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半島都市・横須賀、物流による地域再興戦略

2022年12月5日 (月)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「東京九州フェリーが貨物WEBサイトを刷新」(11月29日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクストラック運送業界でいま、神奈川県の三浦半島にある横須賀港が脚光を浴びている。昨年開通した同港と福岡県の新門司港を結ぶフェリー航路が、物流の新たな動脈になりつつあるのだ。半島の南端近くに位置する横須賀は、これまで物流面からはあまり重視されてこなかったが、トラックから船舶へのモーダルシフトと、EC(電子商取引)需要に押された宅配のスピード化が追い風となり、物流の要衝になろうとしている。

南下するトラック

夜の首都高速湾岸線を何台もの大型トラックが南に向かって疾走する。目的地は東京港でも横浜港でもない。さらに南の横須賀港だ。横浜横須賀道路を通って横須賀インターチェンジ(IC)で降りると、すぐ先の新港ふ頭では白亜のフェリー「はまゆう」が待っていた。

▲横須賀港新港ふ頭でフェリーに乗り込む大型トラック(東京九州フェリー提供)

夜間照明に照らされながら、大型トラックが次々と船内に入っていく。全長222.5メートル、総トン数1万5515トン、トラック積載台数は154台。SHKライングループの東京九州フェリー(北九州市門司区)が誇る高速船で、28ノット(時速52キロ)での航行が可能だ。首都圏の主要港では最も遅い毎晩23時45分に出港し、21時間後の翌日21時には976キロ西の北九州市・新門司港に着く。

宅配各社が利用する理由

2021年7月に開設された横須賀-新門司航路。現在、ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便、西濃運輸など大手陸運各社がこぞって利用している。そのうち数社は輸送量を増やしてもいる。

ドライバーの時間外労働が規制される「物流の2024年問題」や、CO2排出量の削減といった社会的要請を受け、近年、長距離トラックをフェリーやRORO船に載せて海上輸送するモーダルシフトが活発になっている。そのなかで、東京都心から離れた三浦半島の端に近い横須賀港が発着地に選ばれている。その理由は速さだ。

▲横須賀港の概略図(クリックで拡大、横須賀市提供)

東京湾の出入り口、三浦半島と房総半島に挟まれた浦賀水道の幅は1.4キロと狭い。そこを抜ける船は、安全確保のため通常の25ノット(時速46キロ)から12ノット(時速22キロ)に速度を落とさなければならない。湾内も同様のスピード制限区域が多い。それに対し、横須賀港は湾の出口に近く、速度制限区間をほとんど通らず湾外に出られる。つまり、トラックを湾の奥の東京港で船に載せて湾内を時速22キロで鈍行するよりも、高速道路を走って湾出口の横須賀港で乗船させる方が速いわけだ。

それに加えて東京九州フェリーが同航路で使う「はまゆう」「それいゆ」の2隻は時速52キロを出せる高速船。横須賀から新門司まで所要21時間。夜遅くに出港しても、翌日21時には北九州に着き、3日目の朝には商品を届けられる。その速さが、商品の受注から配達までの時間短縮にしのぎを削るEC事業者や宅配便各社にとって魅力なのだ。

▲高速フェリー「はまゆう」(出所:東京九州フェリー)

「第2の開国」期待する地元

横須賀港のこうした優位性にいち早く着目したのが東京九州フェリーだった。モーダルシフトの高まりで首都圏と九州を結ぶ航路の需要も高まっていた。横須賀市も港の利用促進のためのポートセールスに力を入れ始めていた。同社の方から新規航路開設を提案し、実現に至った。

4年前に航路開設が決まった頃に一時、横須賀市の行政・経済関係者の間で『第2の開国だ』と喜ぶ声が出た。やや大げさではあるが、1853年(嘉永6年)にペリーが横須賀の浦賀に来航し、日本の開国につながった歴史と重ねたくなるほど、地元の期待は大きいようだ。

(イメージ)

同市の人口は1990年代のピーク時の43万5000人から、現在38万人まで減った。首都圏でも高齢化率が高い都市の1つとされる。かつての主力産業、造船業も縮小した。そうした中、これまで「半島都市」ゆえに見落とされていた「物流」が地域経済飛躍のバネになってきた。

浜銀総合研究所の21年3月の調査でも、フェリーの経済効果として、市に入る港湾施設使用料や固定資産税のほか、関連の設備投資や旅客の個人消費、雇用創出などが想定されていた。

それだけではない。市がロードマップとして策定した「横須賀再興プラン」では「物流拠点の整備・利活用」を強く掲げている。同市のすぐ北で圏央道(首都圏中央連絡自動車道)を延伸させ、横浜横須賀道路につなぐ計画が進んでおり、神奈川県中西部や北関東へのアクセスが良くなる。市は横須賀IC周辺地区に物流関連企業の誘致を進めており、用地の開発・造成のためのインセンティブも検討中だ。港湾施設を充実させるため、新港ふ頭周辺の埋め立ても検討している。「九州と結ぶフェリーを起爆剤に、物流都市としての地位を一気に固め、地域経済に好循環を生み出していく」と、市港湾企画課の担当者は意欲を見せている。(編集部・東直人)