国内愛知県津島市のトラック運送会社「栗木運輸」の栗木和夫社長(71)は6日、LOGISTICS TODAYの取材に応じ、運送業界が人手不足に苦しむ中、従業員数を減少から増加に転じさせた企業の魅力アップ策について語った。地域密着を徹底することや、社内の家族的な空気が若い世代にも親しみを持ってもらうコツだという。

▲栗木運輸・栗木和夫社長
同社の従業員は現在41人、グループ全体では70人いるが、数年前まで離職が続き、栗木社長も「会社の先行きを組織縮小を前提に考えていた」という。当時20人いた栗木運輸本体の従業員が半分近くまで減る危機も経験した。
離職が止まり、一度の求人に10人ほどが応募してくるようになったのは約3年前。それまでは求人への応募者は年に1人ほどだった。「運送業にとどまらず農業に参入したことと、地域貢献を様々な場面で強くアピールしたことが、多くの人の目に魅力と映ったようだ」と振り返る。
運送業の傍ら、2010年代半ばに農業法人を設立してトマトとイチゴのハウス栽培を開始した。「国内で相次ぐ自然災害を見て、食料自給の重要性に気づいた」という栗木社長自身の思いがきっかけだった。生産を続けるなか、17年12月には一般客相手のイチゴ狩り農園をオープン。これがヒットした。バリアフリー化で幼児から高齢者まで4世代で楽しめる工夫をした。「ハイヒールでもできる」と栗木社長は胸を張る。津島市や隣の愛西市など尾張地方ではそれまでイチゴ狩り農園がなかったことも幸いし、一躍、「農業の観光化」の成功例として地域の脚光を浴びた。今ではバンテリンドーム ナゴヤより広い1万3500平方メートルの敷地に約30棟のハウスがずらりと並ぶ。
栗木社長は農業への外国人実習生受け入れでも旗振り役となり、個人農家7人と協同組合を組織して推進している。主に中国からの実習生で、新型コロナウイルス禍による入国制限で一時減ったが、少しずつ人数が戻ってきた。「何事も自社だけで行わず、地域の人たちと協力することで、本業の運送業の信頼感にもつながっているようだ」。
自社の従業員には給料日に袋一杯の駄菓子を配るユニークな習慣も続けている。「デジタルも取り入れているが、家族的なアナログのやり方も大事にしたいから」。
そして2021年12月。「もっと地元に特化したことを」との思いの集大成として「栗木の地元便」と名付けたサービスを始めた。愛知、岐阜、三重の中京3県に特化した毎日の輸送サービス。各荷主にあった最適な運送プランを提案したり、一時保管から長期保管、輸送までのニーズにワンストップで対応したりする。全国大手の攻勢に地域密着で対抗する。今のところ農産物輸送の依頼が多いという。
会社設立からまもなく40年。稲作農家だった父親がトラック1台で運送業に進出した創業からは72年になる。「地域密着だからこそできるサービスをとことん進化させよう」。栗木社長は従業員に訴え、今日も陣頭に立つ。(編集部・東直人)