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位置情報サービスの世界的企業が日本市場に本格参入

欧米で高い実績残す「HERE」配送効率化の実力

2021年8月25日 (水)

話題オランダにHERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ、以下ヒア)という、日本の物流業界がこれから注目すべき、グローバルな位置情報サービス会社がある。日本での知名度はまだそれほど高くないが、同社が提供する位置情報サービスプラットフォームや輸配送管理、動態管理サービスは、物流効率化が進む欧州や米国で高いシェアを誇り、著名なグローバル企業のシステムやサービスに組み込まれている。消費者がヒアのサービスを直接意識する機会は少ないものの、同社の位置情報サービスを採用している車両は全世界で1億5000台にのぼり、日本国内の全車両数の2倍に相当することからも、その事業規模と信頼性がうかがえる。

母体は1980年代からGPSを活用して地理情報サービスを提供していた米国のNAVTEQ(ナブテック)で、2007年には携帯電話事業で世界的に名を上げたフィンランドのノキアが買収。ノキアは12年に、ブランド名を「ノキア・マップス」から現在の「ヒア」に変更し、15年にはアウディ、BMW、メルセデス・ベンツのドイツ大手自動車メーカー3社がヒアを買収して現在に至る。17年には米国半導体大手のインテルも出資した。

NTTと三菱商事が事業パートナーとして日本進出を支援

そうそうたるグローバル企業の名前が並ぶが、日本の物流業界が注目すべきポイントは、日本電信電話(NTT)と三菱商事が19年から主要株主に名を連ねたことにある。これにより日本市場との距離がぐっと縮まった。

カーナビゲーションやドライブレコーダー、運行管理・動態管理システムなどを提供するパイオニアも同社に出資しており、地図会社のゼンリンやインクリメント・ピー(東京都文京区)も、ヒアのプラットフォームに参画している。各社の狙いは、同社のグローバルな地図情報・位置情報プラットフォームを活用したビッグデータの解析や、自社サービスの強化、グローバル市場への進出といったところにあり、ヒアの事業の根幹もここにある。

■HERE・三菱商事提携、流通・物流最適化を本格始動(20年1月8日掲載)
https://www.logi-today.com/363032
■ゼンリン、HEREの位置情報プラットフォームに参加(20年6月9日掲載)
https://www.logi-today.com/380582
■パイオニアと蘭HEREが位置情報サービスで提携合意(17年2月9日掲載)
https://www.logi-today.com/277399

配送事業者向けの最適化ソリューション「HERE Last Mile」

しかし、同社が強みとするのはプラットフォームの提供だけではない。商用車を含む1億5000台の車両に対する位置情報やナビゲーション機能の提供で培った、配車計画や配送ルートの最適化が、欧米の物流効率化に大きく貢献しているのだ。

そんな同社が日本市場へ本格参入するにあたり、特に注力しているサービスが、配送事業者向けの機能パッケージ「HERE Last Mile」(ヒア・ラスト・マイル)だ。

▲HERE Japanの山下順司氏

欧米で高い実績を残してきた「ヒア・ラスト・マイル」とはどんなサービスなのか。日本市場向けプロダクトのディレクターを務めるHERE Japan(ヒア・ジャパン)の山下順司氏は、LOGISTICS TODAYの取材に対し、「欧米で培ってきた配送効率化の知見を、初期費用のかからない月額料金制の機能パッケージで提供し、日本の中小運送会社の業務を強力に支援していく」と意気込みを語った。

独自のアルゴリズムでラストマイル配送を効率化

ヒア・ラスト・マイルは、ラストワンマイル配送に必要な機能を盛り込んだソリューションパッケージだ。ルート最適化を中心とする配車計画や、位置情報プラットフォームを活用した動態管理、ドライバー向けのナビゲーション、スマートフォンによる荷物の受領確認などの機能が盛り込まれており、これら全てが交通情報や渋滞予測などの外部情報とつながる。中核をなすヒアの最適化アルゴリズムが、刻々と変化する業務進捗や外部情報をリアルタイムに捕捉し、常に「より効率的な」計画を提案するのだ。

▲ヒア・ラスト・ラストマイルの機能連携図(出所:ヒア社)

加えて、API連携により、導入企業の求めるカスタマイズに柔軟に対応し、いわゆる「パッケージ商品」の弱点を補うことができる。山下氏によれば「顧客によって業務プロセスはそれぞれ異なるので、入念なヒアリングで適宜カスタマイズする」という。

▲配送先や指定条件などを登録すると、最適な車両台数とルートが数分で提示される

配車担当者にとっては、さまざまな条件や制約を勘案して、最適な配車計画と配送ルートを迅速に決められることが最大の魅力といえる。例えば、配送車の車種や配送先の指定条件、配達先でかかる時間、渋滞予測情報、ドライバーの勤務シフトなど、多種多様な制約がある中、1日あたり何百件もの配送を行う場合でも、最適な車両数と配送ルートを、ものの数分で導き出すことができる。これまで配車担当者やドライバー”個人”の経験から導き出されていた条件や制約をシステム上で共有することで、属人化された配車業務から脱却することができるのだ。

また、計画に使用する地図と、実際の運行に使用する地図やナビゲーションシステムが異なる場合に、計画時の想定と実際の所要時間に誤差が生じることが配送現場の課題として挙げられるが、この課題について山下氏は「ヒアのサービスは、配車計画から実際の運行までを同一のプラットフォーム上で提供するため、オペレーションに誤差や乱れが生じることは少ない」と強調する。配車担当者とドライバーがリアルタイムに情報を共有した上で、刻々と変わる交通状況や再配達の状況などに合わせて、都度計画を変更し、最適化できる柔軟性も魅力だ。

配送業務に特化した地図デザイン

では、ドライバーにとって最も重要といえる地図の精度についてはどうか。ヒアは海外に本社を置く企業だが、日本国内の地図についてはパイオニアにルーツを持つインクリメント・ピーとのパートナーシップにより、高精度な地図とナビゲーションシステムを構築している。インクリメント・ピーは1997年から「MapFan」(マップファン)を提供している、いわば国内地図サービスの老舗で、日本人ドライバーから信頼を得やすい。

▲ドライバーが使用する地図のイメージ

実際にドライバーがスマートフォンで使用する地図は、グーグルマップなどに多い広告要素を一切排除し、完全に業務に特化したものを用意した。一見するとシンプルで、色合いも落ち着いているが、丁目や番地の境界を見やすく表示し、業務に関するアイコンを目立たせるなど、ドライバーが配送業務に集中できる「ユーザーに寄り添った最適なデザイン」(山下氏)となっている。

また、ヒアはEUの厳格なデータ保護規則(GDPR)に準拠しているため、同社のサービスを使用することで「情報を抜かれる」(情報が流出する)といった心配がないことも重要なポイントだ。

車種や熟練度に合わせた柔軟な運用が魅力

商用車向けのメニューも充実している。一般的な地図アプリでは難しい、車幅や車高に配慮したルートを導き出すことが可能で、トラックが通れないような細道やアンダーパスに迷い込むリスクがなくなる。2021年中または22年の早い時期には、日本人の特性に合わせたスマホ向けナビゲーションアプリの提供も予定しているというから、経験の浅いドライバーには心強いサービスとなるだろう。

一方で、担当地域を知り尽くした熟練ドライバーの中には、あらかじめ決められたルートに縛られたくない人もいる。配送中に不測の事態や再配達が発生した時には、ドライバー主導でルートを変更することが可能で、これに追従するかたちでヒア・ラスト・マイルのアルゴリズムが配送計画を見直す。ドライバーの経験値に合わせて活用の幅が広がるのだ。

HEREを選び、世界的なDXの流れに身を置く

ヒアは配送事業者向けの同パッケージだけでなく、荷主向けのソリューションも充実している。荷主の輸配送計画・管理からラストワンマイルの配送最適化までを同一のプラットフォーム上で一気通貫に提供できることが同社最大の強みであり、ヒア・ラスト・マイルはその巨大な位置情報プラットフォームの入口の一つでしかない。ヒアが見据えているのは、全世界のサプライチェーンの可視化と、独自のアルゴリズムによる最適化だ。

▲ヒア社が目指す「位置情報を活用したサプライチェーンのデジタル化」のイメージ(出所:ヒア社)

日本に限らず、物流会社や荷主企業が、個社の力でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現することは難しい。しかしパートナーの選び方次第で、DXへの道が開けることも確かだ。その点、ヒアはプラットフォーム上のさまざまな機能群とパートナシップにより、荷主・3PL・トラック運送・軽貨物運送などの個々の業務形態や課題に合わせて柔軟に選択肢を提供できる強力な物流DXパートナーといえる。

「最先端のグローバル物流プラットフォーム」というと、多くの会社は期待とともに、身構えてしまうかもしれない。しかし、ヒアには多くの日本企業が出資・参画し、日本市場にもきめ細かく対応できる力を持つ。

ラストワンマイルまでのサプライチェーンを担う荷主・倉庫・3PL・運送会社にとって、全プレーヤーが同一のプラットフォーム上でつながるメリットは計り知れないほど大きいはずだ。ヒアのサービスを活用してみることは、ドメスティックな日本の物流業界から一歩踏み出して、世界的なDXの流れに身を置くきっかけになるに違いない。

ヒア社の各種サービスページ
■物流向けソリューション
https://www.here.com/jp/solutions/fleet-management
■スマートモビリティ・MaaS
https://www.here.com/jp/solutions/urban-mobility
<ウェブセミナー>
「サプライチェーンのリアルタイムな可視化とアセット追跡による物流生産性の最大化」

日時:2021年9月16日13時〜
会場:オンライン
詳細・申込み:https://frost-apac.com/eblitz/sep21/here-jp/index.html

ホワイトペーパー「日本の物流における課題とビジネス機会」
■ダウンロード
https://go.engage.here.com/State-of-Movement-White-Paper-JP.html
■コンテンツ
・車両と物流アセット追跡および貨物モニタリングのソリューションに関する顧客の理解
・フリートと物流アセット追跡および貨物モニタリングのソリューションの普及推進要因の特定
・車両と物流アセット追跡および貨物モニタリングのツール利用における主な課題と満たされていないニーズの明確化
・ロジスティクス企業が今後採用する新たなサプライチェーンとロジスティクス技術のトレンドの発掘

■TMS特集 -配車計画システム編-