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運輸事業者の安全確保を担保する点呼業務のあり方を提言する

「遠隔」と「IT」の連携こそが点呼業務を最適化する

2022年7月29日 (金)

話題物流現場における車両運行業務について最もホットな話題と言えば、「点呼」だろう。対面点呼に代わる「遠隔点呼」制度がことし4月1日にスタート。一方で、物流現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)施策の一環として「IT点呼」の導入が進んでいる。遠隔点呼とIT点呼。違いがわかるようでわからないとはまさにこのことだ。ここでは、両者の違いを解説するとともに、将来の点呼のあるべき姿を提言する。

実施要領で規定されている「遠隔点呼」

そもそも点呼とは何か。運行管理者が運転者と対面しながら体調や酒気帯びの有無、業務内容を確認するとともに、業務許可や安全を確保するために必要な指示を出す業務を指す。こうした業務の性質上、点呼業務はあくまで「対面」を原則に運用されてきた。

しかし、点呼業務は乗務前だけでなく乗務後にも営業所や車庫といった決まった場所で点呼執行者と対面して行う必要があるとされてきた。業務の目的からすれば当然なのだが、日付をまたいだ1泊2日の乗務などで営業所や車庫に戻れない場合など、業務スタイルや実情に合った形での点呼のあり方が模索されるようになった。

こうした観点から出てきた概念が、遠隔点呼だ。トラックなど自動車運送事業者による遠隔地にある拠点間での点呼業務のことだ。ことし4月1日より、「遠隔点呼実施要領」で定められた要件を満たす機器・システムを用いれば、遠隔点呼が可能になったのだ。

遠隔点呼実施要領は、本来の姿である対面での点呼と「同等」の確実性を担保するために必要な項目を明記したものだ。いわば「同等」である根拠を明文化したものと言える。具体的には、実施方法▽機器・システム▽施設・環境▽運用上の順守事項――について定めている。

優良事業者のみ許されている「IT点呼」

一方のIT点呼。こちらは、コンプライアンス(法令順守)の意識が高いと判断された営業所の優良性を根拠に認められた取り組みを指す。

貨物自動車運送業の安全性を評価する「Gマーク」を交付されたり、開設から3年以上にわたって行政処分や重大事故を発生していなかったり、いわゆる「優良事業所」であることが認められた場合にのみ、導入を許されている仕組みだ。

IT点呼は、自動車運送事業者が安全で適切な運行業務を遂行するための点呼を、IT機器を活用して行うものだ。パソコンや各種機器・システムを導入することにより、「擬似的」に対面点呼を行うところが特徴だ。もちろん、こうした機器についても、国土交通省が了承したものでなければならないのは言うまでもない。

遠隔点呼の普及をIT点呼が「後押し」している要素も

それでは、遠隔点呼とIT点呼の違いは何か。大きな違いは、遠隔点呼における実施要領のような機器や施設、環境などの規定がIT点呼には存在しないことだろう。裏を返せば、IT点呼は優良事業者のみに認められているためだからとも言えるわけだ。

IT点呼を行うには、先述のとおりGマーク認定など優良性を担保する認可が必要だ。一方で遠隔点呼は、遠隔点呼実施要領の記載項目を満たしていれば、どの事業者でも実施できる。こうした観点でみると、同じ土俵で比較できる制度ではないというのが実情のようだ。

間違いなく言えるのは、遠隔点呼はIT技術の進展で、本人確認や情報共有の確実性を担保できる高度な点呼機器を活用するなどの要件を満たせば実施可能になったというのが実情なのであり、むしろ「優良事業者」の概念が変わったとも言えそうだ。

遠隔点呼はDXでさらに最適化・効率化を促す

そもそも、遠隔点呼とIT点呼では導入における動機も異なる。遠隔地のドライバーと事務所や車庫にいる運行管理の担当者が、確実な点呼業務を実現する動機で遠隔点呼を導入するのに対して、遠隔かどうかに関係なく点呼業務の効率化・最適化を促すDXの側面が強いのがIT点呼だ。

それであれば、遠隔点呼にIT点呼の要素を盛り込むことができれば、遠隔点呼における「優良性」の担保に貢献するだけでなく、遠隔点呼そのもののさらなる最適化にもつながる。まさに現場業務のDXによるプラス効果の創出だ。

点呼はトラック運行業務の安全を確保する根底をなす業務である。一方で、高齢化や絶対数の不足、長い拘束時間といった課題が顕在化しているのも、このドライバーの領域だ。「新しい生活様式」の時代を見据えて、物流現場で取り扱う荷物の量や種類が急増していくであろう今後、「物流の2024年問題」への対応も含めた抜本的な業務効率化を迫られている。

輸送ビジネスにおける最も重要な命題である安全の確保。一方で、あらゆる業務の革新的な効率化を迫られる実情。こうした物流現場の抱える構造的な矛盾を解決する一つの施策がDXであるならば、点呼業務こそIT化を推進する領域ではないだろうか。

先進機器・システムの活用は、適正な活用における効率化を促すだけでなく、遠隔点呼における「抜け道」を塞ぐ機能も期待できるはずだ。こうしたITシステムを活用する現場のコンプライアンス意識が不可欠なのは言うまでもないのだが。(編集部・清水直樹)

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