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HAI ROBOTICSが国内本格参入、秘策は「顧客視点」

2022年4月21日 (木)

サービス・商品HAI ROBOTICS JAPAN(ハイ・ロボティクス・ジャパン、HRJ、埼玉県三芳町)は21日、ことし3月1日に稼働した「HRJテクニカルセンター」(同町)で独自開発した自動倉庫用ロボットを公開した。

自動倉庫用ロボットシリーズ「HAIPICK」(ハイピック)と、これらを制御する多機能ワークステーション「HAIPORT」(ハイポート)の動作を実演。入出庫作業を極限まで効率化・最適化した物流倉庫の「未来予想図」を体感できる機会となった。

(出所:HAI ROBOTICS JAPAN)

HRJは、中国の経済特区として各種産業が先進技術の開発を競う深圳市で2016年に誕生したハイ・ロボティクスの日本法人として、21年8月に設立。自動倉庫や製造工程の自動化を実現するための機器・システムの開発を手がける。

HRJが特に注力している領域が、物流倉庫内における入出庫作業を効率化する自動ケースハンドリング機能を持つハイピックシリーズだ。

倉庫の天井近くまでの高さのある棚から、「トート」と呼ばれる商品を収めた箱をケースハンドリングロボット「ACR」が引き出す。ACRは床面を自在に自律走行して入出庫ステーションにトートを運んでコンベヤーに降ろし、作業員によるピッキング作業を経て再び棚に戻すという仕組みだ。商品の最適な入出庫を可能にする順番をAI(人工知能)が判断して、トートを運んで移動する。

ACRは物流現場の状況や商品特性、ピッキング作業員の処理スピードなどに応じて、トートを搬送するスピードを段階的に変えたラインアップを用意。最速で1時間に400個から500個のトートを処理できる能力を持つ。ACRシリーズでは、トートだけでなく段ボールを扱うことのできる機種も用意。さらにトートの仕様についても、要望に応じて複数のサイズをそろえる。

HRJが掲げるロボット開発の信条は、「現場に寄り添ったサービスの提供」だ。開発側が用意した機器・サービスをそのまま提供するのではなく、導入する現場に応じた仕様やスペック、コストを考慮してシステムを提案するところに、HRJの差別化ポイントがある。

既存の物件にも過不足なく対応できるよう拡張性を持たせた柔軟な設計とすることで、先進的でありながら低コストで初期導入を実現できる仕組みとした。さらに、既に倉庫で導入済みのWMS(倉庫管理システム)などのシステムとの連携も可能で、より複合的な効率化システムの構築につなげることができる。

センターを公開したHRJの劉※社長は「EC(電子商取引)サービスの進展で、物流倉庫で取り扱う商材はアパレル系やシューズ系など小型化が進んでいる。こうした動きに対応した自動倉庫ソリューションとして、ハイピックの提案を強化していく」と意気込む。

HRJは、国内における物流現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化にビジネスチャンスを見出し、顧客のニーズに応じてカスタマイズしたサービスの提供で存在感を高めていく戦略だ。22年度は、国内で技術者数を40人程度に増やす計画もあるという。

※は「立」の右に「厷」

▲劉※社長(※は「立」の右に「厷」、出所:HAI ROBOTICS JAPAN)

中国発のHRJ、「顧客ニーズに寄り添う」開発スタイルで市場獲得へ

埼玉県三芳町の国道沿いにある、HRJの本社に併設したテクニカルセンター。外観は典型的な物流倉庫であり、とても先進的な自動倉庫向けロボットを開発する現場とは思えないたたずまいだ。ところが、それこそが劉社長が考案した「仕掛け」なのだという。

「こうした普通の倉庫も、最先端の自動倉庫として運用できることを実証したいのです」。確かに、これほど説得力のあるデモンストレーションはないだろう。劉社長の言葉のとおり、中古の倉庫内で自動運搬機が自在に動き、トートが次々とピッキングコーナーに運ばれているのだから。

こうした劉社長の発想は、物流DX化を現場レベルで実現するうえで欠かせない見識ではないだろうか。ともすれば先進機器の導入そのものが目的となっている感も否めない現実がある一方で、自社の倉庫に果たしてロボットなど本当に導入できるのか、と諦めている事業者も少なくない。物流DXというフレーズだけが一人歩きして、現場では現実味のない別の世界の話題として受け止められている。そんなことでは、現場業務の効率化など実現するはずがない。

HRJは、こうした国内における物流DX化をめぐる思惑を意識したうえで、市場参入を本格化させていく考えだ。導入実績はまだ数社だが、今後は導入実績を積み上げることで市場における存在感を高めながら、ACRの高い機能に対する認知を広げていく戦略だ。「カスタマイズできる先進ソリューション」をうたい文句に、国内市場でどこまで訴求できるか。目が離せない存在になりそうだ。(編集部・清水直樹)

■HAIPICKシステム(出所:HAI ROBOTICS JAPAN)