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薄氷に立つ現場の安全、物流業運行管理の実態

2021年10月19日 (火)

話題LOGISTICS TODAY編集部が10月12日から18日にかけて、物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して実施した「運行管理」に関する実態ニーズ調査(有効回答数897件、回答率33.1%)で、所定労働時間の超過や長時間の連続業務を回避することが難しい現場の労務管理の実態が明らかになった。また、こうした運行管理業務の徹底を図るための施策を社内で十分に講じることができない現状も浮かんだ。ドライバーなど物流インフラを最前線で支える「エッセンシャルワーカー」の安全確保は、現場従業員のギリギリの努力で守られている現実が浮き彫りになった。

今回の調査における回答者の内訳は、運送業が50.7%、3PL企業が17.4%、荷主企業が14.5%、倉庫業が7.3%、その他が10.1%と、これまでの調査に比べ、実運送を伴う企業の回答が多くを占める。こうした企業に対し、運行管理業務の達成難易度や、それを順守するための人員の充足度について聞いた。(編集部特別取材班)

ドライバーの「命を守る」運行管理者

調査結果を分析する前に、ここで運行管理者についてまとめておこう。運行管理者制度の下では、トラックなど事業用自動車の安全運行を確保するために、営業所ごとに車両数に応じた人数の運行管理者を配置することが義務付けられている。一つの営業所に複数の運行管理者がいる場合には、さらにその中から統括運行管理者を選任する。

ドライバーによる事故の防止のために重要な役割を担っている運行管理者は、運送会社などで配置が義務付けられている国家資格であり、ドライバーの疲労、健康状態を把握し、安全な運行を実現するための指導を行う。道路運送法や貨物自動車運送事業法に基づき、過労運転とならないようなシフト作成や、ドライバーが安全運転への理解を深めるために必要な教育や指導、指示が主な業務となる。いわばドライバーの「命を守る」役割と言ってよいだろう。

ドライバーの勤務時間への対応に「難しさ」を実感

今回の調査は、その運行管理者に定められた業務の順守における難易度について聞いた。ドライバーによる事故の防止のために重要な役割を担う運行管理者の業務なのであるから、本来は難易度にかかわらず遂行すべきだ。とはいえ、膨大な業務を限られた人数で賄わなければならないなど、現場での厳しいやり繰りを余儀なくされているのが現実だろう。

■運行管理業務の順守における難易度

遂行難易度が「高い」との回答が最も多かったのは、長距離または夜間運転の場合の交替運転者などの配置にかかる項目で、全体の24.6%が「高い」、23.2%が「やや高い」と回答した。貨物自動車運送事業輸送安全規則は、長距離や夜間運転に従事する場合に、疲労などで安全運転を継続できないおそれがある時は、あらかじめ代替運転者を配置することを明記している。しかし、代替人員を配置できるほど、ドライバーの数が充実している事業所はほとんどないであろう。

続いて難易度の高さが目立ったのが、勤務時間や乗務時間の範囲内で乗務割を作成し、運転者に順守させる項目。「高い」が17.4%、「やや高い」が27.3%に達した。国土交通大臣は、休憩または睡眠のための時間および勤務終了した後の休息のための時間が十分に確保されるように、告示で勤務時間や乗務時間の範囲を定めている。もちろん安全運転を確保するための告示なのだが、現場は「その範囲を守ろうとすれば、今抱える人員では到底足りず、荷物の輸送も完遂できない」(運送企業)と、実態とのかい離の大きさを指摘する。

異常気象時の適切な対応にも困難さが

運転者に対する点呼や確認、アルコール検知器の有効保持にかかる項目も、難易度が高かったようだ。「高い」が15.6%、「やや高い」が8.4%だった。ドライバーへの点呼やアルコール検知の常時運用は、既に相当数の事業所に浸透しているようだが、取り扱う業務によっては24時間の管理体制が求められるほか、記録の保存についても運行管理者の業務範囲となっていることから、難易度の高さを指摘する回答が目立った可能性がある。

「やや高い」が25.9%と目立ったのが、異常気象時における乗務員への適切な指示と輸送の安全確保のための必要な措置を求める項目だ。特にここ10年間で、地震や台風、大雨などによる自然災害が毎年のように列島を襲い、輸送現場の業務遂行を揺るがしている。運行管理者はこうした場合にドライバーと輸送の安全を確保する適切な行動を取る必要がある。しかし、発生時の混乱のなかで冷静に適切な対応をするのは至難の業だ。大切なのは、ドライバーを守る意識を忘れることなく、社会のインフラを守る使命感を抱くドライバーを可能な限り支援する対応なのだろう。

重要なのは「分かっちゃいるけど…」

ここまで、運行管理者に定められた業務を守る難しさについて見てきた。それでは、難易度が高い項目に対して、企業や事業所はどう対応しているのだろうか。

難易度が「高い」「やや高い」項目に対する対処方法について、全体の28.1%が「重要性は認識しているが、なかなか手が回らない」と回答。運行管理者として対応しなければならないことは理解しているものの、人手不足や業務の繁忙などの理由で後回しにしたり、手をつけなかったりしている実情が浮かぶ。「教育」がほぼ同率で並び、前向きな現場が少なからず健在であることに胸をなで下ろす思いがする。「増員」の回答は17.3%にとどまった。

■難易度が「高い」または「やや高い」業務の対処方法

外部リソースの活用も一定程度進んでいるようだ。「外注」は20.6%に達しており、外部に業務を委託して完遂できる事柄であれば、コスト負担を受け入れることも有効な手段と言えるだろう。「ITシステム導入」(20.2%)も同様だ。運行管理システムは物流DX(デジタルトランスフォーメーション)施策の代表例とも言える取り組みであり、IT企業を含めたさまざまな業種から多くのシステムが提案されている。

ちなみに「難易度の高い業務はない」との回答も25.8%に達した。各企業や事業所の考え方に依存する部分も少なくないだろうが、一定水準以上の人員や就労環境が確保されている現場であれば、運行管理業務の難易度はそれほど高くないのかもしれない。当局も、いくら運送業務の安全を確保する取り組みであるとはいえ、到底遂行が不可能な業務を定めることはないからだ。

管理業務の遂行は難しいけれど「管理者は足りている」?

最後に、法定の運行管理業務を遂行するうえで、運行管理者が不足しているか否かを尋ねた。「不足している」が22.6%だったのに対して、「不足していない」は44.8%に達しており、運行管理者の過不足が法定業務の難易度と必ずしも相関しているわけではないことが分かった。言い換えれば、運行管理業務を遂行するうえで不足しているのは、運行を管理する人間ではなく、運行を管理される人間、つまり現場ドライバーなのだと言えないだろうか。

■法定管理業務を行ううえで、運行管理者は不足しているか

ここに、業務用アルコール検知器メーカーの東海電子(静岡県富士市)がことし4月に開催したアンケートの結果がある。興味深いのは、運行管理者の充足度合いに関する質問。実に82.5%が「足りている」と回答したのだ。運行管理業務を遂行するのが困難なほどに多忙を極める物流の現場。しかし現実には、運行管理者が不足しているとの実感は薄い。

課題の根底には「当局と現場にある認識のずれ」があるのか

国交省が2025年度を最終年度とする「事業用自動車総合安全プラン2025」で、課題として「運行管理者の不足」を挙げている。たしかに、今回の調査で22.6%が「不足している」と回答した事実は重い。国内のトラック運送6万社に当てはめると、1万2000社超の安全運行が薄氷の上に成り立っているとみることもできる。

一方、これを大きく上回る44.8%が「運行管理者は不足していない」と回答している。

これら2つの事実から浮かび上がってくるのは、運行管理業務の課題が単に管理者の過不足では片付けられないということだ。これまでの設問で最も多かった回答をさかのぼって見てみると、「運行管理者は不足していない」が、特に交替運転手の配置や運行勤務時間に関する項目を順守するのが難しく、重要性を認識していながら手がまわらない現場の実態が見えてくる。

これを根本的に改善するには、ドライバー不足の解消や法定基準を順守するために必要な運賃に対する荷主・元請けの理解といった課題を乗り越えなければならないが、どれも一筋縄ではいかない。ならば、教育や増員といった自助努力に加え、外注の活用やITシステムの導入による省人化・効率化を模索していくのが、物流事業者側で採りうる手段となろう。

次回は、運行管理や動態管理の機能を持つITシステムの導入にかかる動向を分析する。

■TMS特集 -運行管理システム編-