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中東7割から1割へ、ナフサ供給網の半年

2026年8月14日 (金)

国際ホルムズ海峡の実質封鎖からまもなく半年。この間、国内のエチレン設備は減産を重ねたが、原料が尽きて止まる事態は避けられてきた。ただし、それを支える供給網は半年前と同じものではない。輸入ナフサに占める中東の比率は2024年時点の73.6%(石油化学工業協会の集計)から26年5月には1割前後へ下がり、船は片道1か月前後から50日をかけて太平洋と大西洋を回ってくる。危機の焦点は「止まるかどうか」から「どう作り替えるか」へ変わった。海峡から国内の倉庫まで、ナフサのサプライチェーンの現在地を通しで点検する。(編集長・赤澤裕介)

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海峡側の状況から確認する。船舶データ分析会社ケプラーの集計では、8月10日の通航は6隻、11日は8隻、13日も9隻にとどまり、危機前の1日130-140隻を大幅に下回る。軍事的な航行制約に加え、急騰した戦争保険料や乗組員の安全確保といった商業航行上のリスクが、船主に海峡通過をためらわせている。船体にかける戦争保険は航海ごとの個別協議で料率を決める随時設定方式に切り替わり、単一の相場は存在しないが、保険ブローカー大手マーシュは7月下旬時点の水準を船価の7.5-10%と示した。危機前の0.25%前後の数十倍にあたる。この状態が半年近く続き、日本の調達は様変わりした。

経済産業省(経産省)の資料によると、中東以外からのナフサ輸入は平時の月45万kL規模から、4月に90万kL、5月には135万kL超へと3倍に増えた。最大の代替調達先は米国で、アルジェリア、スペインなどが続く。野村證券の分析では、輸入ナフサに占める中東の比率は5月時点で1割前後まで低下した。国内で使うナフサには国産が4割ほどあり、中東から直接輸入したナフサは24年時点で国内使用量の44.6%に相当した。入れ替わったのは、輸入分の調達先だ。

そのナフサを運ぶのは、LR2型など中大型のプロダクトタンカーだ。価格情報会社アーガスの試算では、地中海から日本へLR2型を喜望峰回りで送ると航海が19日延び、燃料費だけで60万ドルほど増える。欧州とアジアのナフサ価格差(イースト・ウエスト・スプレッド)は7月21日に1トン72.75ドルまで開き、喜望峰経由が恒常的に採算へ乗る目安とされる80ドルに迫った。7月20日のフーシ派によるサウジ港湾封鎖宣言の後には、サウジのペトロラービグで積んだ5万5000トンの日本向けナフサがニューヨーク向けへ、ヤンブー積みの5万8000トンがスペイン向けへ変わった実例をアーガスが伝えており、サウジ産ナフサのバブエルマンデブ海峡通過は5月の43万トン規模から7月には7万6000トンまで減った。日本向けの船が、洋上で行き先を変える。それが8月の現実だ。効いているのは距離そのものというより、船腹の拘束時間になる。往復日数が延びれば、同じ量を運ぶのに必要な船の数が増え、輸送費と洋上在庫の保有期間の両方を押し上げる。

原油側でも同じ長距離化が起きている。楽天証券経済研究所が船舶データで確認した4月下旬時点の米メキシコ湾岸発日本向け原油タンカーは13隻と、1か月前の3隻から4倍強に増え、3隻がパナマ運河経由(片道25日前後)、10隻が喜望峰経由(45日前後)だった。コスモ石油は米テキサス産原油91万バレルをパナマ経由35日で千葉沖に着けている。コストの定量化も原油側で進み、経産省の作業部会資料は、原油タンカーのスポット運賃が4月に前年同月比11倍へ上がり、1バレルあたり9ドルの金額差を生んだと試算した。米国産原油の輸送費は中東産より1バレル2ドルほど高い(25年実績)。国内精製を支える原油と、石化原料として直接輸入するナフサ。2つの流れが同時に遠回りを始めた。

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在庫は回復、備蓄制度の外にある原料

長い航海の先で船を待つ国内側の在庫は、時系列で見る必要がある。危機初期の3月時点では、国内ナフサ在庫は20日分ほどとの証券アナリストの試算が報じられた。その後、代替調達と国内精製の積み増しで持ち直し、野村證券の分析ではナフサ輸入が6月に25年平均の7割程度まで回復し、国内の在庫指数も6月時点で25年平均を上回った。薄い在庫で危機に入り、長距離化した代替調達と国内精製、減産によって在庫を立て直した半年だったことになる。ただし、これは各社の運転在庫の積み増しであり、ナフサ現物に法定備蓄義務がない状態は変わっていない。

ナフサは揮発性が高く、大量保管には液面に屋根を浮かべる浮屋根式タンクなど、蒸発損失を抑える設備を要する。石油備蓄法上は指定石油製品に列挙されながら、備蓄義務量の算定対象は燃料油のみで、ナフサの備蓄義務は93年に消えた。82年の値決め紛争を収めた政策決定そのものを、政府は44年を経て見直そうとしている。経産省は8月7日の作業部会で、調達先多角化に伴う輸送費などを全輸入業者からの納付金を原資にエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)経由で支援する制度案を示し、意見公募を22日に締め切る。国家備蓄はナフサの国内精製分を考慮した原油輸入量の90日分へ27年度中に積み増す案で、保管形態はナフサ現物か原油か、なお検討が続く。高市早苗首相が指示した総合パッケージの策定期限は8月末になる。

生産側では、エチレン設備の稼働率が6月に66.5%と統計のある96年以降の最低を更新し、好不況の目安の90%を44か月連続で下回った。三井化学は7-8月に千葉の設備を8割ほどへ引き上げて在庫の適正化を進めるが、石化協は業界全体では7割程度の低位が続くとの見方を示す。価格は、アジアスポット、通関CIF、国産ナフサ基準価格へと時間差を伴って反映される。アジアスポットは3月末の1トン1200ドル超から6月に衝突前を割り込み、8月7日時点で725ドル。通関CIFは5月に月次12万3912円/kLで過去最高。最も遅い国産ナフサ基準価格は4-6月期に11万8900円/kLと前四半期比5万3200円上げて過去最高になり、7-9月期の前提を開示した化学3社は8万6000円から9万5000円、下期を開示した東ソーは7万7000円と、いずれも下落を織り込む。

この時差は化学各社の決算にも刻まれた。総合化学5社は4-6月期にそろって営業段階で増益となった。少なくとも効果額を確認できる4社では、原料急騰の時間差で生じた在庫・受払差の利益が増益を押し上げた。三菱ケミカルグループの計上額は400億円で、決算説明で示された4社の効果を合算すると900億円を超える。各社とも下期の剝落(はく落)を想定する。増益は供給量の回復を意味しない。物量面では、エチレン稼働率66.5%という低操業が続いている。

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前年割れの内航、3割増の輸入樹脂

同じ時期、国内の二次物流でも荷動きの減少が表れている。国土交通省の内航船舶輸送統計では、化学薬品の輸送量が3月にトンベースで13.8%減、4月も7.4%減と前年割れが続き、原油は3月24.9%減、4月35.6%減だった。統計には定期修理や国内需要の弱さも混ざるため、減産の影響だけを切り出すことはできないが、方向は一致する。

これとは別に、担い手の側には長期の制約がある。全国内航タンカー海運組合の調べで、内航ケミカル船は26年3月末時点で183隻と前年度から5隻減り、油送船全体の中で最も小さい船隊になる。国交省の資料では、内航船員の50歳以上が5割ほど、法定耐用年数の14年を超えた船齢の船が7割ほどを占める。今後、荷動きの低迷が船隊縮小につながれば、石化の稼働回復時に輸送力を確保できるかが論点になる。

樹脂の流れにも変化がある。国産樹脂が減産を続ける一方で、中国からの輸入は増えた。財務省貿易統計を基にした報道では、3月の中国からのプラスチック原料輸入は前年同期比3割ほど増え、一部品目は6年ぶりの水準に達した。事実として確認できるのはここまでで、この2つが続けば、国内工場発のバルク車・フレコン輸送に対し、港頭の輸入コンテナから始まる樹脂物流の比重が高まる可能性があり、保管と配送の設計に影響する。仮に価格競争力を持つ輸入品が危機の後も定着すれば、国内設備の縮小をさらに促す余地もある。

包装資材の値上がりは、物流現場が使う資材のコストと、荷主が売る商品の価格の2方向へ波及している。現場側では、緩衝材のプチプチを手がける川上産業が5月1日出荷分から原反を25%以上、特殊品を35%以上引き上げ、グンゼは6月22日出荷分から包装用OPPフィルムを再改定し、ユニチカと東洋紡も6月に追加改定した。ストレッチフィルムは国内流通の9割ほどを輸入品が占め、5月時点で輸入減により2-5割高くなり出荷制限が生じていると食品業界紙が報じた。荷主側では、帝国データバンクの調査で9月の食品値上げが4531品目に達し、値上げした企業のうち物流費を要因に挙げた割合は65.8%、包装・資材は64.0%と高い比率を保つ。

そして下期には、上期の反動が控える。三菱ケミカルグループの決算説明資料は、バリア包材用ポリマーや添加剤用途の機能化学品で顧客側の在庫確保に伴う増販があったと明記し、木田稔最高財務責任者(CFO)も包装用材料や塗料原料など幅広い分野の前倒し調達を説明した。一方、石化協の6月統計ではメーカー側の樹脂在庫が低密度ポリエチレンで13%減、高密度ポリエチレンで31%減、ポリプロピレンで14%減と前年を下回り、メーカー側に在庫の積み上がりはない。ここまでが確認できる事実だ。前倒し調達は需要を新たに生んだわけではなく、早く手当てした分はその後の新規発注を抑える方向に働く。影響が先に出るとすれば、合成樹脂を中心としたトラック輸送や倉庫出荷の反動減という形になる可能性があり、液体化学品や内航輸送への波及は製品別の見極めを要する。荷主の増益だけを見て、輸送需要の拡大を見込むことはできない。

今回の危機とは別に、国内石化では長期の設備縮小も進む。三井化学、三菱ケミカルグループ、旭化成の3社は30年度をめどに岡山県倉敷市の水島のエチレン設備を止め、大阪石油化学(大阪府高石市)へ集約する。西日本の生産能力は95万1000トンから45万5000トンへ半減する。水島発着の内航・ローリー需要には減少圧力がかかる一方、大阪側への集約は原料の受け入れと製品配送の起点を変える。物流量の減少にとどまらず、化学品物流の地図が描き替わる。

検証の日程は詰まっている。石化協は20日に7月のエチレン稼働率と樹脂統計を公表し、22日には調達支援制度の意見公募が締め切られ、8月末に総合パッケージが示される。10月末には7-9月期の国産ナフサ基準価格が確定する。そのうえで、より長い論点がある。この半年で日本の企業は、高くても遠くから買えるという選択肢を実際に作った。海峡が開いても、開拓した調達網が丸ごと元に戻るとは限らない。経産省の作業部会も、恒常的な多角化には輸入価格の振れを抑える効果があり、必ずしも中長期のコスト増につながらないとの評価を示した。決めるべきは多角化を平時にどこまで組み込むかで、その判断材料がこの秋に出そろう。

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◆ この記事をより深く理解するために ◆

「44年前のナフサ戦争、政府が決着見直し」(7月7日)
– ナフサが備蓄制度の外に置かれた82年の決着と見直しの経緯を詳述した署名解説
「大倉工業、樹脂製品を最大30%値上げ」(4月11日)
– 物流資材への値上げ波及を伝えた本誌既報
「石化プラント減産、物流資材不足が4月迫る」(3月9日)
– 危機初期の資材供給制約を伝えた本誌既報

>>特集「ホルムズ海峡封鎖〜試されるサプライチェーン」トップページへ

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