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適正原価、骨抜き回避が最大の論点

2026年8月27日 (木)

ロジスティクス国土交通省は26日、改正貨物自動車運送事業法に基づき2028年6月までに導入される「適正原価」制度の骨格を話し合う第2回有識者検討会を開催した。同じ26日、同省は先行する「標準的運賃」制度の実態調査結果も公表しており、この2つを重ねると、適正原価が越えるべき壁が具体的な数字として浮かび上がる。事務局が示した「総体規制」という緩やかな枠組みが、標準的運賃と同じ機能不全に陥らないか。制度設計の実効性こそが最大の論点である。(編集委員・刈屋大輔)

▲「第2回適正原価の設定に向けた有識者検討会」

適正原価は、25年6月に成立した「トラック適正化二法」に基づく制度だ。国土交通大臣が事業運営に必要な費用を適正原価として定め、事業者はこれを継続して下回る運賃・料金で運送を受託できなくなる。長年運用されてきた「標準的運賃」は法的な強制力を欠き、荷主との交渉における実効性の乏しさが課題とされてきた経緯があり、適正原価はこの反省を踏まえた仕組みである。制度は公布から3年以内、28年6月までに施行する法的期限が定められている。

有識者検討会はことし7月に初会合を開き、8-9月に業界ヒアリングを重ねたうえで、年内に提言を取りまとめる工程を組む。提言を踏まえて27年中に適正原価を告示し、1年の周知期間を経て28年度に本格運用へ移る見通しだ。適正原価を継続して下回る事業者は、許可の更新を判断する審査基準にも関わってくるとされ、単なる運賃の目安にとどまらない重みを持つ制度設計になりつつある。

対立する三者の言い分

26日の会合で、トラック運送業界は、車型・地域ごとの実態に即した精緻な制度設計と、荷主との力関係を是正する法的措置を求めた。運輸労連は、適正原価が「これだけ払えば十分」という価格の固定化を招く懸念を示し、交渉のスタートラインと位置づけるべきだと訴えた。

一方、荷主側に立つ経済団体は、価格転嫁が進んでいない中小事業者の実態を認めつつ、原価に含める費用は安全確保など最低限に絞り、シンプルな制度にすべきだと主張した。原価に将来投資まで含めれば負担が際限なく膨らみかねないという懸念は、荷主側だけでなく、コストの転嫁先を持たない業種にも共通する。

農業や出版など、市場の構造上そもそも価格転嫁が難しい業種からも、一律適用への懸念が示された。各者の発言の詳細は本紙の関連記事に譲るが、立場の異なる関係者が異口同音に警戒しているのは、制度が実効性を欠いた「作文」に終わることであり、この点では荷主側・運送事業者側の利害は不思議と一致している。

標準的運賃が示す先例

その懸念に具体的な裏付けを与えるのが、同じ26日に公表された「標準的運賃」の令和7年度実態調査である。運賃交渉を行った事業者は90%に上り、そのうち荷主から一定の理解を得られた事業者も78%と、交渉の場自体はすでに広く定着している。

荷主側の調査でも、標準的運賃の金額や算定方法まで理解している企業は72%に達し、新たな運賃を「受け入れた」「一定程度受け入れた」と答えた企業は90%に上る。数字だけを見れば、荷主が一方的に交渉を拒んでいる構図ではなく、制度の周知や理解は事業者・荷主の双方で着実に進んでいると言える。

問題は、その先にある。実勢運賃が標準的運賃の8割以上に達した事業者は35%にとどまり、令和6年度からむしろ減少した。事業者が挙げる課題では「標準的運賃に強制力がない」が最多の752件、「水準が実勢運賃と乖離している」が552件と続く。運賃値上げを原資に賃上げを実施した企業も50%と、前年度の60%から後退した。

▲「標準的運賃」と実際に収受できた運賃との乖離率(クリックで拡大、出所:国土交通省)

交渉のテーブルには着け、一定の理解も得られているにもかかわらず、実際の収受額や賃金にまで反映される割合は頭打ちになっている。強制力を持たない目安という制度設計そのものが、双方の歩み寄りを最後の一歩で止めている可能性がうかがえる。

総体規制という折衷案の行方

事務局が示した骨格案は、個別企業ごとの原価ではなく一般的な費用を積み上げた総体として適正原価を捉え、運賃収入が全体でこれを上回っていれば回収方法は事業者の裁量に委ねるという内容だった。精緻な制度を求める運送業界と、簡素な制度を求める荷主団体の双方に配慮した折衷案と言えるが、標準的運賃が残した教訓を踏まえれば、この緩やかさ自体がリスクの震源にもなり得る。運賃値上げの実現を荷主の任意の理解に委ねる仕組みが機能不全に陥った先例がある以上、適正原価を下回る運賃を法的に禁じるという今回の制度の強制力を、原価の中身を曖昧にしたまま骨抜きにしてよい理由にはならない。

原価に何を含めるかという各論を先送りにするほど、運用は総論の緩さに引きずられやすい。荷主側が求める簡素さと、運送業界側が求める強制力は、本来どちらも制度の実効性を支える車の両輪であるはずだ。年内の提言取りまとめに向け、標準的運賃が突き当たった壁をどう乗り越えるかという一点に、今後の議論の実効性はかかっている。

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