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物流施設でデザイン性を追求する意義はどこにあるのか

アライプロバンス「グッドデザイン賞」が示す可能性

2022年10月26日 (水)

話題「2022年度グッドデザイン賞」(主催:日本デザイン振興会)に選ばれた、アライプロバンス(東京都墨田区)のマルチテナント型物流施設「アライプロバンス浦安」(千葉県浦安市)外構部分におけるデザイン構築案件「浦安物流倉庫プロジェクト」(バス待合所、ランドスケープ)。評価されたのは、物流施設の外構部分におけるデザイン性そのものに加えて、それを追求する「意義」にあると言えるだろう。今回の受賞は、物流施設開発の新たな潮流を生み出す契機となるのか。アライプロバンスの新井太郎専務と、ランドスケープデザイナーとして外構部のデザイン設計を担当したSUGAWARADAISUKE建築事務所の菅原大輔氏に聞いた。

▲2022年度グッドデザイン賞に選ばれた「アライプロバンス浦安」の模型を背景に対談に臨む、アライプロバンスの新井太郎専務(左)とSUGAWARADAISUKE建築事務所の菅原大輔氏

物流施設の発想を転換させた「遊び心」と「ストーリー性」の化学反応

アライプロバンスにとって、浦安のプロジェクトにおけるグッドデザイン賞の受賞は単なる「目標」だったのではない。物流施設に変革をもたらす発想の真贋(しんがん)を問う機会だった。

--目標に掲げていたグッドデザイン賞。どう受け止めていますか。

新井氏 アライプロバンス浦安は当社が手がける最初の物流施設です。倉庫としての機能性はもちろんですが、さらに追求したのが、気持ちよくワクワク感を持って働けるための「遊び心」でした。物流倉庫の無機質なイメージを打破して多くの従業員に来てもらうためには、こうしたホスピタリティが不可欠だと感じたからです。さらには、こうした取り組みに注力することにより、後発事業者として他社施設との明確な差別化を図る起爆剤にしたいとの思惑もありました。こうしたアライプロバンスの強い思いが評価されたと考えています。

▲アライプロバンス浦安の全景。「今までにない物流倉庫」を体現する第一歩に

--菅原氏の提案が、外構部のデザインコンセプトの設定に大きな影響を与えたそうですね。

新井氏 「ストーリー性のあるデザイン」。これが菅原氏の提案でした。アライプロバンス浦安の敷地では、かつての新井鉄工所時代に浦安工場を操業していました。こうしたアライプロバンスの歴史を今に伝える「ストーリー」を、総合不動産業に業態を転換して初めてとなる物流施設のデザインに反映させるという、壮大な設定でした。持続的な社会の発展に貢献したいアライプロバンスの経営方針とも合致することもあり、そのコンセプトに賛同したわけです。

菅原氏 アライプロバンスの提案は、社会的な意義を果たしていくことに重点を置いていると感じたのです。物流倉庫という社会の維持・発展に欠かせない機能を最大化するうえで、どんな取り組みが必要か。物理的な機能にとどまらず、デザインを含めた「人」と「地域」を結びつけた物語を作ることこそが、アライプロバンスの求める物流倉庫の「あるべき姿」なのです。産業が成熟し、人間と環境の立ち位置が問われる時代となった今こそ、こうした発想は持続的な社会を構築するうえで欠かせないのではないでしょうか。今回の受賞は、こうした要素が評価された結果でもあると考えています。

外構部デザインで菅原氏が提示した「3つのテーマ」

菅原氏が参画して設計が進められたアライプロバンス浦安の外構部デザインは、物流施設として例のないコンセプトで注目された。その真意をくみ取る契機となったのが、今回のグッドデザイン賞ではなかったか。

--菅原氏は3つのテーマに沿ったデザイン設計を提示されました。

菅原氏 「倉庫街」「東京の顔」「1世紀の歴史」の3つです。アライプロバンス浦安は東京湾に面した倉庫や工場の集まる場所にあります。ともすれば無機質なうえに圧倒的なスケール感で近寄りがたいイメージさえあるでしょう。こうした場所で働き手を集めるためには、ヒューマンスケールで「ここに来たい」「ここで働きたい」と思わせる仕掛けが必要です。そこでデザインの力を試す機会になりました。

--「東京の顔」とはどういう意味ですか。

菅原氏 東京は海に向かって発展した街ですよね。かつて江戸のあらゆる産業や文化は「海」の存在を抜きにしては語れないものでした。ところが経済成長を経て、海は高い擁壁で囲まれて身近な存在ではなくなってしまいました。こうした海を起点とした「東京の顔」を取り戻そうという挑戦が、このアライプロバンス浦安の「海の庭」のコンセプトです。さらに、アライプロバンスの1世紀を超える歴史を象徴する浦安の地で「祖先の叡智(えいち)」を取り戻す、先達の記録を残したいとの思いを反映しました。

--こうしたテーマを象徴するのが、趣向を凝らしたバス待合所ですね。

新井氏 バス待合所で独特の雰囲気を醸し出す壁は、アライプロバンスの開発地の土をつかって仕上げたものです。本来であれば建設残土として処理されるはずのこうした土を壁の材料に使うことで、近代的な「均質性」を排して開放的で親しみやすい雰囲気を醸成することができました。さらには、鉄工所をルーツとするアライプロバンスを象徴する鉄製の柱を待合所の上部空間にあしらい軽やかな雰囲気を作り出すことで、土壁の重厚感とのコントラストを明確にしています。

菅原氏 待合室から「四季の庭」につながる場所は、この土地に流れる様々な時間を増幅する環境を生み出します。まさに、アライプロバンスの「昔」と「今」を絶妙に対比させることに成功しています。こうした癒しと安らぎを提供できるスポットが誕生することで、温かい表情が生まれます。それにより、無機質な倉庫街に新たな「街」の種が芽ぶき、人の集まる有機的な景観が誕生するのです。

今回の受賞が示唆する「物流施設の新たなポテンシャル」

グッドデザイン賞は、デザイン性をとおした様々な活動の成果を表彰する意味合いが強まっている。それだけ社会活動が多様化してきていることの証左でもあるだろう。物流拠点における「グッドデザイン」のもたらす価値とは何だろう。

--今回の受賞は、物流倉庫が街のなかでどう位置付けられるべきかを問いかける機会にもなったように思います。

新井氏 今回の受賞対象となったアライプロバンス浦安のバス待合所を含めた外構部のデザインは、この地域における海と土地、さらに人間の新たな関係を再構築する好機になったと考えています。物流施設は、ともすれば厄介者扱いされる施設として認識されてきた歴史があります。しかし発想を転換して、物流施設そのものに新たな景観を生み出すポテンシャルを持たせることができる存在と位置付けるならば、反対に街になくてはならない価値を生み出す装置にもなりうると思うのです。そのひとつの方策が、こうしたデザイン性の追求ではないでしょうか。

菅原氏 アライプロバンスは、浦安のプロジェクトでデザインの観点から人と街をつなぐ物流施設の新しい姿を提示した意味で、業界を超えて大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。その勇気を盛り立てたのは強い「使命感」だったと感じています。物流施設のイメージに変革をもたらすことで、従業員に働きやすい職場環境を提供するとともに、ビジネスとしての収益も高めていくのでしょう。もっと大きな意義があるとすれば、それは物流施設そのものの概念を変革する可能性を示したことです。

--今回の受賞をきっかけとして、物流施設の概念はどう変化していくのでしょうか。

新井氏 「街」を創出する装置になること、さらには物流施設そのものが「価値ある空間」を提供する機能を担う拠点になることではないかと考えています。今回の受賞を契機として、物流拠点もデザイン性の追求により景観を創出する役割を果たせることを認識することができました。さらに、物流拠点が従業員や地域住民など様々な人間の「交差点」となりうることも示されたと思います。それならば、物流拠点は「物流」の枠を超えて、あらゆる価値を生み出す「空間」として提供することも可能ではないか。そういう発想が生まれてくるのは、もはや自然なことです。

菅原氏 大切なのは、その場所の「価値」を引き出すことです。アライプロバンスは業態転換を契機に、モノを作る会社から「場所」を作る会社に変わりました。そこで生み出す価値を最大化することにより、働きやすく地域住民も集う街を創出する原動力となるだけでなく、それがビジネスの活性化にもつながれば相乗効果も期待できます。物流施設の提供できる価値をさらに広げる、今回の受賞はそんな可能性を示した意味で、非常に意義のある機会になったと考えています。