
話題予定より物量が多い日に、自動化設備が1台止まった。それでも出荷の締め切りは動かない。どの作業を優先し、どこへ人を移すか。物流センターで最後に決めているのは誰か。LOGISTICS TODAYは2023年からWESを追い、26年版の選定ガイドを前に、国内の公開事例を集め直した。(編集長・赤澤裕介)
LOGISTICS TODAYは23年、特集「WES不要論」でWES(倉庫運用管理システム)は必要かを正面から取り上げた。大手3PL(サードパーティーロジスティクス)の現場担当者はWESを「単なるコネクター」と呼び、導入は時期尚早だと語った。翌24年にはSBSホールディングスの曲渕章浩LT企画部長が「必要性については疑いない」と述べ、25年の特集は自動化を前提にWESを捉え直した。3年の取材で、賛否は割れたままになっている。26年版の準備で公開資料と導入事例を集め直し、最初に引っ掛かったのは、WESを使っていない倉庫だった。
3万5000種類超のカタログ商品を扱う日東工業の物流部門は、物量の増加で従来のWMS(倉庫管理システム)が限界を迎えていた。既存の自動倉庫やパレタイズロボットはそのまま使い続けたい。制御するシステムは刷新したい。APTの導入事例によれば、この要望に対してAPTは、個別に稼働していた自動倉庫とパレタイズロボットのWCS(倉庫制御システム)を撤廃し、フォークリフト車載器やハンディターミナルまで含めてWMSによる一元管理へ組み替えた。稼働は15年。以来この設計で運用が続く。WES特集の最初の実例が、WESを置かない倉庫になる。
逆の実例もある。プラスオートメーションの「+Hub」はWESを名乗らない庫内実行システムで、渋沢倉庫の松戸拠点では21年から、仕分けロボット「t-Sort」と渋沢倉庫のWMSを接続し、物量の波にあわせてロボットと人手を組み合わせる業務フローを両社で構築した(両社発表)。ロボット制御のMujinは、コントローラーでロボットの動作計画を自動生成し、主要メーカー10社のロボットアームに接続する。担うのはロボット周りの実行判断で、倉庫全体の作業管理とは別物ながら、WESが受け持つとされる領域の一部にすでに踏み込んでいる。
層の境界は、上と下の両側から削られてもいる。クラウドWMS大手のシーネットは22年度、異なるロボットを複数制御するWMS起点のWESを投入した。設備側では村田機械が、WMSから機器制御、センシングまでを一括で提供する。作り手自身が層の区分を疑い始めてもいる。APTの小杉直人取締役は25年7月、LOGISTICS TODAYの取材に「WESがWMSとWCSの両方の役割を果たすこともある」と語り、3層を統合する「WXS」という構想を示した。将棋AIのHEROZとの協業で、搬送経路や作業動線の最適化にAIを使う試みも進む。名称と機能の範囲は、図のとおり一対一では対応していない。
市場の統計も、この分類の若さを映す。デロイト トーマツ ミック経済研究所は24年発行の調査でWESを初めて調査対象に加え、23年度を前年比64.9%増の12.5億円、24年度を148.7%増の29.0億円と推計した。伸び率は高い。それでも同じ推計のWMS市場228.5億円と比べれば1割強にとどまる。富士経済の同年の推計は22億円で、集計対象や定義の違いを含め、調査会社によって市場の捉え方にも差がある。
繰り返し現れた言葉、提案と支援
WESを名乗る製品の資料を読み進めると、繰り返し現れる言葉があった。提案、可視化、支援。自動で決める、と書いた資料はほとんどない。
東芝デジタルソリューションズは22年11月の「LADOCsuite/WES」発表資料で、作業員の急な休み、トラックの到着遅れ、物量の増減という、予定が崩れる場面をそのまま想定機能に挙げた。役割として書かれているのは、人と設備の負荷を分析したうえでのリソース配分の提案。少なくとも公表資料上、人員配置の変更をシステムが自動で実行するとは説明していない。同社制作の導入事例では、複数荷主のWMSと仕分け設備を接続した大阪市の三鷹倉庫で、手作業時に1時間200点だった処理が300点へ上がったとされる。導入側の公表値で、どの機能が処理増に効いたのかまでは資料から特定できない。同製品はオープンAPIを備え、他社のWMSやWCSとも接続できる設計をとる。
GROUNDの「GWES」は26年初頭に導入100拠点を超え、三菱倉庫、日本通運、シーエックスカーゴが並ぶ。花王は24年6月の八王子拠点を起点に全国44拠点へ広げた。これだけの規模でも、同社の説明の中心は一貫して管理者にある。進捗を可視化して遅延の兆しを検知し、現場管理者が指示を出せるようにする。終了時刻や先の作業量を予測して、管理者の意思決定を支援する。25年6月には数理最適化で要員配置の案を作るモジュールを加えた。配置案を作る段階まで来た。ただ、その案で自動的に人を動かす運用は、公開情報からは確認できない。
YE DIGITALの「MMLogiStation」は21年11月の提供開始で、同社の発表によれば、ミック経済研究所の調査で22年度から24年度まで3年連続の国内WESシェア1位になる。設計の軸は設備接続にある。自動化設備をプラグイン方式で接続し、対応設備は25年7月に12種類、27年までに30種類へ広げる計画を公表する。中堅規模向けにはロジザードのクラウドWMSと連携し、26年6月には3PL向けに、WMSを改修せず複数拠点へ展開する基盤も始めた。WMS派生型もある。ブライセンの「COOOLa WES」はWMS「COOOLa」からの派生で、出自の違いがそのまま機能範囲の違いになって表れる。

▲DHC川崎センターの自動搬送ロボット(出所:DHC)
8月に本格稼働したDHCの川崎センターは、この設計の実地になる。23年8月にAutoStoreを導入済みで、6月下旬のプレ稼働を経て8月5日に完全移行した。搬送ロボット270台に加えて自動仕分け機など6機種を新設し、MMLogiStationが一括で制御する。出荷は1日平均1万6000件前後、繁忙日は2万件。本格稼働後は3階でピッキングと梱包、1階で配送先別の仕分けを行う動線に改めた。変えたのは設備の数より、増設のたびにWMSを個別改修してきた接続のやり方で、作業者を半分以下に抑えながら出荷処理能力を30%高める目標を掲げると、DHCは発表で説明する。長谷川俊一ロジスティクスユニット長は発表のなかで、重視したのは個々の設備性能より、設備を連携させてセンター全体の性能を引き出すことだったと述べている。
接続のやり方が後から問題になった実例もある。通販会社の白鳩は倉庫移転で、自動保管設備とコンベヤーを別々のメーカーに発注した。保管側はオカムラが納入したAutoStoreで、在庫120万点の3割にあたる3万SKUを格納する。ただ、両方を横断して制御する担い手が決まっておらず、APTの公開事例によれば、プロジェクト発足後に課題を埋める形でAPTが途中参画し、各メーカーの取りまとめとマテハンの一元管理、基幹システムとの連携を引き受けた。出荷は移転前の1日8000件から1万3000件へ、1.6倍に伸びたとされるが、移転と新設備を含む複数の要因が絡み、統合だけの効果とは切り分けられない。この事例で確かめておく価値があるのは件数より、統合の担い手が発注の後に浮上したという経過になる。野村総合研究所も23年3月のレポートで、倉庫自動化の失敗例を挙げている。ボトルネックだった工程を自動化して速くした。すると次の工程の手前に仕掛かりが積み上がり、倉庫全体の処理量はほとんど変わらなかった。設備単体の毎時処理能力と、倉庫全体の出荷能力は別の数字になる。
今回確認したのは、WESを名乗る主要製品と周辺システムの公開事例で、対象はYE DIGITAL、東芝デジタルソリューションズ、GROUND、ブライセン、APT、シーネット、Mujin、プラスオートメーションなど10社弱。網羅調査とは言えない。それでも同じ線が何度も現れた。設備へのジョブ割り当てや搬送経路の選択は自動で動く。人を別の工程へ動かす場面では、管理者が残る。この範囲では、人の承認なしに人員配置まで変更する運用は確認できなかった。人員管理システムを手がけるKURANDOの25年8月の調査でも、物流センターの人員管理担当者275人の57.1%が、人員配置を担当者の経験値で決めると答えている。ベンダーの自社調査という留保は付くが、管理者が残るという観察と矛盾しない数字になる。各社の実装がどこまで進んでいるかは、公開資料だけでは最後まで見えなかった。ここは特集の参画各社への取材で確かめていく。
振り返ると、23年の不要論と24年の必須論は、同じ言葉で別の物を指していた可能性がある。「単なるコネクター」と語った現場担当者が見ていたのは既存システムの間を接続するだけの箱で、懸念の中心は、複数メーカーのロボットを入れると保守契約がメーカーごとに分かれ、窓口が一元化されないことにあった。必要性を強調した側が見ていたのは、人と設備の実行判断を引き受ける層になる。25年の特集は、物流危機の顕在化と法改正への対応を背景に、WESへの評価の風向きが変わったと総括していた。3年たって、接続の側はプラグイン化や連携の標準化で前進した。保守窓口の一元化は、いまも選定の急所として残る。
判断の置き場所は、制度の側からも動く。26年4月に全面施行された改正物流効率化法は、年間取扱貨物量9万トン以上の荷主に、役員クラスからの物流統括管理者(CLO)選任を義務付けた。対象は国交省の試算で3200社規模、中長期計画の提出期限は26年10月末になる。CLOの職務には設備投資やデジタル化を含む計画の作成と評価が入る。これまで物流部門やセンター長の中で完結していた庫内システムの投資判断が、経営会議の議題に上がる。法がWESの導入を求めるわけではないが、判断の主体を決め直す圧力は、現場の外からもかかり始めた。
自社倉庫を診断する6つの確認点
今回のガイドでは、企画段階で設けた6項目を、取材で見えた場面の言葉に置き換えた。
波動対応。平常時の処理能力を聞いても、この軸は測れない。東芝が想定場面に挙げた欠勤、遅延、物量増の日に、作業順と人繰りを誰がどう変えるか。そこで見る。
人協調は、ロボットの稼働率と倉庫の出荷能力を混同しないための軸になる。ロボットが100%動いていても、倉庫全体が速いとは限らない。人と設備をあわせた配分まで扱うかで、製品の設計は分かれる。
接続・拡張は、白鳩の経過がそのまま教材になる。導入期間の長短の前に、複数メーカーの設備と既存WMSを接続する責任者の置き場所が決まっているか。
停止時対応は、公開資料で最も情報が薄かった軸だった。稼働率の数字は各社が示す。止まったときに設備を単体で動かせるか、仕掛かりのデータをどう戻すかは、資料からは読めない。資料より、ベンダーへの質問で確かめる領域になる。
KPI設計で見る対象は、表示できる指標の数より、その数字で翌日の配置と作業順が変わるかどうかにある。
保守体制には、23年の現場担当者の懸念がそのまま生きている。複数ベンダー構成の障害で一次切り分けを誰が担い、最初に電話する窓口が1つにまとまっているか。ブライセンがWESにAGVの保守までを一括で付ける構成を打ち出すのは、この需要への回答になる。
6項目の答えは、実際の倉庫では1つの型に収まらない。設備停止には既存のWCSで即応できるのに、欠員の調整だけは管理者一人の経験に頼る。設備追加のたびに接続の担当が変わる。そういう混在が普通に起きる。既存のWMSや設備側システムが答えを持つ項目について言えるのは、少なくとも現在の判断機能を補う目的だけなら、新しいWESの必要性は低いというところまでになる。属人性の解消や拠点展開など、別の理由での検討は残る。判断が特定の管理者に集中し、判断の量と速度が人の処理能力を超えている項目には、WESを含む実行管理機能を検討する余地がある。そして、誰がどの情報を見て、どれくらいの時間で、どの優先順位で決めるのかが決まっていない項目は、システム要件の手前にある。そこを決める作業が、製品比較より先に来る。
3年の取材を並べ直して見えたのは、WESという製品分類の成熟より、WMS・WES・WCSという名称の境界そのものが薄くなっていく過程だった。WESを置かずに動く倉庫があり、名乗らずに同じ領域へ踏み込むシステムがあり、名乗る製品は人の判断を残し、統合を掲げるWXSまで現れた。実行判断が複数のシステムと人に分散していること自体は、問題にならない。問題になるのは、誰も全体を把握していないこと、予定が崩れたときに判断が遅れること、設備を追加するたびに接続を作り直すことにある。26年の選定ガイドで見るのは、WESという名前より、予定が崩れたときに誰が何を決めるか。その6つの場面になる。
特集「WES選定ガイド2026」では、参画2社の取材記事も、この6つの場面への回答という同じ物差しで見ていく。掲載は9月27日まで。国際物流総合展2026は9月8日から11日まで、東京ビッグサイトで開かれる。
◆ この記事をより深く理解するために ◆
「問われるWESの存在意義、現場が突き付ける課題は」(23年6月30日)――「単なるコネクター」発言を含む、WES不要論の現場の声
「それでも『WES必須』の時代はやってくる」(24年6月19日)――認知がまだ低かった時期に、必要性を強調する声を取り上げた続報
「自動化の波に乗るか呑まれるか、成否の鍵はWES」(25年7月8日)―――自動化を前提にWESを捉え直した昨年の特集
「WESを超えるWXSで現場統合、全体最適を目指す」(25年7月8日)——本記に登場するAPT小杉取締役が統合構想を語ったインタビュー
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