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日立製作所の物流支援ビジネス基幹サービス「HDSL」

現場の「見える化」「知識化」「高度化」で課題解決へ

2021年10月26日 (火)

話題ある夏の夕方。北関東にある加工食品会社の営業所で、女性担当者が30台の配送車両を手配していた。夕方はスーパーやコンビニエンスストアで食品がよく売れる時間帯で、少し遅れただけでも店舗から苦情が入る。「急いで配送の手配をしなければ」。女性はスマートフォンを取り出すと、過去に蓄積された実績などから自動的に生成された配車計画に基づく最適ルートの確定結果を出力する操作を始めた。わずか数分で完了すると、ホッと一息ついた。時計は17時30分をさしている。「今日もこれで間に合った」

ちょうど同時刻。営業所から10キロ離れた配送会社のセンターでは、今から配達する食品をトラックに詰め込む作業がほぼ完了。30台のトラックが出発を待つ。まだ日差しは強い。その時、ドライバーたちのスマートフォンが一斉に鳴った。画面には、今からの配送順リストが掲載されている。ドラッグストアからコンビニ、スーパー、コンビニと定時に回って戻ってくるルートだ。ドライバーは、各自の配送ルートを確認すると、次々とセンターを出発していった。

「安全・運行・動態管理」から始まった日立製作所の物流支援

食品会社から配送会社へのデータ自動連携。こうした配車計画の自動生成を含めた配送最適化サービスが、物流現場における業務効率化に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)化の先進事例の一つとして、総合電機メーカーの日立製作所が開発した「Hitachi Digital Solution for Logistics」(日立デジタルソリューション・フォー・ロジスティクス、HDSL)なのだ。

ITやエネルギー、モビリティなどの製品・システム群で広く知られる日立製作所だが、安全・運行・動態管理の物流支援ビジネスへの本格参入は2008年と、意外に最近のことだ。産業向けソリューションを手がけるインダストリーセグメントの一角を占める物流支援ビジネスは、幅広い事業領域で蓄積されたシステム開発力を元手に、わずか13年間で物流DX領域における存在感を着実に高めている。その象徴が、2019年4月に提供を始めたHDSLだ。

HDSLの内容について語る前に、話は1998年にさかのぼる。産業向けの業務支援ビジネスの一環として、日立製作所が得意とするセンサーによるデータ収集や分析、可視化による課題解決を促す「安全・運行・動態管理システム」(テレマティクス)事業がスタートした。この事業はルート探索向け交通情報の提供サービスなどを端緒とする取り組みで始まったが、2008年の配送車両向け動態管理端末の開発を契機として、物流支援ビジネスへの本格参入が明確化した形となる。

2010年代に入ると、業務用ナビ端末やクラウド型経路探索など、物流現場の業務効率化を意識したサービスが具体化してくる。そのころと言えば、社会に宅配サービスが普及し始めた時期に当てはまる。近い将来のEC(電子商取引)の隆盛を予感しているかのような、物流支援サービスの拡大ぶりだ。この時期の日立製作所の物流支援サービスの方向性は、動態管理を中心としたいわゆるラストワンマイル輸送に焦点を当てている。

物流「インフラ」を意識し2つのサービスを集約

東日本大震災をはじめ、多くの災害が列島を襲った2010年代は、物流が社会に不可欠な「インフラ」として認識され始めた、まさにターニングポイントとなった年代でもある。テレマティクスで実績を積み上げ始めていた日立製作所は、新たな新サービスに動き出す。配送計画サービスを主軸としたサプライチェーン全体の支援ビジネスに領域を広げ始めたのだ。

▲HDSL誕生の意義を語る平林重幸氏

物流サービスをフルラインで支えるソリューション展開に舵を切った日立製作所は、両方のサービスを集約し連携させることで、本格的な物流フルライン高度化支援サービスの確立を推進する方針を明確にした。それがHDSLの誕生だった。

「動態管理と配送計画のサービスを連携させることで、輸配送の効率化・高度化を推進するサービスが整った」

日立製作所 産業・流通ビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 ロジスティクスイノベーション部 主任技師の平林重幸氏は、HDSL誕生の意義についてこう語る。

最大の特長はPDCAサイクルによる高精度な配送計画立案

HDSLの具体的なイメージはこうだ。両方のサービスを有機的に組み合わせて、「現場の見える化」「知識化・共有」「高度化(効率化)」で価値を提供する。第1段階として、輸配送の現場(トラック運行履歴や拠点・納品先、地図、荷物など)の実態を可視化して実績値を収集する。続く第2段階では、こうした実績値を「形式知」(誰にでも認識可能な客観的な知識・ノウハウ)化することで、配送状況をモニタリングする。さらに第3段階でそのデータを分析して数々の「パラメータ」を設定する。輸配送業務では「距離」「渋滞」「速度」「時間帯」などの条件を設定し、「この時間帯ならこの経路が最短だ」「ここは走行実績がない道路だから避ける」などの判断をしながら、第4段階として実効性の高い高精度な配送計画を自動で立案する。それを配車結果としてドライバーに出力して伝達する(第5段階)という流れだ。

▲HDSLの強みを説く後藤慧央氏

ロジスティクスイノベーション部の後藤慧央氏によると、この流れはいわゆるPDCAサイクル(品質管理などの業務管理における継続的な改善方法)なのだという。配車結果に基づいて配送した結果はトラック運行履歴として実績として収集され、サイクルが第1段階に戻る。「何度も回転することで、さまざまな条件下のデータが蓄積され、自動で生成される配車計画の精度がどんどん高まっていく」(後藤氏)のだ。

日立製作所が物流支援ビジネスの基幹サービスと位置付けるHDSLで、特筆すべきなのが、配送計画の立案から確定結果を出力して配車結果を自動連携する過程だ。「荷主から配送会社へ、つまり別の組織(系)への自動連携は、ソリューション構築のうえで障壁の高い部分だったが、そこを『ひとつのシステム』とすることで、シームレスに接続してハードルを乗り越えた」(平林氏)。せっかく計画を立案しても、その後の実行系に直接アクセスできなければ、まさに「絵に描いた餅」になってしまう。冒頭の事例のとおり、ここの連携が同時に進むことで、輸配送の一連のサイクルがスムーズに回転すると言うわけだ。

HDSLは物流ニーズ高度化と歩調を合わせて進化を遂げていく

このサイクルがうまく回ることで、具体的に効果が期待できるのか。後藤氏によると、「まず車両の走行実績を考慮した移動時間の精度向上が実現できる」という。

過去の走行実績を統計処理しデータ化することで、到着時刻を予測できるのだ。日々集計される情報に基づいて統計交通情報が生成され、配車計画にフィードバックされる。そのサイクルが繰り返されることで、到着時刻のほぼ正確な予想が可能になる。そこまで移動時間の精度が高まるというわけだ。

次に、これを応用して配送先ごとの滞在時間を統計情報として蓄積し分析して配送計画を立案。複数店舗への配送のような複雑なスケジュールも正確に策定できるようになる。移動パターンのデータ化は、人間の頭脳でも正確に予測できない行程を、見事に「形式知」化してしまう。なんとも恐ろしいほどの解析力だ。

輸配送の高度化を力強く支援するHDSLは、プラットフォームゆえに汎用性が極めて高いのも特長だ。HDSLの提供開始後は、新型コロナウイルス感染拡大やそれに伴う「新しい生活様式」の広がりで、物流業界は人手不足と取り扱う荷物の少量多品種化、さらにECサービス普及拡大による物量増など、まさに激変の最中にある。結果として、物流現場の効率化が待ったなしの課題となり、その解決法として物流DX化が叫ばれている。汎用性が高く高精度な日立製作所の輸配送ソリューションは、こうしたDX化を待望する社会に非常に親和性が高いと言えるだろう。

そんな状況下で、日立製作所が物流支援ビジネスの新たなパラメータとして着目しているのが「環境」だ。輸配送の効率化という実務面に注力していた日立製作所の物流支援ビジネスだが、環境対応を推進する機運の高まりを顧客ニーズと捉えて、HDSLにもその要素を反映させようとしている。同社の平林氏は「CO2が発生しにくい配送経路を示せる配送計画の立案など、環境要素をパラメータに加えることができるのも、HDSLの強みだ」と自信をのぞかせる。

社会の動きを敏感に察知してシステムに反映させながら、物流現場の課題に切り込む日立製作所の取り組み。総合電機メーカーならではの細部にこだわったシステム策定力と、それを実行できる技術力。あらゆる現場の実情に合わせた仕様にカスタマイズできる提案力。これら全てを結集し、さらに日立製作所の物流支援ビジネスは進化を遂げていく。

■日立製作所「HDSL」と三井物産の取り組み事例

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