケースは少なくない。海外で荷物を集約し、名古屋だけでなく大阪、東京、福岡など需要地ごとに直接輸送できれば、国内での中継輸送を減らし、リードタイムや輸送効率を改善できる可能性がある。一社では実現できない物流も、複数社の荷量を束ねることで、新たな輸送ネットワークを構築できる。
「我々が物流能力を高めていけば、スポーツ領域のプラットフォーマーのような形も考えられる」
ただし、共同化は余ったスペースを貸す話ではない。将来の拠点計画や設備投資の中に、どこまで外部との接続余地を織り込めるかが問われる。
CLOは、会社を動かす役割
濱中氏は、物流統括管理者とCLOという言葉の違いには強くこだわらない。重要なのは名称ではなく、物流を起点に会社の意思決定を変え、競争力ある形で動かしていけるかどうかだという。
「どれだけ会社を動かしていけるのか。そこにこだわる必要があると思っている」
これは、制度上のCLOにも通じる。物流統括管理者は、単なる物流部門長ではない。販売、在庫、調達、商品、システム、物流事業者との関係まで含め、社内外の連携を作る役割である。アルペンは義務化対象ではない段階から、その機能を実装してきた。
同社では、人材育成も進めている。物流部門内でレイヤー別の研修を整え、先進物流企業の見学や合同ディスカッションも行う。自社倉庫も積極的に開き、相互学習の場にする。さらに、CLO候補生を数名選び、週次の個別レクチャーや外部同行を通じて育てている。
物流を経営機能にするには、属人的な改革者だけでは足りない。数字を読み、現場を理解し、他部門と合意形成し、投資判断までつなげる人材を継続的に育てる必要がある。
アルペンの取り組みは、法対応のためにCLOを置くのではなく、事業成長のためにCLO機能を育てるという順番を示している。特定事業者ではないからこそ、その意味は大きい。義務ではない段階で、なぜ物流を経営機能にするのか。なぜ庫内DXに投資し、なぜ在庫配置や店舗作業まで踏み込むのか。
物流が売上を支え、顧客体験を変え、店舗運営を変え、EC成長を支え、企業の競争力そのものを左右するからだ。
「CLOという名前よりも、物流を起点に会社をどう変えられるか」
アルペンの事例は、制度対応の一歩先にあるCLO像を示している。CLOの本質は、役職名ではない。物流を経営機能として捉え、会社を変えていくという経営そのものの姿である。

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