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クラウド型運行管理システム「トラックキング」のキャブステーション

バス仲介業者が生んだ「使いやすい」車両管理ツール

2021年10月19日 (火)

話題運送会社の配車担当者の携帯電話が鳴った。付き合いのある荷主からだ。「急な話で申し訳ありません。明日の朝一番に荷物を送らなければならないんですが、お願いできますか」。あいにく取引先との打ち合わせで移動中だ。そもそも、トラックの配車状況も分からないのに即答できるわけがない。ところが、担当者はタブレットであるシステムを検索すると、その場で返答した。「今夜8時でしたらトラックを用意できます。詳細はすぐにメールでお知らせします」。わずか数分、商談はあっという間に成立した。

訪問先や自宅など、場所を選ばずにトラックの空車状況や走行位置を把握したいというニーズは、運送会社で案外よく耳にする。急を要する案件の打診も、決して珍しくない。むしろこうした事態でいかに迅速に対応できるかが、運送会社の強みとなり顧客開拓にもつながるのだ。

観光業者が生んだトラック運行管理システム

▲様々なデバイスで使用でき、「使いやすさ」「安さ」が強みだ

この運送会社の担当者が使っているシステムは、そんな強みを支援してくれる強い味方だ。その名も「トラックキング」。トラック業務に特化したクラウド型運行管理システムで、インターネット環境さえあれば、いつでもどこでもあらゆるモバイルツールで使用できる。空車状況の確認や配車割り当てだけでなく、受注管理や労務管理、書類作成もできるマルチ機能を持つシステムなのだ。

「トラックキングの強みは、『使いやすさ』と『安く使えること』です」。トラックキングを提供するキャブステーション(東京都品川区)のICTソリューション事業部・広報担当の滋野陽平さんは、操作の簡単さと低料金で、競合するトラック運行システムとの違いを強調する。とはいえ、システムの提供開始はわずか1年あまり前の2020年7月。まずはトラックキングの存在を知ってもらうため、運送会社の名簿を手に全国行脚の日々だ。

▲キャブステーションの歴史を語る佐藤さん

ところで、このシステムを開発したキャブステーション。近年の物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化による業務効率化を推進するシステム開発企業なのかと思いきや、「私たちは観光タクシーやバスの手配や仲介を行う観光業者なんです」。ICTソリューション事業部・セールスマネージャーの佐藤泰樹さんから、驚きの答えが返ってきた。

設立から貫く「ニッチ戦略」

キャブステーションを設立したのは、香川県のバス会社の経営者を父に持つ楠木崇延社長だ。1987年、楠木社長が夢だった起業時に着目したのが、観光タクシーの手配業だった。観光地をタクシーで周遊するこのビジネスは、客単価の高さゆえに当時はそれほど需要がなかったことから専門に取り扱う業者もなく、旅行会社は手配に困っていた。楠木社長は、あえてそこにビジネス機会を求めたのだ。

(イメージ)

いわゆるニッチ戦略、社是である「Something New」(サムシング・ニュー)を実行したというわけだ。タクシー会社はバス事業も兼ねているところが多いことから、その後は手配業務の対象をバスにも拡大するとともに、旅行会社との強固なネットワークを構築。「観光タクシー・バス手配業の先駆け」と呼ばれるようになった。

2010年代に入り、キャブステーションにとって転機となる出来事が起きた。全国で相次いだ観光バスの大事故だ。事態を重く見た国土交通省は、バス事業者に対する運行体制や運賃認可などの管理を強めることで、監査による業界規律を高めて適正な運行を求めたのだ。バス事業者は当局の厳しい管理方針に対応するため、社内の運行管理の見直しとその報告を求められることになった。

「運行管理はビジネスになる」という発想

ところが現場の運行管理と言えば、多くがカレンダーへの手書きや口頭での連絡など、書面化されていない。大手事業者は社内でシステム構築が可能だとしても、中小事業者は外部に委託するしかない。そこで「Something New」の精神が浮かんだ。「バス事業者の管理業務を引き受けてみよう、これは業界に貢献できるビジネスになる」。こうして2013年5月に生まれた貸切バス運行管理システム「バスキング」は、提供開始からわずか5年で国内シェア2割を占めるヒットとなった。監査の厳格化や運賃改定など、複雑化していた管理業務を簡単にパソコンで操作できる便利さが話題を呼んだ。

順調に滑り出したバスキングだったが、再び転機が訪れる。2020年初頭から急速に顕在化し始めた新型コロナウイルス感染症の拡大だった。インバウンド需要を中心に、貸切バスの需要は急減。観光タクシー・バス手配業も厳しい。ところが、滋野さんら営業メンバーには、息を吹き返せる可能性のあるビジネスのアイデアがあった。「バスキングの『トラック版』の実用化に向けて動いていたのです」

きっかけは、バスキングの導入先である「駒井運輸」(宮城県大崎市)の駒井めぐみ専務の言葉だった。駒井運輸は、トラックを主業にバス事業も展開していた。「バスキングのようなシステムを、トラック用にも作ってくれないか」。2019年夏のことだった。滋野さんは他の営業メンバーとともに、バスキングのトラック版の開発に動き始めた。駒井運輸のように、バスとトラックの事業を兼ねている事業者は意外と多い。「バスキングのお客様に、トラック版を使ってもらえるかもしれない」

「バス」から「トラック」への水平展開

▲バスキング「トラック版」の開発について語る滋野さん

とはいえ、キャブステーションにとってトラックは未知の世界だ。滋野さんらは、まずバスとトラックの運行管理ニーズの違いを調べた。事業者へのヒアリングなどから浮かんだのは、バスが運行指示書の作成など「事前」の管理業務が多いのに対し、トラックは輸送・乗務実績、売り上げ管理など「事後」の作業が多いことが分かった。つまり、管理業務の時間軸が異なるのだ。「配車スケジュールが決まるタイミングが大きく違います。バスは一月前には配車を決めてそれに従って運行するのに対し、トラックは直前になっても突発の事態が発生します」(滋野さん)

コロナ禍による最初の緊急事態宣言が解除された直後の2020年7月、こうして生まれたのがトラックキングだった。検証したバスとトラックの管理業務の違いを考えて、記録書類の作成における利便性に配慮した設計とした。運転日報に基づく荷主への請求データやチャーター車両への支払い、経費精算などの運行後の管理業務処理について、一画面で入力できる仕様とした。また、配車の有無を含めた受注情報をリアルタイムで一覧できる仕組みも採り入れた。

「使いやすさ」で差別化を追求、そしてその先へ

トラックキングを活用した簡単な業務フローのイメージはこうだ。入力した運行台帳にトラックを配車する際に、荷主や発着地、スケジュール、荷物情報を記載してドライバーを選択する。実際の運行業務の終了後に運行実績や売上金額を入力すると、必要な帳票が簡単に出力できる。

トラックキング開発のヒントを滋野さんに提供した駒井専務。かつては、別の企業が開発したトラック運行管理システムを使っていたが、パッケージ型で高額なうえに、オンラインで配車管理やドライバーの労務管理が出来ず困っていた。「そこで、バスキングで実績のあった当社にトラック版の話を持ちかけていただいたのでしょう」(滋野さん)

▲駒井運輸では、トラックキングは円滑な運行管理に欠かせない存在だ

駒井運輸では、配車業務や点呼簿の出力、ドライバーの労務管理など、運行管理業務の全般について、トラックキングを活用している。「とにかく操作方法がわかりやすい。短時間で操作技術の取得が可能で活用しやすい」(駒井専務)。画面が見やすく、既存のシステムではできなかったドライバーの勤務実績を把握できることで、配車業務を効率的に進められるという。

教育など他の業務に振り分けられる時間も生まれた。アフターサービスの充実しており安心できる。「今後さらなる法律の厳罰化が進むであろう輸送業界への対応として、法令の順守と知識が求められる時代に適したシステムだ」(駒井専務)

タクシー・バス手配業の先駆者からバスキング、さらにそれを水平展開したトラックキングへ。こうしたキャブステーションのビジネス展開は、常に「Something New」の精神が根底にあった。もちろん、トラックキングで終わるつもりはない。「運行管理以外の仕事にもトライしていきます。まだまだNewを探し求める旅は続きます」(佐藤さん)。運送の現場を変革する救世主になるかもしれない。トラックキングは、それを実現するだけのポテンシャルを持っていると言えるだろう。

トラックキング製品ページへのリンク

▲左から駒井運輸の今野圭司部長、駒井専務、キャブステーションの滋野さん

■TMS特集 -運行管理システム編-