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適正原価告示後に何が起きるか

2026年3月1日 (日)

ロジスティクス国土交通省が実施した「トラック運送事業の適正原価に関する実態調査」の回答期限が過ぎた。このアンケートの結果が、2026年夏以降の運賃交渉の前提を塗り替える可能性がある。だが、肝心の回答率がまだ見えてこない。

告示が変える運賃交渉の前提

この調査は、改正貨物自動車運送事業法に基づく「適正原価を下回る運賃・料金の制限制度」を具体化するためのものだ。法第60条に基づく回答義務があり、任意のアンケートとは性格が異なる。対象は全国のトラック運送事業者で、燃料費、人件費、減価償却費、安全経費、投資原資など詳細な原価構造の報告が求められた。ドライバンなどの締め切りは26年2月27日まで延長された。

国交省はこの調査結果をもとに「適正原価」を告示する。時期は26年春から夏が見込まれている。告示後、荷主が適正原価を下回る運賃を強要する行為は、貨物自動車運送事業法上の違反原因行為として位置づけられる。物流・トラックGメンによる働きかけや要請の根拠が、一段と強化されることになる。

3月1日時点で、回答率に関する国交省や全日本トラック協会の公式発表はない。全ト協や東京都トラック協会など地方協会が「回答率が低い」「未回答事業者への周知を強化する」と呼びかけを続けている状況だ。業界関係者のSNS上では「文量が多すぎて途中で手が止まった」「何を書けばいいかわからない」といった投稿が散見される一方、「今後の物流の在り方を決める大事な調査だ」という前向きな声もある。

回答率が低ければ、告示の精度と正当性に影響する。原価の実態を反映しない告示では、荷主との交渉で説得力を持たない。逆に言えば、回答しなかった事業者は、自社の原価実態が告示に反映されないリスクを負うことになる。

適正原価が告示されると、運賃交渉の前提が変わる。現在、荷主が低運賃を強いている場合でも、「いくらが適正か」の公的基準がなければ、トラックGメンの介入にも限界がある。告示後は「この水準を下回っている」と客観的に示せるようになり、是正勧告や命令の根拠が明確になる。

取適法(中小受託取引適正化法)の協議拒否禁止、改正物流効率化法の特定荷主義務化(4月施行、9万トン以上の荷主3200社が対象)と合わせて、26年夏以降は荷主が運賃据え置きを続けるコストが格段に上がる。行政処分のリスク、取引先からの信頼喪失、供給途絶の恐れ──転嫁を拒むことの代償が、制度面からも可視化される。

告示を待つだけでは生き残れない。制度が整っても、自社の原価を説明できなければ交渉の土台に立てないからだ。中小運送の生存戦略の柱は3つある。

1つ目は、自社原価の可視化だ。全ト協が提供する原価計算・運賃表制作シートを活用し、車種別・路線別の原価を数字で把握する。告示が出た後、自社の運賃が適正原価を上回っているか下回っているかを即座に判断できる状態にしておく必要がある。

2つ目は、荷主への効率化提案だ。単に「値上げしてほしい」ではなく、積載率の向上、配送ルートの最適化、荷待ち時間の削減策を共同で提案する。荷主にとってもコスト増を吸収できる仕組みを示すことで、長期契約の優先枠を確保しやすくなる。

3つ目は、長期契約への移行だ。スポット取引に依存する事業者ほど、運賃交渉で不利になる。特定荷主の義務化に伴い、荷主側も安定した運送パートナーを求める動きが強まる。この需要に応えられる体制を整えることが、中小運送の生存戦略の核になる。

適正原価の告示時期、回答率の公表、特定荷主の届出状況。今後数か月で出てくるこれらの情報が、26年後半の運賃水準を左右する。春闘の集中回答日(3月18日)の結果も、賃上げ原資の確保という観点から転嫁交渉に直結する。制度はそろいつつある。問題は、それを使いこなす準備ができているかどうかだ。

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LOGISTICS TODAY編集部
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