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兵機海運取材レポート

「その仕事、港湾でもできますよ」連載第2回

2020年7月17日 (金)

話題永田利紀氏の兵機海運取材レポート「その仕事、港湾でもできますよ」の第2回を掲載します。第1回では、新型コロナウイルスの影響について「内航部門がここまで苦戦することはなかった」と言及する兵機海運が、海と陸の物流を横断的に手がけられる強みを生かし、新たな拠点開設に踏み切ったところまで掲載しました。

第1回掲載(7月14日)▶https://www.logi-today.com/386662

■ 規制と保護の中で

外部者から「港湾事業者は法令に保護されている」と揶揄や誤解を受けているいくつかの点と質問に対し、兵機海運の大東慶治執行役員から「それが時として手枷や足枷にもなりえる」という主旨の弁解や反論が一切出なかったことが印象的だった。(企画編集委員・永田利紀氏)

法令や地域、自社の事業履歴とその結果としての現状を肯定して呑み込んだうえで、次の生き方を模索しているという印象が強かった。それは物流業界に限らず、気鋭の経営者たちが唱える「制約だらけの条件下であっても、わずかに許される欠片のような自由裁量部分を見出して、全身全霊で挑む」に重なる。

今後も民間事業者と省庁や自治体港湾管理者の折衝や要望提出の継続は根気強くなされるだろうが、それと並行して事業者には今の枠組みの中でまだ造り出せるサービスがあるはずだ。

■ 港湾でも請けられる仕事

輸出入業務を持つ事業者の業種業態は多岐にわたるが、いずれにしても港湾機能は不可欠だ。取材中にふと過ったのは「一般事業者、とりわけEC事業者は港湾業務をもっと知るべき」ということだった。

兵機海運に限らず、港湾事業者には内陸の一般倉庫と同様の業務サービスを提供できる企業が存在する。つまり、複数工程と複数事業者にまたがっていた「輸入による仕入れから保管、出荷まで」を1か所でまかなえる可能性が大いにある。もっとも、今まで扱ったことのない貨物や、その中身を細かく区分して保管すること、ピッキング・梱包業務――などに対して、端から拒絶反応を示す港湾事業者も少なくないはずだし、むしろ大多数の本音だろう。

しかし、通関後にドレージして数十キロも離れた倉庫でデバンニング・入荷処理・保管を行い、受注引当処理後に梱包して出荷する――という流れの中からドレージが無くなってしまえば、その部分の時間とコストを「減らす」のではなく「無くす」ことができる。

例えば、40フィートコンテナを年間100本単位で輸入仕入するEC事業者なら、その部分のコストを試算すれば効果はあきらかだろう。もし庫内作業が現状と遜色ない、もしくはより良くなるなら、港湾でのワンストップ業務に切り替えたいという需要は後を絶たなくなりそうだ。

■ 過当競争回避のための差別化

兵機海運の大東執行役員が何度か繰り返した言葉が、「価格競争による採算性低下は徹底して回避したい」だった。

なんでもかんでも杓子定規に「タリフ厳守」「約定どおり」という意図ではないという。荷主の価格要望以前に、業務の類似性や均一化が招くコスト訴求依存型の営業行動は排除したいという意志の表れなのだとか。つい先日、陸運の標準運賃が公表されたばかりだが、海運や港湾作業においては、以前から先行して標準タリフが交付されていた業務項目も多い。

しかしながら、業務によっては標準価格が形骸化し、価格競合の末に安値受注が散見されるとのこと。同じ轍を陸運業界が踏まぬよう祈るばかりだが、物流の祖たる海運業界では常態化して久しいゆえに、差別化やグループ間提携の縛りに縁遠い中小事業者は価格訴求に行き着いてしまうのだろう。それは物流業界に限ったことではないし、受注獲得の最前線に供給する”弾”がない企業にとってはやむなきこととされている。

他業界同様に過当競争回避の手法は差別化がもっとも有効だし、その中身は高品質か個性化であることが正攻法であり、それぞれがサービスの両輪となっていることが理想だろう。

■ 営業活動と営業相手

改めて書くまでもないが、港湾事業の諸規制や秩序維持を目的とした各要件の存在と港湾内外の事業交流はまったく相関しない。今以上に一般事業者は港湾事業者との情報交換を活発化させるべきだし、港湾事業者側も積極的に広報や宣伝を行い、間接的なつながりでしかなかった業界各社と対面するべきではないだろうか。

双方にとって必要なことは、正しい情報の把握と理解や、互いのニーズとその合致する可能性の測定、双方の利害が一致する実務項目と継続できる内容の取引約定――などが基本的な初動確認として浮かぶ。

これまで出会ったこともなければ、対面しての会話など思いもよらない相手が「こんなことができるのに」「こんなことができればいいのに」というニーズを持つ幸福のメッセンジャーだったという想像は、もはや突飛な夢見話だとは思えない。

■ サービスの差別化と顧客の差別化

サービスの独自性や需給のアンバランスをついたサービスの投入などは、事業の堅実性と将来性を確保するために必須の手段だ。加えてダメ押しするなら、取引顧客の差別化も必要ではないだろうか。

「港湾事業者としては珍しい、独特の営業先を持っている」ということが、営業先にとって「〇〇業界では初めて港湾事業者と直接取引を実現し、それによる効率化とコストへの寄与は非常に大きい」という評価につながるなら、一考の価値があると考える事業者は少なくないはずだ。

「誰に何を」という思考の基本事項を立ち止まって愚直に考えてみることを怠ってはならない。

第3回(7月21日公開予定)に続く

第1回:https://www.logi-today.com/386662

永田利紀氏の寄稿・コラム連載記事
“腕におぼえあり”ならば物流業界へ~正社員不足、求人企業は偏見改めよ
https://www.logi-today.com/356711
コハイのあした(コラム連載・全9回)
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-提言-国のトラック標準運賃案、書式統一に踏み込め
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物流業界に衝撃、一石”多鳥”のタクシー配送
https://www.logi-today.com/376129
好調決算支える「運賃値上げ」が意味すること
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もしも自動運転が(コラム連載・全5回)
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