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IATA、ワクチン供給で各国政府と物流向け指針策定

2020年11月17日 (火)

ロジスティクス国際航空運送協会(IATA)は、航空貨物業界が大規模な新型コロナウイルスワクチンの輸送に取り組めるよう、各国の政府と物流サプライチェーンに対する「推奨事項」をまとめた「ワクチンと医薬品の流通、流通に関するガイダンス」を策定した。

IATAでは、新型コロナウイルスワクチンの輸送について「これまでに実施された中で最大かつ最も複雑なグローバル物流業務」(IATA)と表現。ガイダンスの情報更新や周知しやすい環境を整える必要があるとして、物流企業などステークホルダーのための共同情報共有フォーラムを設立した。

ガイダンスは国際民間航空機関(ICAO)、国際貨物運送事業者協会連盟(FIATA)、国際製薬団体連盟(IFPMA)、全米保健機構(PAHO)、英国民間航空会社、世界銀行、世界税関機構(WCO)、世界貿易機関(WTO)など、幅広い国際機関や関係者の支援を得て作成。​ワクチン輸送に関連する国際基準とガイドラインで構成されており、新しい情報を随時反映して更新する。

ガイダンスでは、ワクチンが完成した場合に直面するであろう課題について、(1)温度管理された貯蔵施設が利用できるかどうかを確かめ、利用できない緊急事態に備えること(2)ワクチンの配布に関与する関係者、特に政府当局、NGOの役割と責任を明確にし、安全で素早く公平に配布できるよう支援する体制を整えること(3)物流業界や国境管理当局、保険当局による供給準備――の3項目に整理。

供給準備については、輸送容量と航空ネットワークの再確立、サプライチェーン全体の超低温倉庫と物流インフラ、国境管理、セキュリティーの4テーマに分類した。

輸送容量と航空ネットワークの再確立では、新型コロナウイルスの流行以前に比べて世界的な航空ネットワークが分断されていることから、​ワクチン供給に十分な能力を確保するため、政府に航空接続を再確立するよう促している。

また、初めて規制認可を申請したファイザー社とビオンテック社が共同開発するワクチンは、深凍結状態で保管する必要があり、サプライチェーン全体の超低温流通施設が不可欠となっていることを踏まえ「一部の種類の冷媒は危険物として分類され、量が規制されるため、さらに複雑さが増す。温度管理された施設と機器の利用可能性、時間と温度に敏感なワクチンを扱うための訓練を受けたスタッフが必要になることを考慮すべき」と指摘。

​国境管理についても、「規制当局による迅速な承認と税関、保健当局による保管、通関が不可欠」としており、特に国境手続きの優先事項にワクチン輸送業務のための領空通過、上陸許可のための迅速な手続きの導入、ワクチンの輸送を容易にするための関税免除――などに配慮するよう呼びかけている。

また、政府やサプライチェーン関係者に対し、ワクチンの貴重さから貨物が入れ替えられたり、盗難されたりすることを防止するための措置をとるよう警告している。

IATA事務局長兼CEOの​アレクサンドル・ド・ジュニアック氏は「深凍結状態で輸送・保管しなければならないワクチンを何十億回も世界中に効率的に届けるには、サプライチェーン全体で非常に複雑な物流上の課題が伴う。当面の課題は、検疫なしで国境を再開するためのウイルス検査措置の実施だが、われわれはワクチンの準備ができたときに備えなければならない。ガイダンス資料は、これらの準備の重要な要素を占める」と述べ、ガイダンスの重要性を強調している。

■ガイダンス(英語)
https://www.iata.org/en/programs/cargo/

国際から国内への準備

今夏以降、DHLのレポートにもあるとおり、ワクチン製造のメドが立った後の、「どう運んで、どう保管し、どう届けるのか」はコロナ禍収束への最終課題だ。超低温の国際空輸という大関門をくぐった後も、各国の既存物流インフラが対応できるのかどうかが喫緊の課題となる。

「サプライチェーン全体の超低温流通施設が不可欠」という記述に大きな不安を抱くのは、業界人なら言うまでもなく、一般人でも漠然と「そんな施設が用意できるのだろうか」となるはずだ。

冷凍・低温の物流は、その需給のタイトさをサプライヤーと流通の阿吽の呼吸でしのいでいる。専門性の高い経験則や成熟したネットワークに依存している実態も否定できない。

だからといって、ワクチンを空港から医療の現場まで滞りなく届けることは、何を差し置いても優先しなければならない人道的・国家的急務であることは、官民ともに心得ている。来るべき「国を挙げて」の時には、物流業界の垣根を取り払った一丸対応が必要となる。そのための議論をもっと公で活発にするべきと提案する次第だ。(企画編集委員・永田利紀)

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