事件・事故マスクがあっという間に真っ黒に—―。発生から3日以上が過ぎた2日午後も消火活動が続けられている大阪市此花区の人工島・舞洲の倉庫火災。出火元となった日立物流子会社「日立物流西日本」(同区)舞洲営業所の倉庫だけでなく、物流倉庫が建ち並ぶこのエリアでは、風向きの変化により煙やにおいが流れ込み、保管した製品の物流にも影響が及んでいる。隣接する物流倉庫で医薬品を取り扱う物流会社の社員が、出荷対応に追われる緊迫した現場を語った。
この物流会社は、火災倉庫に隣接する倉庫の一部を賃借し、大手製薬メーカーの医薬品を取り扱っている。出火直後は、炎が自分たちの目の前まで押し寄せてきて、少しでも風向きが変わったら延焼するのではないかと恐れていた。炎が収まって一安心していたのも束の間、火災発生当時は山に向かっていた風向きが、29日深夜になって海向きに変わり始めた。
恐れていた事態が現実になった。従業員の健康被害を最小限にするため、パート社員の出勤を取りやめるとともに出荷を差し止め、社員のみが出勤して取引先との対応などにあたる決断をした。
その後も流れてくる煙の影響は沈静化していないが、このまま出荷を止め続けるわけにもいかず、1日夕、近隣の支店から社員に応援を要請。2日現在、フル稼働時の8割にあたる30人態勢で、2日間の休業で滞留していた荷物をさばく必要があった。そのため通常の2倍のスピードで荷扱いに取り組む結果となった。
応援を要請された社員は、「医療現場や患者が必要とする医薬品の物流を途絶えさせるわけにはいかない。迅速に対応することがわれわれの使命」と語り、社員全員がマスクを真っ黒にして対応にあたっていると話した。
不幸中の幸いなのは、倉庫内の製品に炎やすす、消火用の水による損傷などの被害が出なかったことだ。この社員によると、隣接する出火元の倉庫は煙が収まる気配がまったくないといい、健康への影響を考えてもパート社員を出勤させるめどは一向に立っていないと頭を抱えている。
日立物流は、近隣の自社拠点内に現地対策本部を設置。荷主の要望に沿って、周辺事業所や他地域にて代替拠点の確保とオペレーションの継続を進めている。
隣接倉庫の社員による緊迫レポートが物語る「黒い煙の恐怖」
迫り来る黒い煙、いつ燃え移るかわからない恐怖—―。今回、電話取材に応じた社員は、隣接する倉庫から次々とはき出される煙が舞い込むなかで、大切な荷物を守るために奔走する実情を語った。
社員の健康被害を心配する一方で、荷主の期待には一にも二にもマスクを真っ黒にしてまでもすぐさま応えるという、普段私たちが目にしている製品からではうががい知ることができない物流の担い手の、目には見えない部分が伝わってきた。
この会社は、火災の原因が明らかになることを待って、その原因を生じさせた相手にパート社員の休業補償を求めていく方針という。
物流施設やレジャー施設が集まる、大阪湾に浮かぶ舞洲は、煙に包まれ混乱が続く。いまだに鎮火の目処が立たないなかで、日立物流も現地の状況把握に精一杯で、周辺被害についての実態の把握まではできていない模様だ。
今後、この会社のように、補償などの対応を求める声が相次ぐことも予想される。鎮火後は、本格的な出火原因の解明が進むとみられるが、日立物流をはじめとする関係者には、補償のあり方や物流を滞らせないための具体的な道筋を早急に示すことが求められる。(編集部・今川友美)