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常石造船と三井E&S造船が資本提携、持続的成長へ

2021年10月1日 (金)

荷主常石造船(広島県福山市)は1日、三井E&S造船(東京都中央区)と資本提携を結んだと発表した。常石造船が三井E&S造船の発送済み株式の49%を取得した。

常石造船は、2018年5月7日に三井E&S造船と商船事業分野の業務提携契約を締結。設計開発力やコスト競争力の強化などに協力して取り組んできた。今回の資本提携の締結により、さらに関係性を深めることで、常石造船のコスト競争力と三井E&S造船の技術力を合わせ持つ船舶やサービスを提供する体制を構築し、持続可能な成長を実現する。

造船業界は、カーボンニュートラル実現に向けた機運が高まるなかで、重要度が高まる環境技術の向上と、デジタル技術の開発による、船舶の経済性や安全性の向上が課題になっている。今回の提携により、環境面では三井E&S造船が得意とするガス関連の技術を活用し、アンモニア燃料船など次世代燃料対応やLPG(液化石油ガス)運搬船の建造などでの協業を加速する。

デジタル化については、三井E&S造船が世界トップレベルの技術を持つ自律運航船について共同での取り組みを推進。両社でデータ収集や活用について検討し、新たなサービスの創出を目指す。

さらに、両社の持つ修繕事業や小型船事業など、関連会社間においてもシナジーを創出する体制を構築する。

強みの分野に特化して生き残りを賭ける戦略は奏功するか/h3>

常石造船が三井E&S造船に出資した。三井E&Sは、ばら積み船などの貨物船やタンカーを手掛ける。今回の資本提携を契機として、強みとする大型船の設計などエンジニアリング領域を主軸とする経営体制を敷く一方で、建造は常石造船の技術力を活用するとみられる。常石造船が「造船」ビジネスを推進すると同時に、三井E&S造船は造船技術を開発する企業へとシフトしていく方針がうかがえる。

造船業界は今、復調の兆しが見え始めている。海運市況の回復に加えて、業界再編が進んでいるからだ。業界トップとナンバー2の今治造船とJMUの資本提携はその象徴だ。一方で、生き残りを賭けて強みの分野に集中する動きも広がっている。今回の常石造船と三井E&S造船の提携は、まさにこの図式だ。

常石造船と三井E&S造船がともに危惧していたのが、グローバル競争に勝ち抜くだけの競争力強化だった。持続的な成長を実現するには、もはや強みのある経営資源に特化することで、生き残りを図る選択肢しか残されていなかったとも言える。

とはいえ、それは特定の企業における生き残り策ではなく、業界全体の活性化にもつながると考えたい。業界に属する全てのプレーヤーが一律にフルラインで事業を展開するよりも、個々に強みを見極めて特化していく方が、生産性や収益性が高まるのは間違いない。今回の資本提携がそれを実証する成果を出せるか、注目だ。(編集部・清水直樹)