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荷主運送業界にEV(電気)トラックを普及させる方策は何か。政府は全面的にEVの普及を後押ししているにもかかわらず、市場の反応は必ずしも芳しくない。まさに「笛吹けど踊らず」の状況を打破するには何をすべきか。それならば、市場そのものを作り出すしかない。こうした発案の産物が、三菱ふそうトラック・バスのEVトラック導入支援プログラムだ。

▲eキャンター(写真は現行型、5月のジャパントラックショーで)
三菱ふそうは国内における量産型EVトラック市場で、まさにパイオニアと言うべき存在だ。2017年にeキャンターの現行モデルを発売した際は、「ついに運送現場にもEVが普及するのか」と期待が集まったものの、必ずしも全面的な支持を受けたわけではなかった。
そもそも街に給電設備が乏しく、いくら小型トラックと言えども配送業務を安心して任せられるだけの信頼感を得られなかった。車両としての完成度が高水準であるだけに、せっかくの実力を発揮できないもどかしさが募るモデルだった。
発売から5年。政府による「50年の温室効果ガス実質ゼロ」目標を契機として、脱炭素化の機運が運送業界でも急速に高まるなかで、三菱ふそうは勝負に出る好機とばかりに新型を投入。さらに、事業者の導入を促すサービスをいわば抱き合わせの形で展開することにより、5年間の教訓を生かした販売戦略を実行に移したのだ。
三菱ふそうがここまで市場の「創出」に配慮するのは、先行者ならではの苦悩を味わっているからだ。そのビジネスにおける第一人者は、当然ながら市場開拓と製品投入をセットで進めなければならない。後続の勢力は先駆者の課題を分析して改良していけば、市場のパイの拡大に追随できるのだ。
しかしながら、EVのような社会インフラに密接に関わる市場の場合は、先行者が自らインフラを構築するのは現実的ではなく、本格的な普及には時間と社会の「理解」が必要だ。今回の三菱ふそうの取り組みは、国内における物流インフラのEV化における時計の針を大きく進める契機になるのは間違いない。なぜなら、普及に必要な「理解」を促す画期的な節目になる可能性があるからだ。(編集部・清水直樹)