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柔和なイノベーター/曽我部完氏・グリッド社長【TOP VISION vol.2】

グリッド曽我部氏「仮説を設定して最適解を導く」

2022年2月28日 (月)

話題従業員の適正な採用や物流拠点のベストな配置、トラック台数の過不足ない確保――。物流業をはじめとする企業が収益の最大化やリスクマネジメントの最適化を実現するためには、短期的な目標達成だけでなく、長期的な視点の事業戦略の策定が不可欠だ。とはいえ、明日の見通しさえ立てるのが難しいのに将来の予測なんてとんでもない、それが経営企画に携わる企業担当者の本音だろう。

そんな悩みも、もはや過去の物語になるかもしれない。AI(人工知能)プラットフォーム開発のグリッド(東京都港区)は、未来に起こりうる仮説(シナリオ)を設定して対応策を導く「シナリオプランニング」のAI支援サービスをことし3月に開始する。無数に存在する需要や市場環境から想定したシナリオについて、AIを活用した独自システムで売上高や原価、さらに稼働率や在庫量などのKPI(目標達成への重要な業績評価指標)を自動で高精度に弾き出す。

EC(電子商取引)サービスの普及をはじめとする消費スタイルの多様化や、新型コロナウイルス感染拡大に伴う宅配需要の急増への対応など、物流ビジネス求められる社会における役割が急速に多様化・高度化するなかで、こうしたシナリオプランニングの精度向上がもたらす利点とは何か。グリッドの曽我部完社長に聞いた。(編集部・清水直樹)

将来の「あるべき姿」実現を支援する、グリッド流の物流DX化

▲ReNom Appsのサービスイメージ

グリッドが2021年7月に提供を開始した、日々の業務をデジタル空間に再現することで現場を見える化し高精度なAIで計画の最適化を実現するプラットフォーム「ReNom Apps」(リノーム・アップス)。今回のシナリオプランニングAI支援サービスも、このReNom Appsを活用したサービスの一環だ。デジタルツインとAI最適化技術で社会インフラにかかる課題解決を図る取り組みを推進するグリッドは、このシナリオプランニングAI支援ビジネスの有力な提供先として、物流業界に注目。物流DX(デジタルトランスフォーメーション)化の一翼を担うことに強い意欲を示す。

――国内の物流業界における課題認識は。

曽我部 倉庫や輸配送など現場における従業員や車両の確保、拠点配置などのリソース配分や、それを踏まえた年単位の長期投資の最適化が進んでいない。取扱量の増減や種類による業務の繁閑や要求される特性などに適切に対応するには、最低でも数週間単位での業務計画を策定する必要がある。属人的な業務スタイルが続いてきたところに、物流ニーズの急速な変化を迫られていることで、業務プラン策定の「近視眼」化が顕著になっている。

――だからこそ、物流業界に訴求するメリットがある。

曽我部 物流DX化が叫ばれて久しいが、具体的な方策を描くのはそう簡単ではない。なぜなら、課題の抽出とその解決法を見定めるには中長期的な視野に立って業務を見つめる必要があるからだ。大切なのは、刻々と経営環境が変化するなかで、将来の「あるべき姿」を見据えた目標設定とその達成スキームを明確化することだ。幅広い可能性を想定してシナリオを考案し、それぞれの目標達成率を試算する。こうしたシナリオの検証を通して、収益の最大化を実現する。それがグリッドの考える物流DX化だ。

▲中長期的な視野を持ち達成スキームを明確化することが大切だ

「需要」「市場環境」を軸に想定シナリオを設定

グリッドの提案する物流DX化は、現場作業の軽減を目的とした先進機器・システムの開発とは異なる、中長期での事業戦略の構築を支援する取り組みである点が特徴的だ。グリッドは、物流業界におけるシナリオプランニングの具体像として、様々な需要や市場環境の仮定をもとに、数か月から数年まで中長期での事業戦略スキーム案を描けるという。

――物流業界にシナリオプランニングのAI支援サービスを導入する場合のシナリオ設定イメージは。

曽我部 「需要」「市場環境」の2つの項目が起点になるのではないか。当面取り扱う荷物量について、想定できる上限から下限まで複数の段階を刻みながらシナリオを作る。「想定できる最大値での取扱量で推移するとしたら」という具合だ。同様に、運賃水準の変動や軽油価格などの市場環境要素についても幅を設けてシナリオを作る。想定は多ければ多いほど、最終的なプランの精度を高められる。この2項目以外にも、その企業の属性や事業環境に応じてシナリオを増強していけばよい。

▲複数のシナリオからベストなプランを見つけ出す

――そのシナリオをAIが分析することで、目標達成につながる方策を自動的に弾き出す。

曽我部 各シナリオごとに、売上高や原価、KPIの数値や達成度合いを提示する。その結果を比較することで、その企業の状況に応じて「最適解」を選ぶことになる。グリッドが提供を予定するサービスの特徴は、損益計算書のレベルまで落とし込んだ形で結果を提示できる点だ。それができないと、最終的に経営者が方向性を判断することができないからだ。これまでは、経営コンサルタントが膨大な資料とにらめっこしながら目標達成に向けた方策を書類にまとめて提示するスタイルが一般的だったが、シナリオの数に限界があることから編み出した最適解の選択肢も少なく、さらにシナリオの前提となる事業環境などの条件が急激に変化した場合の迅速な対応が難しかった。

――物流業界ではこうした事前想定による課題解決スキームの経験が乏しいようだ。なぜか。

曽我部 需要や市場環境などのシナリオは「変動しないこと」が前提になっているからではないか。経験と勘に頼った職人肌の業務スタイルがその象徴だ。経験を超える事態が発生するのが現代のビジネスであり、今後こうした不確定な状況に直面して課題解決に挑まなくてはならない局面が増えるだろう。事前に可能性を想定することで、将来の目標を達成するために必要な取り組みが見えてくる。この発想がシナリオプランニングであるとの認知が広がれば、物流業界の業務改善も加速するだろう。

「汎用タイプ」のパッケージとして3月に提供開始へ

グリッドは、ことし3月のシナリオプランニングAI支援サービスの提供開始を契機として、物流DXのあり方を問いかけながらより精度の高い最適解を提示できるシステムの構築を進めていく考えだ。

――シナリオプランニングAI支援サービスの提供が目前だ。

曽我部 1年越しのシステム開発がようやく結実した。グリッドは、個別の企業を対象にしたオーダーメード式のシナリオプランニングをAIで実施してきた経緯がある。成果を納めることができたが、物流業界を含めて広くインフラ業界に訴求するには、ある程度の汎用性が必要であると判断した。今回提供するサービスは、この汎用タイプのデモ版になる。とはいえ、導入する企業が独自に抱える目標を設定する場合を除けば、汎用タイプで十分カバーできるだけの機能を搭載している。

――オーダーメードと汎用タイプの両面で、シナリオプランニングAI支援サービスを提供していくということか。

曽我部 そういうことになる。汎用タイプを導入した企業が、より領域の広い事業戦略のシミュレーションを求める場合は、標準パッケージの範囲を超えた深いシナリオ設定によるAIプランニングを実施し、その結果を提供する。今回のシナリオプランニングAI支援サービスの提供をきっかけとして、企業により幅広く深さのあるプランニングサービスを訴求することで、より実効的な物流DX化に取り組んでいきたい。

■取材を終えて

常に柔和な表情を崩さず、語り口も実に冷静だ。しかし、瞳の奥は強く光り輝いている――。度量の広さを感じさせる温和さと、信念を忘れずビジネスの開拓のヒントを常に模索するストイックさを兼ね備えた独特の雰囲気に、つい引き込まれてしまった。

「インフラを進化させ、そしてその先もつづく持続可能な社会をつくります」。グリッドが掲げるテクノロジーの定義だ。社会インフラを技術で進化させることで、社会をよりよいものにするのが、グリッドの存在意義なのだ。

今回のシナリオプランニングも、社会に不可欠なインフラである物流のさらなる効率化・最適化を促すことで、国民生活や企業活動をはじめとするあらゆる動きを滑らかで心地よいものにする。まさにグリッドの「真骨頂」と言うべき取り組みだ。

そのシナリオプランニングの特徴、それは特定の誰かではなく「誰にでも使える」ことだ。「INFRASTRUCTURE(インフラ)+LIFE(生活)+INNOVATION(革新)」。社会・生活の基盤であるインフラをテクノロジーで革新していく。さらなる高い地平を求めて歩み続ける。インタビュー後の高揚感は、そのグリッドの哲学に共感できたからなのかも知れない。(編集部・清水直樹)

AIで物流網計画を最適化、GRIDの「ReNom Apps」