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「伝承」の危機/ドライバー日誌連載第3回

2023年5月11日 (木)

話題飲料水を収めた箱が並ぶ物流センターに朝日が差し込むころ、今日も配送員が黙々と軽バンの荷台に商材を積み込んでいく。台車に載せた箱を荷台まで運び、それを荷台に載せる作業を繰り返す。夏場になれば、午前中の配送だけで荷台は満載になるという。

一年生配送員である私も、こうした「職人」の群れに混じりながら、最初の積み込み業務に取り掛かった。手押しの台車の上に、箱を載せていく。2箱でワンセット、それを2組ずつ三重に積み上げていく。それくらいのハイペースで作業を進めないと、出発が遅れてその後の配送事業に支障を来すからだ。

(イメージ)

私が2段目を積もうとした時だった。一緒に作業をしていた先輩の配送員に声をかけられた。「その積み方では、箱が台車からすべり落ちてしまう可能性があります。やり直しです」

1段目に2セットを台車の進行方向と直角になるように積み、2段目も同じ要領で重ねようとしていた。いや、それは正確な表現ではない。「『台車にセットを積めるだけ載せればよい』と単純に考えていた」と言うべきだろう。

どう積むのが正解なのか。「1段目と2段目は交差するように向きを変えて積む」。これが正しい。そうすることで台車に積まれた荷物が安定し、発進や停止、段差などによる衝撃に耐えられる。その結果、顧客の荷物を台車から落とすリスクを最小限に抑えることができるのだ。

一定程度の経験がある配送員ならば、そんなノウハウは当たり前のことなのかもしれない。とはいえ、こうした現場で蓄積された工夫の大部分は、明文化されることもなく伝承されてきたのが現実だろう。

若手の採用が思うように進まず、高齢化が顕著な配送の現場。そこで起きようとしている危機の本質とは、まさにこうした伝承の「断絶」にほかならない。その現実に、初日から遭遇した私は、ともすれば幸運だったのかもしれない。(つづく)

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